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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-122次は西を調査するらしい 


「お兄ちゃん! ……あそこに何かいる」


 食堂のテントを出て、飛空艇に向かって歩いていた時だ。突然に、ミザリーが俺の手をぐいぐいと引いて、片方の手を100ユーデほど先の大きな石に腕を伸ばした。

 確かに何か動いてるな。肉眼ではよく見えないけど電気ネズミよりは大きそうだ。


「あれは岩ウサギだな。2本角は珍しいな」


「食べられるんですか?」


「旨いぞ。かなり狩っているんじゃないか? 食堂のスープにも肉が入っている時があったな。だが、狩の目的は肉ではなくてあの角なんだ」


 岩ウサギは小さな角を持っている。通常は1本だけど、2本を持つものもいるらしい。比率は10対1らしいから、極端に少ないわけではなさそうだ。

 その角の利用方法が分かってからまだ50年も経っていないそうだ。

 通信機の検波器に使われるということだから、よくもそんな使い方を見付けたものだと感心してしまう。


「どの王国も、動物が持つ不思議な部材を研究しているようだ。かつての王国にも3つの研究所があったのだが……」


 王都の2つの研究所は破壊されて、研究員達はどこかに連れていかれたらしい。生きていれば良いんだが、相手は帝国だからなぁ。非協力の判定を受けたら投獄されるか銃殺されてしまいそうだ。


「飛空艇の『ジュピテル』機関は、残った研究所で作られたものだ。切通の峡谷を抜けた先の山奥にあるから、帝国軍の手が及ばなかったんだろうな」


 今でも、いろんな部材の応用研究に勤しんでいるらしい。

 次はどんな品を世に出すのか楽しみだな。


「狩ろうとしてるみたい!」


 2人の兵士がクロスボウを持ってゆっくりと近づいている。果たして今夜のスープの具材が増えるかどうかは、あの兵士の腕次第だ。


 冷えてきたので、結果を見る前に飛空艇に入った。

 飛空艇の中はエンジンを切っても、冷えるまでには時間が掛かるようだ。防寒服を脱いでも十分に暖かい。


 夕食には間があるということで、ハンズさんとファイネルさんのチェスを眺めて過ごすことにした。

 ミザリーが気を利かせてお茶を淹れてくれたから、一服しながら2人の勝負を見守ることにしたのだが……。

 なかなか次の駒を動かさないんだよなぁ。1つ駒を動かすのに長い時では数分も掛けている。


 これは夕食を挟んでの勝負になりそうだと思っていると、飛空艇の扉が開いてリトネンさん達が姿を現した。

 懐中時計を見ると、2時間半というところだな。

 やはり報告に時間が掛かったようだ。


「結構時間が掛かったけど、ピクトグラフのおかげでちゃんと信じてくれたにゃ。後で褒美が出るみたいにゃ」


「さすがにワイン2本だけというわけには行かないようです。あれほど悩まされた空中軍艦を沈めたのですから、アデレイ王国としても隣国の英雄を称賛する必要があります」


 あまり高価なものを貰うと後が怖くなるなぁ。

 ファイネルさん達は嬉しそうだな。ミザリーはきょとんとしていたが、とりあえずお茶を出そうと給湯室に歩いて行った。


「もう1台ピクトグラフを渡されたわ。今後もよろしくと言ってたわよ」


「あの廟に付いては、指揮所でも話題になりました。小型飛行船で何度か様子を見るそうです。帝国の廟と考えるのは早計かもしれぬと陛下が仰っていました」


「次の作戦については?」


「空中軍艦の拠点を探してほしいそうです。期限は付けないとも……」


 居残り組の俺達が思わず顔を見合わせる。

 

「帝国軍の後方を襲撃するのは、アデレイ王国が引き続き実施すると言ってたにゃ。私達を招いた目的はやはり空中軍艦対策だったにゃ」


「まぁ、それは分かっていたつもりだし、そのための大型爆弾だ。だが拠点破壊となると、俺達だけでは無理なんじゃないか?」


 ファイネルさんの言葉にイオニアさん達が頷いている。

 拠点の規模にもよるだろうけど、飛空艇の搭載する爆弾は5発だからねぇ。

 拠点を破壊するには、飛行船を使わないと無理じゃないかな。


「いつも空中軍艦が待機してるとは限らないにゃ。見つけたら、それなりの攻撃で十分にゃ」


 とはいえ、どんな拠点になるのか想像もできないな。

 かつてイグリアン大陸の西の孤島に設けられた帝国の拠点よりは大きいんだろうけどね。

 係留施設と、大きな倉庫のような組立施設が一応の目安にはなるんだろう。


「そうなると、大陸の西の偵察は、小型飛行船では行わいということなんだろうな? 軍港から西南西が怪しいとなれば……」


 エミルさんがバックから地図を取り出して確認し始めた。

 そんなエミルさんの肩を叩いてリトネンさんがブリッジに向かう。ブリッジで皆で協議するってことかな?

