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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-129 王女様がやってきた


「是非にと言っていたにゃ。お転婆な王女にゃ」

「ミザリーさんが乗船しているのを見て、自分でもと思ったのかもしれません。殿下は王女様には甘いので……」


 全員が同じタイミングで溜息をつくんだから、チームワークは抜群ということになるのかな。

 でも、仕事がないんじゃないか?


「ミザリーさんの隣で、通信機を担当してもらいます。通信士の資格を持っているようですから、ミザリーさんの負担も少しは軽くなると。私は砲塔区画でイオニア様と側面の監視をします」


「それなら、少しは楽になるかな。リトネンも諦めるんだな。とはいえ、万が一の場合は地上での戦闘もあり得るぞ。その辺りの装備はエミーさんが面倒を見てくれよ」


 そう簡単に撃墜されることはないだろうが、万が一のことはあり得るからね。

 エミーさんが、諦めたような顔をして頷いている。


「しょうがないにゃ。出発は明日の朝食の後にゃ。遅れてくるようなら置いていくにゃ」

「たぶん、早朝から食堂で待ってると思いますよ。そんなことには行動的なんですから……」


 エミーさんの言葉に、思わずミザリーと顔を見合わせてしまった。

 お茶会ではネコを被っていたに違いない。父親と一緒だったからかもしれない。まぁ、お転婆だったとしてもきちんと仕事をしてくれるなら問題はないんじゃないか?

 成るように成れ……、という気持ちでいた方が案外楽かもしれない。

 王女様であっても、飛空艇の中では単なる乗組員の1人として認識するしかないだろうな。


「アデレイ王国の通信士って、誰でも成れるの?」


「それなりの教育が必要です。王女様の場合は短期資格講習に参加して得たものです。通常は大隊本部の通信士ということになるんですが」


 さすがに王女様を前線近くに出すことは出来ないだろうな。今回は父親に付いてきたようだが、アデレイ王国の通信室で勤務していたのだろうか?


「本来なら侍女も付けたいところですが、飛空艇が小型であるということで侍女は付いてきません。身の回りのことは御自分でしなければなりませんが、本人も侍女から解放されると喜んでおりました」


「まぁ、侍女が付いてきても役目が無いからなぁ。ずっとブリッジのベンチで座り続けるのもかわいそうだ」


 さて、明日はどうなるんだろう?

 深夜まで王女様がやってくるという話題で騒ぎ続けたのは、俺達が庶民だからに違いない。


 翌朝。いつもの時間に食堂へと向かう。

 少し遅れた時間だから、食堂のテーブルの半数が空いている。

 朝食を戴いていると、「おはよう!」と言って俺の隣に座ったの女性がやけに小柄に見える。

 思わずかを向けた俺に、笑みを見せてくれたのは王女様だった。


「だいぶ遅い朝食ですね。准尉の階級で参加しますが、リトネン殿の傘下に入りますから階級は気にしないでください」


「こちらこそよろしくお願いします。ところでお荷物は?」


 王女様がエミーさんに顔を向ける。さすがに王女様に荷物を持たせるわけには行かなかったか。

 真新しい背嚢が置いてあるから、あれで全部ということなんだろう。くるくると丸めた毛布が背嚢の上に載っている。

 さすがに俺達が使った毛布ということは出来ないんだろうな。


 サンドイッチに野菜スープ、それとコーヒーが俺の朝食だ。ファイネルさんも同じだけど、ミザリー達はコーヒーではなくお茶にしているようだ。

 王女様もお茶のようだな。スープは飲まないみたいだ。

 

