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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-103 グラウド大陸が見えた


 順調に船団はグラウド大陸に向かって進んでいる。

 高度2000を維持して進むのがちょっと辛いところがあるから、1500まで降下して船団と並走しているのが現状だ。

 

 船団の旗艦とは9時と18時に定時連絡を送り、飛空艇に問題がないことを告げる。

 船団と合流した翌日の朝に、噴進弾発射機の両側に増設した増槽を投下した。

 尾翼の補助エンジン2つとも、巡航時の半分ほどの回転速度だからかなり燃費を節約できるみたいだ。

 ファイネルさんの話では、艇内の3つの貯槽の内、2つは手を付けずに済むらしい。

 エミルさんは増槽を増やさずに済んだんじゃないかとまで言っていたけど、余力があるのは良いことだと思うけどなぁ。


「だいぶ上手くなってきたな。さすがにハンズは操縦したいとは思ってないようだが?」


「隣にファイネルさんがいるからですよ。それにほとんど真っ直ぐですからね」


「ああ、だがそういう状況だと、居眠りをしそうだからな。30分でもリーディルが変ってくれると助かるよ。テレーザも女性達と一緒になって操縦しているぞ。この間はリトネンが座っていたからなぁ」


 ファイネルさんの話を聞いて、2人で顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 あまり操縦させたくないところだ。車と同じでかなり無茶な機動をするリトネンさんが容易に頭に浮かぶんだよなぁ。


「砦との通信を終了しました。砦の方から『当方に問題なし』と返信がありました」


「了解にゃ! 砦を出て4日目だけど、まだ通信はできるみたいにゃ」


「出力が10倍ほどになってますから、山の影になると通信はできないでしょうけど、上空ならグラウド大陸からでも可能かと」


 双方ともに通信機の出力を上げたのが良いみたいだな。

アデレイド王国軍の方はどうなんだろう? ちゃんと本国と通信をしているんだろうか?


 その日の夜の旗艦との交信で、午前0時を持って無線封鎖を行う旨の連絡がやって来た。

 しばらくは砦との通信ができないことを伝えると、ミザリーが小さなライトをバッグから取り出してベルトに吊り下げている。

 四角い箱型のライトだけど、上部に電鍵のようなスイッチが付いている。

 投光式通信機以外に、もう1つ用意しておくのだろう。


 0時まで俺が操縦桿を握り、テレーザさんとイオニアさんに代わる。

 ミザリーはブリッジ後方のベンチで寝息を立っている。


「朝まで休ませてもらうよ。何かあったら起こしてくれ」


 フェイネルさんがテレーザさんに告げると、俺と一緒に砲塔区画に向かう。

 直ぐに寝るわけではなく、先ずはワインとタバコを1本。

 

「帝国の輸送艦隊ぐらい見掛けると思ってたんですが……」


「それだけ、海は広大だということなんだろうなぁ。少なくとも見付けられるとすれば、こっちが先になるはずだ。その時には、更に上空に上がるんじゃないかな」

「3000ユーデはきついですよ」


「戸締りをして吸気量を増やすことになるだろうなぁ。少しはマシだろうけど、長時間は無理じゃないかな」


 ファイネルさんの話では、空気が薄くなるらしい。

 ピンと来ない話だけど、山岳猟兵の訓練ではたまに頭痛や吐き気を訴える者もいるということだ。

 その多くが、高度2500ユーデ以上の山で起きているらしい。


「対策はゆっくりと登ること、それと直ぐに下山することかな? 気圧計を搭載したから、なるべく2000ユーデを越えないように気圧を制御できれば良いんだが……」


 結構、色々と考えているようだ。

 小さな船内だから、あまり機材を詰め込めないのが問題らしい。前部機銃座のヒドラⅡ改とガラス窓の間に革を張ってあるのは、単なる風除けと寒さ対策だけではないってことなんだろう。

 

 さて、ハンモックで横になろう。

 結構横幅のあるハンモックだから、乗ると周囲の布で体が包みこまれる。

 4つ折りに下毛布を敷いてあるから、ベッドより柔らかな気がするな。あまり疲れてはいないけど、エンジンの振動が心地良い。

 目を閉じると、直ぐに睡魔が襲ってきた。

               ・

               ・

               ・

 5目の昼過ぎのことだ。ついにグラウド大陸の東岸が見えてきた。

 遥か彼方に明らかに海と異なる黒い凸凹が見える。たぶんあれがグラウド大陸の東に連なる大山脈ということになるのだろう。


「大陸は見えたけど、拠点となる場所はどの辺りかまるで分からないわね」


「それでも、海ばかりの景色に飽きてきたところだ。とはいえだいぶ遠くなんだろう?」


「少なくとも200ミラルは離れているんじゃないかしら? 今夜の定時連絡は少し変わって来るかもしれないわね」


 双眼鏡で俺の足元で観測しているエミルさんが呟いた。

 さて、真っ直ぐ行くのか、それとも左右どちらかに回頭するのか……。

 岸辺に帝国の漁村が無いとも限らない。

 一応、飛行船で爆撃に行ったみたいだから、その辺りの様子はわかっているんだろうけどね。


「巨人の右足を南に進んで、その後に西を目指したのよね……。となると、この辺りに到着することになるのかしら? 川と大きな沼地があるみたいね。平野部が少ないから人は住んでいないようね」


