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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-153 地下施設への攻撃


 雪は夜明けとともに治まって、雲の切れ間から朝日が地上を照らし始めた。

 眩しいことこの上ない。サングラスをかけていないと目が痛くなってしまう。


 地図を片手に、同じようにサングラスをかけたエミルさんが俺の隣に座って地上を眺めている。

 目標物があるはずなんだが、雪に隠れてしまっている。

 

 ミザリー達が朝食の準備を始めた頃になって、やっと町を見付けることが出来た。

 町中の人が雪かきをしている姿が、まるでアリが働く姿に見えてしまう。


「エメルディの町よ。南北の鉄道から、西に向かう鉄道の分岐点になるようね。この近くには外に分岐を持つ鉄道駅は無いから、エメルディで間違いなし。……リトネン、やはり南に流されてたわ。80ミラルというところね」


「現在地が分かれば問題ないにゃ。このまま西に向かうにゃ。丘陵地帯まではどれぐらいにゃ?」


「時速40ミラルなら2時間というところかしら。西に向かう線路を辿れば丘陵地帯よ。丘陵地帯にある町で今度は南北に線路が伸びてるわ」


「なら線路を伝っていくにゃ」


 線路沿いなら、町や村も確認できそうだ。どの村や町でもエメルディと同じように除雪作業をしてるに違いない。


 高度1000ユーデで西に向かって飛空艇は飛んでいく。

 何度か村を見付けたけど、やはり除雪に忙しそうだ。線路の除雪はしていないのだが、ファイネルさんによると、機関車に排雪板を取り付けて一気に除雪するらしい。


「1フィールぐらいなら、それで十分なんだが、2フィール近くなると軍隊が出てくる。昨夜の救援依頼は軍にも届いているんだろう。大隊単位で除雪作業に駆り出されるはずだ」


「鉄道を維持するのも大変なんですね」


「大量の資材を輸送するなら、今のところ船か鉄道だろうな。内陸は船が使えないから、鉄道輸送が全てだ。帝国の軍事施設が丘陵地帯に見つからない時には鉄道破壊が俺達の仕事になる」


 リトネンさんから何度も聞かされた話だ。 

 町の近くではなく、荒野の真ん中あたりを狙うんじゃないかな。

 線路破壊されても直ぐには分からないだろうからね。


「さて、そろそろ交代してやろうぜ。しっかり監視を頼んだぞ!」


「大丈夫ですよ。任せてください」


 ブリッジに戻ると、テレーザさん達が休憩に入る。タバコを吸わないミザリー達はブリッジ後方にあるベンチでお茶を楽しむみたいだな。


 銃座の下で下界を監視していたイオニアさんと交代したんだけど、休憩を取る前と全く景色が変わらない気がするんだよなぁ。

 どこも見ても銀世界だ。

 

 こんもりとした場所を見付けると、双眼鏡で詳しく眺めてみる。

 小さな森や、岡ばかりで人々の暮らす様子がまるでない。

 雪に覆われた線路がずっと続いているんだけど、雪の下に本当に線路があるんだろうか? だんだんと疑問がわいてくる。


「なにか見付けたか?」


「全く変化がありません。この辺りは荒野だと思いますよ。前回やってきた時も、大陸の南西部に荒野が広がってましたよね」


「開拓の余地がたくさんあるってことだろうな。それなら他国の侵略なんかしないで、自分の領内を開拓すべきだと思うんだが、上の連中の考えは俺達とはいつも異なるからなぁ」


 確かに広い土地だ。だけど開拓するうえで決定的に足りないものがある。川があまり無いんだよなぁ。

 川が無ければ湖でもあれば良かったんだろうけどね。

 さすがに水路を建設することは可能なんだろうけど、莫大なお金がかかるに違いない。

 結局は、他国を侵略して資材を手に入れるか、自国で産出するかを天秤にかけて戦に踏み切ったんだろうけど、その判断がきちんと国民に還元されているのだろうか?

 案外、一部の人達で配分しているのかもしれないな。



「前方に立ち往生した列車が見えます。距離はおよそ20ミラル。どうしますか?」


「居たの! 何度も救助信号を出してた列車かもしれないわ」


「発見されたくないな……。リトネン、高度を上げて雲に隠れるぞ」


 ファイネルさんの確認に、ブランケットから誰かの腕が伸びて手を振っている。リトネンさんだろうな。そんなに寒いのかな?

 飛空艇が高度を上げる。

 高度2000ユーデに達したところで水平飛行に移ったが、これぐらいの高度では防寒服はいらないな。


「これで少しは視認できないんじゃないかな。まあ、見つかったとしても、小型飛行船が結構飛行しているらしいから、飛行船と勘違いしてくれるだろう」


「機関車から煙が出てますよ。客車からもです」


「石炭を積んでいるし、客車にもストーブがあるはずだ。1、2日は何の問題も無いと思うんだがなぁ」


 立ち往生した列車の上を通り過ぎ、飛空艇はさらに西に向かって飛んでいく。

 昼前に町が見えてきた。

 多分あれが丘陵地帯を南北に結ぶ線路とこの東西を結ぶ線路の分岐点になる町なんだろう。

 エミルさんに町を見付けたと教えると、直ぐに俺の隣に腰を下ろして双眼鏡を取り出した。


「ラメイルの町ね。リトネンの計画では、この街から北上する形になるわ」


「了解だ。リーディル、西に延びる分岐を見付けてくれ。たぶんその先に隠匿工廟があるはずだ」


「了解です。町ではなく線路の分岐ですね!」


 古いブランケットを折りたたんで即席のベンチを作り、エミルさんと一緒に下界を監視しる。ゆっくりと飛空艇が高度を以前の高度に落としてくれたから分岐を見逃すことはないだろう。