 食事が終わったところで、エミリさんが今日の偵察任務に就いて簡単に説明してくれた。

 基本は、前回の偵察区域より西に100ミラルほど移動した区域になる。

 今日は雲一つなく晴れているから、偵察は楽に思えるな。


「高度2000で第1巡航速度。拠点を出発したら一路西に向かって、今回の偵察区域に到着したら今度は北に向かうわ。前回と飛行経路はほぼ同じよ。

 出発後の拠点との連絡は緊急時のみ。通信機で帝国軍と例の連中の通信を傍受して頂戴。後者の通信が入ったなら、発信源を探るわよ」


 コーヒーを飲みながら、タバコを1本。

 ファイネルさん達も、食後のタバコを楽しんでいる。

 ブリッジは禁煙だからなぁ。砲塔区画はイオニアさんとエミーさんが監視をすると言っていたから、いつものようにはタバコが楽しめないかもしれない。

 高度2000ユーデはかなり寒いけど、上部銃座で一服することになりそうだ。


 コーヒーを飲み終えたところで、食堂を出て飛空艇へと向かう。

 王女様はミザリーと話をしているけど、どうやら飛空艇の動きに興味があるみたいだな。まさか動かしたいなんて言わないだろうな。ちょっと心配になってきた。


 ファイネルさんが伝声管に向かって、席に着いたことを確認している。俺は片手を上げて、シートベルトを付けたことを知らせた。


「全員の着座を確認。リトネン、出発するぞ!」


「それじゃぁ、出発にゃ! 発光信号で指揮所に伝えるにゃ」


「了解です。短点3つ……。長点3つを確認!」


 ミザリーが発光信報を送ったようだ。いつもはエミーさんがしてるんだけどね。


「『ジュピテル』起動……。2基のシンクロに異常なし。補助エンジン始動……。主エンジン始動……。エンジンの回転に異常なし。油音、油圧共に異常なし。

 飛空艇、発進!」


 ファイネルさんの指示でテレーザさんが操縦桿を操作する。

 ゆっくりと飛空艇が地面を離れ上昇し始めた。

 谷から出たところで、前進しながら西に回頭を始めた。

 今日は、晴れてるからなぁ。サングラスをバッグから取り出し、ついでに双眼鏡を銃架に掛けておく。

 さて、今日は何が見られるかな?


 飛空艇の速度を上げて、偵察開始地点に急ぐ。

 主翼のエンジンまで使うと燃料消費が激しいと、ファイネルさんに聞いたことがある。


「第2巡航速度より速度は上だ。偏在の速度は時速80ミラルだからな。昼前には偵察位置に向かいたい」


 夜間偵察では地上の様子が分からないということかな?

 リトネンさんが北に回頭を指示したのは、12時前だった。回頭した飛空艇が速度を落としたから、北の海を見るのは夕暮れを過ぎてからになりそうだな。


「穀倉地帯だからなぁ。軍の施設があるとも思えないんだが、確認は必要だろう」


「今日は、帝国の鉄道を見ることができるわよ。いくつかの線路がこの先で交わってるの」


 交易都市があるかもしれないな。となれば、軍の駐屯地があるかもしれない。

 どこまでも続く田園地帯だ。

 用水路と街道を見ることができるから、道に迷うこともないだろう。


「リーディル。一服しようぜ!」


「そうですね。エミリさん代わってくれますか?」


「ゆっくりしてきても大丈夫よ。今のところ特に何もないみたいだから」


 とは言ってもなぁ。30分ほど休んで戻ってくるか。

 ファイネルさんは先に行ってみたいだ。途中の給湯室でカップにお茶を注ぐ。

 砲塔区画に入るとすでに3人がお茶を飲んでいた。

 ファイネルさんの隣に腰を下ろして、タバコを取り出す。ハンズさんはまだ後部の銃座にいるみたいだ。

「今日は収穫無しだな。さすがに大陸の真ん中には宮中軍艦の拠点を設けないだろう」


「とは言っても、前回攻撃を受けた町の事もあります。拠点は無くとも飛行船と遭遇することは十分に考えられますよ」


 しばらく町を攻撃した手段について話し合ったけど、ファイネルさんは爆弾だとは思えないとのことだった。

 爆弾なら、炸裂孔がいくつか開いているはずなのだが、あの町に会ったのは大きな穴が1つだけだったからなぁ。


「どちらかというと大口径の砲弾に似ているように思えるんだが、あれだけ炸裂孔が大きいんだからなぁ。直径20イルム(50cm)はあるんじゃないか?」


「重砲でさえ口径は6イルム(15cm)だぞ。艦砲でさえ10イルムというところだろう。やはり爆弾と考えるのが筋だ」


「あの時に見た小型の飛行船では、町1つを破壊するような爆弾は運べないでしょうし、大型なれば帝国軍に見つかるんじゃないですか? それとそんな大きな砲弾を撃てる大砲なんてあるんでしょうか? 大砲なら射程は短いはずです。そんなに多き案大砲ならすぐに見つかってしまいそうですけど……」


