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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-111 海賊だって?


 最初の攻撃を終えて5日が過ぎた。

 朝食後に、リトネンさん達は指揮所に向かい作戦会議に参加しているようだから、そろそろ次の攻撃計画が纏まるころじゃないかな。

 俺達もそろそろ退屈してきたところだ。片っ端から攻撃をしても良いんじゃないかなと思っているんだが、イオニアさん達に言わせるとそうではないらしい。


「無差別攻撃は、住民の反感を招く恐れが高いのだ。それはいつまでたっても終わらぬ戦を招きかねない」


「俺はリーディルに賛成なんだがなぁ。だが、町や村に爆弾を落とすのは問題だぞ。やるならあちこちの点在している帝国軍の基地を狙いたいところだ」


 ファイネルさんの話にハンズさんも頷いている。

 やられたらやり返すということではだめだということか……。


「それよりも、軍港に小型艦がかなり停泊していた。さすがにあの大きさでは俺達の大陸にやってきても役目はないが、新しい艦のようにも見えたぞ」


「俺も気が付きました。軍艦の半分以下ですよ。大砲も小さいようですし数もあまりなかったんですよね」


 そんな話に変わったとたん、皆が考え込んでしまった。

 あんな小さな軍艦の役目は、せいぜい周辺海域の監視というところだろう。艦隊が現れたら急いで逃げ出すんじゃないかな?


「爆撃で電信が中断してしまったけど、『海賊』がどうとか通信を送ってたよ。この大陸では海賊が今でもいるのかな?」


 ミザリーの言葉に俺達の顔がミザリーに向けられたので、本人は驚いているようだ。

 

「なるほどな……。海賊相手なら、あの小型艦が3隻も艦隊を組めば十分だろう。海賊は軍艦を持たない。多くは小型商船や漁船に小型の大砲を無理やり搭載したものらしい」


 俺達の大陸にも海賊がいたんだろうか?

 リトネンさんのような義賊もいたぐらいだからなぁ。王国が豊かな時代にはそんな裏家業をしていた人達も多かったに違いない。

 ということは、帝国もそれなりに豊かだということなんだろう。

 海賊が商売として成り立っているぐらいだ。


「絵本の海賊と違って、現在の海賊は貴族相手のイベント稼業になっているはずだ。改めて取り締まりを行うということは、貴族の自尊心をくすぐる良い仕事が無くなりそうだが?」


 今度は、俺とミザリーが互いに顔を見合わせて首を振る番だった。

 なんか、話がおかしい気がするんだよなぁ。


「リーディル達は知らないんだな。現代の海賊は昔と違って相手の船を沈めるようなことはしないんだ。

 盛大に大砲や小銃を撃つが、相手を狙うことはない。

 貴族のヨットに近づいて、停船させて乗り込んでくるらしいが適当に斬り合いをしたところで金の入った革袋を渡すと引き上げるらしい」


「貴族相手の海上劇団のようなものだ。場合によっては、海賊に自分達のヨットの航路を事前に連絡することもあると聞いたぞ。

 事前に大金を払って襲わせるというんだから、面白いだろう?」


「そんな時には、海賊の中でも剣の腕の立つ者が、胸に血糊を忍ばせてヨットに乗り込んでくるそうだ。貴族相手なら良いようにあしらえる。適当に服を切らせることぐらいはできるだろう。派手に血糊が噴き出すんだから、貴族の婦女子達はその貴族に注目することは間違いない」


 なるほどねぇ……。完全に劇団化しているようだ。

 でも、そうなると取り締まる必要なんて無いように思えるんだけどなぁ。


「楽しそうね……。平和になったら兄さんも一緒に参加しようよ!」


「確かにおもしろそうだ。だが、それで軍が動くというのが気になる。貴族とつながる海賊はかなりの数らしいが、全てが軍に掌握されているし、場合によっては事前に軍に届けも出すようだ。

 となると……。興行海賊ではない、本物の海賊ということになるかもしれんな」


 帝国へ牙を向けるのは俺達だけではないということか……。

 帝国内部の反乱者に海賊、それに俺達ともなると、この大陸の治安維持だけでもかなりの兵力が必要になってくるに違いない。

 ますます俺達が有利になってきそうな気がしてくるなぁ。


「帝国の施政に反感を持つ者達がそれなりに存在するようだ。今のところは連携すらしていないように見えるが、今後はわからんな」


 破壊工作をしているようだけど、それほど大きな被害を出してはいないんじゃないかな。

 1人が持てる爆弾の量は限られているし、多人数での行動は見つかりやすいからね。

 せいぜい、帝国内をかき回してもらおう。

 それによる結果は、俺達にとっても利があるように思える。


 砲塔区画でお茶を飲みながらの会話を楽しむ。

 エミリさんへの野望を抱いた、ファイネルさんとハンズさんのチェスをイオニアさんとミザリーそれに俺の3人で眺めているんだが、何となく俺にも駒の使い方が分かってきた。

 砦に戻ったら1つ買いこんでミザリーと一緒に楽しめそうだ。


「これで、チェックメイトだな。5勝4敗になるぞ」


「まだまだ時間はたっぷりあるんだ。高級ワインを忘れないでくれよ」


「今の内に頼んだらどうだ? この先も俺に分があるように思えるんだが……」


「何を!」と言いながら、再びファイネルさんが駒を並べ始めた。

 負けず嫌いってことかな? そんなⅡ熱くならなくても良いと思うんだけどなぁ。


 砲塔区画の内扉が開いて、リトネンさん達が入ってきた。

 急いでファイネルさん達がチェスを片付けると、エミリさんがチェスの盤を載せていた木箱にバッグから取り出した地図を広げた。

 皆が揃っているから、ここで作戦の説明を始めるのかな?