「大山脈が邪魔をしてるかもしれないにゃ。漁船がいるかもしれないから注意は必要にゃ」


 前部銃座から移動したエミルさんが図番に挟んだ地図をリトネンさんと眺めている。

 南中時の太陽高度と時刻差を計算すると、飛空艇の位置の概略を掴めるらしい。

 飛行船の方でも、誰かが専従して行っているんだろうけど、全ておんぶにだっこではねぇ……。エミルさんがそんな特技を持っているんだから驚くばかりだ。

 

 テレーザさんと操縦を替わったファイネルさんと一緒に、砲塔区画に向かい休憩を取る。

 ハンズさんは上部砲塔に登って、大陸を眺めたらしい。

 ようやく着いたということで、俺達の表情も明るくなる。


「今日の夕刻か、明後日の朝にはグラウド大陸に拠点を作れそうだな。長い航海だったがどうにか終わりそうだ」


「いよいよ帝国の領土で暴れられるな。2回出撃するだけの燃料と弾薬を積んできてくれてるらしい。それに、拠点設営機材を下ろしたら直ぐに飛行船2隻は帰還するらしいからな。夏至まで派手に暴れてやるさ」


「そうなると、前回の爆撃後の偵察状況が気になりますね。爆弾を落とすなら、なるべく工廟を狙いたいところです」


「かなり分散しているらしいんだよなぁ……。とは言っても、何カ所か破壊知れば直ぐに派遣部隊は戦線を縮小せざるを得ないだろうな」


 ファイネルさん達が美味そうに飲んでいるのは、ブランディーじゃないのか?

 コーヒーかと思っていたんだが、何時の間にか酒を飲み始めてしまった。

 それも、少し分かる気がするな。

 長い航海だったからねぇ……。


 夕食を早めに食べ終えると、ミザリーがエミルさんの横にある窓から、船団の旗艦に目を向けている。

 18時の定時連絡を心待ちにしているようだ。

 隣の席ではエミルさんがメモを書き留めるべく準備してるんだけど、まだ5分も前なんだよなぁ。


「連絡が来ました……。『「ひ」・「だ」・「り」・「1」・「5」・「ど」・「か」・「い」・「と」・「う」……』」


「『左15度に回頭する。隊列を維持せよ。拠点到着予定1030時』以上です!」


「了解にゃ。『指示を了解』と伝えて欲しいにゃ!」


 エミルさんがメモを読み返すと、リトネンさんがミザリーに指示を出す。

 発光通信機をカチャカチャ言わせながら連絡を送ると、ミザリーがこちらに顔を向けた。


「着信確認を受け取りました」


「ありがとうにゃ。今日の仕事はここまでかにゃ。ベンチで横になってても良いにゃ」


 まだ早すぎないか?

 リトネンさんに軽く頭を下げて通信機の前に戻ったミザリーは、バッグから毛糸球を出して編み物を始めた。

 


「先頭の飛行船、左回頭を始めました!」


「了解にゃ! テレーザ、ちゃんと付いていくにゃ」


「了解!」


 今度は西南西に向かって進み始めた。

 明日の10時過ぎには拠点の予定地が見えて来るってことだけど、まだ夕暮れも始まっていないんだよなぁ。

 

「前方に見えるのは、川の河口のようだ。左手奥に見えるのが沼になるんだろう。かなり大きいな。あれでは湖と呼んだ方が良いんじゃないか?」


「あれね! 目印ってことのようね。あれなら上空から良く見えるわ。ここで15度の回頭をしたってことよね。それから16時間程度の距離となると……。この辺りのようね。

 近くの村まで100ミラル以上離れているし、道もなさそうね。問題は敵の飛行船と空中軍艦ってことかしら」


 エミルさんの地図を見ると、かなり標高のある山の中腹よりも上だ。標高は2000mを越えてるんじゃないかな。

 冬はかなり厳しい寒さに見舞われるだろうけど、帝国軍の監視を逃れるには都合が良いってことのようだ。


「これって、かつての氷河跡かもしれないわね。大きなU字形の谷底はかなり平坦だと聞いたことがあるわよ」


「氷が大地を削るためらしいぞ。白い布を張れば残雪に紛れることもできそうだ」


 イオニアさん達の会話は良く分からないけど、見つかり難いならありがたいことだ。


 テレ―ザさんに代わってファイネルさんが操縦を行う時には、隣の操縦席に座らせてもらう。たまに操縦桿を握らせてもらうんだけど、真っ直ぐ飛ぶだけだからね。

 それでも、前部銃座の窓枠に左を進む飛行船の船首を一定に保つのに緊張してしまう。

 

「そんなに緊張しないで、肩の力を抜いたらどうだ? 隣とは500ユーデほど離れているし、この速度だからなぁ、舵を取りそこなっても直ぐにはぶつからないよ。それに危なくなったら、このレバーを少し下げれば飛空艇の高度が下がるんだ」


 呆れた表情で俺を見ているファイネルさんだけど、俺にとっては真剣以外の何物でもない。

 今夜は風があるらしく。油断していると流されてしまう。

 もっとも、右手に流されるから危険は少ないのだろうけど、飛行船の連中によたよたした操縦を見せたくない。


 何度、操縦桿を握っても慣れることは無いんだよなぁ。

 たまにミザリーも操縦桿を握れせて貰っているようだけど、俺ほど緊張しないのかなぁ。

 テレーザさんとおしゃべりしながら操縦しているんだよね。


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