 いろいろと考えてはみるんだが、あの破壊を行った方法が思い浮かばない。

 やはり飛行船から大型爆弾を投下したというのが一番考えられるのだが、それなら重砲の砲弾を加工した爆弾を沢山落とした方が良いと思うんだけどね。

 

 休憩を終えると、ファイネルさんと共にブリッジに向かう。

 今度はテレーザさんとミザリー達が休憩をするみたいだ。

 王女様もミザリーと一緒に出掛けたから、エミリさんが通信機の前に座っている。


 銃座に着いて、下界を眺める。たまに上空も眺めるけど、いつも飛行船が飛んでいるとは限らないからなぁ。


「今日は何もないにゃ。何かあったら起こして欲しいにゃ」


 リトネンさんは昼寝を楽しむみたいだ。ブリッジ後方のベンチで横になるのだろう。

 気苦労が絶えないみたいだからなぁ。艇長なんだから、いざという時の判断が適切にできれば良いのだろう。

 それにしても何もないなぁ……。


「だいぶ日が傾いてきたわね。西は太陽が邪魔してるけど、たまに見ないといけないわよ」


 足元から声がした。

 エミリさんがミザリーや王女様と一緒に、床に座って下界を眺めている。

 図番を抱えているエミリさんは地図を見ながら偵察コースがズレていないことを確認しているのだろう。

 ミザリーと王女様は風景を楽しんでるだけかもしれないな。


「こんな窓は初めてです。飛行船の窓は大きかったですけど、真下を見ることは出来ませんでしたし、上空もそれほど見上げることは出来ませんでした」


「飛行船なら、何か所かに見張り台が作られているのかもしれないよ。着陸時には絶対真下を見ないといけないもの」


 王女様の方がミザリーより年上のはずだけど、案外仲良くしているようだ。ミザリーは社交的だからね。誰でもすぐに友達になれる。


「あの煙の帯は?」


「汽車じゃないかな? お兄ちゃん、双眼鏡を借りるよ!」


 そう言うと、ミザリーが銃架に手を伸ばしているから、ストラップを銃架から外して手渡してあげる。

 ミザリーも持っているはずなんだが、オペラグラスみたいな奴だからなぁ。

 3人で代わる代わる覗いているみたいだ。


「装甲列車よ。ミザリー、リトネンを熾して頂戴!」


 装甲列車だと!

 後ろに手を出すと、直ぐに双眼鏡を返してくれた。

 左手に見える線路の先、およそ5ミラルほどの距離に蒸気機関車が2台で何かを引いている。

 貨物車のようにも見えるけど、何かごつごつした感じだな。


「どこにゃ?」


「左手の線路の先を見て! 装甲列車を自国内で運用しているというのが気になるわね」


 装甲列車は大砲や兵士を沢山乗せている。

 どちらかというと戦線近くに走らせるのが普通だよな。反乱軍に参加した当初は、軍用列車を襲撃したことがあるけど、どちらかというと兵員輸送車に近いものだった。

 だけど、あれは間違いなく攻撃的な車両だ。


「行先はどこにゃ?」


「このまま進めば、南北線と東西線が交わるこの町になるわね。帝国軍の拠点から、西に移動する最中なのかしら」


「そうでないなら、この町への攻撃にゃ。ファイネル線路から10ミラルほど離れて、少し高度を上げるにゃ!」


 西に向かうか、それとも町を攻撃するのか……。リトネンさんは様子を見守ることにしたらしい。

 だんだんと日が暮れてきた。

 装甲列車が町に到着するのは、夕暮れ時になるだろう。

 襲撃時としてはちょうど良いタイミングかもしれない。


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