 ミザリーが急いでお茶の用意をしに行ったけど、早く戻らないと聞き逃してしまいそうだ。


「今度は単独での作戦にゃ。アデレイ王国の飛行船は街道の破壊を行う見たいにゃ。足の速い小型の飛行船は王都周辺の駐屯地を夜間爆撃すると言ってたにゃ。

 私達は、この駐屯地を狙うにゃ!」


 リトネンさんが指さした場所はここから西南西に1千ミラルほど離れた場所だった。

 西の山脈のふもとに広がる広大な大地のようだが、周辺に全く町が描かれていない。

 

「かなり大きな駐屯地ですね。演習場でしょうか?」


「演習場だとしても50ミラル四方もあれば十分じゃないのか? 周辺の町とは少なくとも200ミラルは離れている。

 帝国の試作兵器の試験場ってことかもしれんな。だい2巡航速度なら16時間ってところだが、燃費を考えると代巡航速度以下で行きたいところだ。およそ30時間だろうな」


「今度は、せっかくだから大型も落としてみるにゃ。でも試作兵器の試験場なら、案外空中軍艦がいるかもしれないにゃ」


「そうなると、航路も問題よねぇ……。飛空艇の作戦行動半径ギリギリでしょう? 燃料の消費を抑えるとしても、増槽は積んでいかないんだから。

 こんな感じでどうかしら?」


 エミルさんが地図に鉛筆で書きこんだコースは、駐屯地への攻撃時にはここから真っ直ぐに飛んで、攻撃終了時に西の峰に向かうというものだった。


「峰を1つ飛び越えた先で、南に進路を取り、その後東に向かう感じかな。300ミラルほど長くなるけど、そのぐらいは何とかなるんでしょう?」


「ああ、問題ないぞ。尾翼のエンジンだけを低出力で動かして飛ぶからな。巡航速度は攻撃時と撤退時ぐらいなものだ。

 だが、万が一帝国軍の空中軍艦がいたなら、兵舎に爆弾を素早く投下して、空中軍艦を相手にするぞ。

 大型爆弾を投下して、後は最大速度で振りきれば俺達を見失うに違いない」


「噴進弾は装填しないで出撃するにゃ。駐屯地を見てから使う噴進弾を選べば良いにゃ」


「遅延信管が付いた噴進弾だな? 0.5秒遅れるから、内部炸裂が期待できそうだ」


 そうなるとヒドラⅡ改の銃弾も、目的地に着いてからの選択にしておいた方が良さそうだ。

 炸裂弾の先端部の厚さを増した炸裂焼夷弾を用意してきたからなぁ。

 名ばかりの徹甲弾だと、イオニアさんは言っていたけど、そもそも軍艦の装甲を打ち抜くのはヒドラⅡ改では無理なんじゃないか?

 装甲の薄い部分を狙ってみれば、案外良い結果を残せそうな気もするんだけどね。


「目標までの飛行に30時間かかるとなれば、昼食を終えたら出掛けるにゃ。エミーには食料の補給をお願いするにゃ。リーディルは水の確保にゃ」


「「了解!」」


 俺とエミーさんが同時に答える。

 俺達に、ミザリー達も頷いてくれてるから、運ぶのを手伝うのかな?


「さあ、準備にゃ!」


 リトネンさんの指示で、給湯室に向かう。

 30パインの真鍮の水を入れる容器を2つ持って外に出ると、ハンズさんが1つ持ってくれた。

 

「水はどこで汲むんだ?」


「あのテントです。雪解けの流れ近くに井戸を作ったみたいですよ」


 生水だから、そのまま飲むことはない。

 お茶やコーヒーにして飲んでいるんだから、お腹を壊すことはないだろう。


「今度の作戦が終わるころには、飛行船が荷を運んでくるはずだ。果たして資材だけなんだろうかと考えてしまうよ」


「兵士も運んでくると?」


「ああ、案外帝国内の後方攪乱を考えているんじゃないか? 俺達の爆撃だけでは帝国の国力の前には微々たるものかもしれない。

 町や都市を破壊することをしないのは、爆撃ではどうしても被害半径が広がると思っての事だろう。

 地上部隊なら、都市の重点目標を選択して破壊できるからな」


「攻撃と撤収を素早く行わないと、こちらの被害が大きくなりかねませんよ?」


「ああ、次の便には自動車を運んでくるはずだ。2個中隊にはなるんじゃないかな」


 2個中隊……。多分2つの部隊に分けての運用になるってことかな?

 歩兵だけとは限らないだろうな。多連装噴進弾発射装置を搭載した自動車や、さらに目標を点で狙える大砲を積んだ自動車だってやってきそうだ。

 

「1か月後が楽しみですね」


「ああ、かなり暴れられるぞ。今回の攻撃で空中軍艦を見なくとも、地上部隊の活躍が始まれば間違いなく空中軍艦が出てくるに違いない」


 いったい、帝国には空中軍艦が何隻存在するんだろうか?

 1対1なら良い勝負ができそうだけど、何隻も出てくるとなれば考えてしまうな。

 

 運んできた水の容器を給湯室に運び終えると、外に出て一服を楽しむ。

 ファイネルさんとテリーザさんが荷物を運んでくるのが見えたが、結構大きな荷物だな。

 タバコを踏み消すと、2人のところに向かって歩いていく。

 ファイネルさんはともかく、テリーザさんの荷物は持ってあげないと……。


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