 残った俺達3人は、取り合えず溜息を漏らす。

 元気な連中だと、ファイネルさん達も思ったに違いない。


「リトネンとエミルが索敵計画を立ててくれるだろう。どんな計画になるか分からないが、補給は明日中に行ってくれるそうだ。簡単な点検をドワーフ族にして貰ったが、特に異常はないと言っていた」


「結構銃弾が当たったようだが?」


「船底は1イルムの装甲版だ。簡単に穴は開かないよ。十数か所の弾痕があったが凹みも無かったからなぁ。銃座の防弾ガラスは外側のガラスにヒビが入ったが、貫通はしていない。予備は持ってきているがまだ使えそうだ」


 相手がゴブリン並みの小銃だったからなぁ。ドラゴニルであっても1イルムの装甲版を貫通することはできないだろう。

 銃座の防弾ガラスはさすがにドラゴニルの銃弾を何度も受けると破壊されそうだけど、帝国軍は対戦車ライフルを装備していないようだ。

 しばらくは相手の大砲だけに注意しておけば良さそうだな。


 ハンズさん達が始めたチェスの勝負を見守りながら、時を過ごす。

 ミザリーが砲塔区画にやってきて、お茶を俺達のカップに注いでくれた。


「地図に四角い区画を書き込んでいたよ。多分、その区画ごとにじっくりと調べるんじゃないかしら?」


「都市の占領計画みたいだな? 都市の地図を縦と横に線を引いて、区画ごとに敵が残っていないかを確認しながら前進するんだ。相手も同じように攻撃してくるから、うまく隠れる訓練も昔はやったんだぞ」

「5人いれば2人は隠れられる。そのために3人が死ぬまで抵抗することになる。都市の占領は上手くいった例がない」


 都市なら隠れる場所がたくさんあるってことだな。

 リトネンさんだったら絶対に見つからないんじゃないかな? なんといっても元盗賊だからね。


「完全に反乱軍を掃討できずに、王都の占領をしたから、今でも破壊工作がたまに行われているようだ。……捕まったら拷問されて死ぬことになるから、見つかったら自爆すると聞いたことがあるな」

「ああ、おかげで王都の住民も帝国を憎んでいる。反乱軍を見付けても知らんぷりをしてくれるらしいな」

 俺達も王都に出掛けた時には手榴弾を持たされたけど、そういう理由もあったんだな。

 今でもバッグに1個入ってるんだけど……。


 夕食の時間になると、女性達が砲塔区画にやってきた。

 出入口は砲塔区画の側面だから、ここに来ないと外には出られない。

 タラップを降りて、200ユーデほど歩くと食堂のテントだ。夕暮れの残照が西の空を染めている。

 まだ雨が降っていないけど、明日も良い天気のようだな。


 夕食を終えると、飛空艇に戻り砲塔区画でワインを戴く。

 リトネンさんが明日は休養を取ると伝えたところで、エミルさんがテーブル代わりの木箱の上に地図を広げた。

 なるほど、四角い枠が描かれている。


「帝国軍の空中軍艦の拠点がどこにあるかはっきりしないけど、少なくとも大陸東岸の山脈ではなさそうね。これはアデレイ王国の参謀達も同じ考えだったわ」


「ミザリーが方向を確認したんだろう?」


 ファイネルさんの言葉に、エミルさんが小さく頷いた。


「王子様が感心しててわよ。その直線がこれになるの。だけど、確実ではないわ。飛空艇のアンテナの指向性を使った探知だからかなりの誤差はあるのよ。飛行船も空中軍艦や飛行船の無電を傍受しながら、同じ取り組みをしてくれるらしいから、その内に大まかな範囲が特定できるでしょうけど、早く見つけたいらしいわね」


「アデレイ王国の小型飛行船を使って、西に150ミラルの範囲を南北に調べるそうです。飛空艇はそれより西を確認して欲しいと……」


 エミーさんが済まなそうに話してくれたけど、飛行船よりは飛空艇の方が機動性は高いからね。まあ、便利に使えると思ったに違いない。


「明後日から西に150から先を調べるにゃ。まずは西に向かい、北に進む、その後南に向かい大陸の南端で引き返してくるにゃ」


「2日は掛かりそうだな。燃料補給はして貰ったが、一応爆装もしていくんだろう?」


「見つけたら、とりあえず落としてくるにゃ」


 ファイネルさんの問いに、リトネンさんが即答してくれた。

 まぁ、そうなるよなぁ。


「第1巡航速度でなら、燃料消費もそれなりだから3日は飛べるはず。増槽は必要なさそうね」


「3日以上飛べるだろう。だが、偵察高度は下げたくないなぁ。一応2000を保ちたいところだ」


 飛空艇には与圧が無いからなぁ。飛行船の方は小型でも与圧されたブリッジと乗員区画があるらしい。俺達よりも高度を上げての偵察になるんだろう。

 与圧できない理由は噴進弾の装填や、銃座にあるらしい。

 飛空艇の攻撃力を落としてまで、高度を上げたいとはだれも思っていないようだ。


 とりあえずこの飛行計画に沿って、偵察を行うことになるんだろう。

 全員が双眼鏡やオペラグラスを持っているから、何かあれば互いに確認し合うことも出来るはずだ。

 ワインが尽きたところで、皆がそれぞれの場所でハンモックを吊る。

 俺は銃座の天井の補強鋼板に開いた穴を利用してハンモックを吊ることにした。

 ここで落ちたらかなり痛い目に合いそうだから、少し緩めに張ることでハンモックに体が包まれるようにした。

 とはいっても、急に起こされると体を起こす癖があるからなぁ。

 


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