 エミルさんは図番に挟んだ地図と下界を見比べながら、一の確認をたまにしているようだ。


 不思議な線路の分岐点を見付けたのは、北上して2度目の休憩を取った後だった。

 分岐点に小さな小屋があり、なおかつ無線のアンテナが立てられている。


「不定期にポイントを切り替える為でしょうね。だとすれば、西に隠匿工房があるかもしれないわ」


「見つけたら爆弾を落として帰るにゃ。ピクトグラフで証拠を写せば役目は終わりにゃ」

「そうそう、また渡されたのよね。今度は20枚撮れるらしいわ。新型みたいで、こうやってクルリと回してレンズを交換できるの」


 エミルさんが机の戸棚から、新しいピクトグラフを取り出して見せてくれた。レンズが3つ付いている。素早く回して、倍率を変えるのだろう。一番倍率が高いのは小型双眼鏡並みの解像度を得られるとのことだ。


「やはりアデレイド王国の方が技術が進んでいるのかもしれないな。俺達の方では、どうにか前のピクトグラフを作れたみたいだぞ」


「王国の規模が違いますからね。それはあまり考えないことにしましょう。現在は同盟関係を維持しているんですから、便利な品は俺達にも使えるんじゃないですか?」


「とは言っても、どんな品があるのかあまり分からないらしいぞ……。リトネン! 見えてきたぞ。どうやら地下施設になっているのかもしれん」


 ファイネルさんの言葉に、慌てて前方に視線を移した。

 遠くに数本の煙が立っている。まだ距離がかなりありそうだ。


「少なくとも地図には町らしいものが記載されていないから、隠匿施設に間違いなさそうね。でも何を作っているのかしら? 案外鉱山かもしれないわよ」


「直ぐに分かるさ。大型爆弾はどうする?」


「あれは空中軍艦用にゃ。爆弾4発と、砲撃2回で十分にゃ」


 物によりけりだと思うけど、リトネンさん達の脳裏には攻撃計画が出来ているらしい。でも、大型爆弾がまだ輸送されていないとはねぇ。

 あれなら1発で施設を破壊できそうに思えるんだけどなぁ。


 線路の先にあったのは、なんとも怪しげな施設だった。

 小高い丘にトンネルが掘られ、線路が先まで伸びているんだが、3ミラル先で線路が途絶えている。

 岡の近くに4つの大きな煙突があり、盛んに煙を吐いている。さらに近くの小さな煙突からは水蒸気が吹き上がっていた。


「撮影を終えたわよ。どう見ても鉱山では無さそうね。地下施設なんでしょうけど、広がりが分からないわ」


「あの煙突に落とせば良いにゃ。最後にトンネルの中に砲撃を放てば、しばらくの間は閉店にゃ。位置を教えれば後は飛行船が何とかしてくれるにゃ」


 巡洋艦の主砲で使用する砲弾を元にした爆弾が30発近く搭載できるらしい。まとめて落とせば地下に作られた施設の破壊も可能だろう。

 俺達の仕事は威力偵察ぐらいにリトネンさんは考えているに違いない。


「それじゃあ、始めるぞ!」

 

 飛空艇が爆撃高度まで高度を下げて巡航速度で煙突に近づいていく。ガクンと小さな衝撃が伝わったから、爆弾は問題なく飛空艇を離れたに違いない。煙突上空を通過して10秒程度過ぎたところで、後方から鈍い炸裂音が聞こえてきた。

 反転して上空を通過するのは、エミルさんが爆撃効果をピクトグラフに収める為だ。

 撮影が終了すると今度は東に進路を取る。

 トンネルへの砲撃ということになるから、急いで降下用のベルトを装着しておく。

 あの衝撃がどれほど治まっているのか、ちょっと信用できないんだよなぁ。


「軸線固定……。射角を変えられるから、2発撃てそうだ。こっちで勝手に砲撃を始めるぞ!」


「任せるにゃ。でも1発はトンネル内に撃ち込んで欲しいにゃ」


「了解だ! 皆、衝撃に備えてくれ!」


 エミルさんが慌てて俺の後ろに下がる。急ブレーキを掛けた感じになるから、俺の背中で衝撃を受けようなんて考えてるのかな?


 ズン! という音と共にぐらりと体が前に動く。続けてもう1度同じような衝撃が伝わってきた。

 振り返ってファイネルさんに顔を向けたけど、俺の顔を見て笑い声を上げているところを見ると、かなり変な表情だったに違いない。


「驚いたろう? 駐退機がきちんと作動すれば、こんな感じの鈍い衝撃になるんだ。これなら椅子から投げ出されるようなことにはならないからな」


「凄い機構なんですね。これも新発明ということになるんですか?」


「昔からある仕組みだ。飛空艇の着陸脚にも似た仕組みが付いてるぞ。衝撃緩和用にだいぶ前に作られたようだ」


 前回とはまるで違う衝撃だからなぁ。これぐらいならベルトで体を固定する必要も無さそうだ。

 進路を変えて、もう1度同じコースでトンネルに近づく。

 エミルさんがピクトグラフで撮影を終えれば今回の目的は達成できたことになるんだろう。


「まだ昼過ぎにゃ。元の南北線路を北に向かうにゃ!」


 爆弾は無いけど、砲撃は可能だ。

 大きな施設が近くにないとも言えないからなぁ。

 偵察を日暮れまで続けることになりそうだ。


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