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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-100 出発日が決まった


「西に向かう時には6日掛かるらしいが、帰りは5日で良いらしいぞ」


「高度6000ユーデに強い西風が吹いているらしいの。それに乗って帰ってくるんでしょうね。でも1か月の作戦行動よ。エンジンが6つ付いているのも何となく理解できるわね」


 順調ならアデレイ王国を飛び立った大型飛行船は、帝都の爆撃を終えて帰投しているに違いない。

 まだ俺達の所まで知らせは届いていないけど、アデレイ王国の王宮には連絡が届いているんだろうな……。


「帝国の軍需工場や軍の駐屯地の場所が分かれば、いよいよ俺達にも出撃指示がやって来るんだろうな」


 冬だから狙撃訓練を早々に終えると、俺達の部屋でのんびりとお茶とタバコを楽しむ。

 ミザリーはテレ―ザさんと一緒に小さなストーブの近くに腰を据えて編み物をしている。今度は、母さんのセーターみたいだな。


「案外、帝都爆撃を継続するかもよ。こっちも散々やられたんだから、少しは反省してくれると良いんだけど」


「反省するぐらいなら、海を越えてこの大陸まで攻め込んで来ないだろうよ。全く、困った連中だよなぁ」


 ドワーフ族の連中に無理を言って大型爆弾投下装置を砲塔区画に設けたけど、垂直落下方式を使うから、砲塔内に直径15イルム(37.5cm)長さ2ユーデの円筒収納庫が設けられた。

 爆弾固定用のバンドホルダー2個を外せば、上部の爆弾保持器を開放することで投下できるとのことだ。

 大型爆弾を搭載しても、前翼に口径4イルム砲弾を加工した爆弾を4つまで搭載できるらしい。

 それにしても、直径14イルム(35cm)全長1ユーデ半(135cm)重量500パイン(250kg)の爆弾だ。炸薬量だけでも300パイン(150kg)もある化け物としか言いようがない爆弾だ。

 これなら、戦艦を大破することもできそうな気がするな。


「結局飛空艇は、多目的戦闘艇になってしまったわね」


「しかたないだろうな。爆撃もできる、攻撃もできるとなると、どうしても欲が出る。あの小さな飛行船なら爆撃しようなんて考えもしないだろう」


 エミルさんの呟きに、ハンズさんが頷いている。

 輸送船相手なら、爆弾は必要無いんだろうけどねぇ。帝国軍の陣地を爆撃するとなれば小型爆弾を沢山積んでいきたいところだし、軍艦相手となれば今度積み込むことになった大型爆弾ということになる。

 

 やはりもう1隻欲しくなるなぁ。だが、かなり費用が掛かるらしいから、俺達で頑張るしかないってことになるんだよなぁ……。


「やはり、試験爆撃をしたいところだな。リトネンはそれをクラウスと相談してるんだろう?」


「とりあえず3発作ったらしいから、慎重に使いたいということなんじゃないの? 狙いは戦艦ということになるんでしょうね」


 貧乏くさい話だけど、それが俺達の現状でもある。

 湯水のように戦力を送り込んでくる帝国とは比べられないんだが、大型爆弾で帝国の戦艦を大破できるなら費用対効果が優れた兵器となるんだろう。


「来春には、新たな潜水艇ができると聞いたが?」


「噂ではないみたい。3隻を配備すると聞いたわ。背中に機雷を沢山積んで、港を封鎖する作戦らしいわよ」


「機雷か……。あまり積極的じゃないが、潜水艇の速力はたかが知れてるし、外洋での作戦が難しいらしいからなぁ……」


 ファイネルさんが首を振りながら呟いている。

 1度全滅させられたから、積極的な行動をとれないみたいだ。

 速度が短時間だけでも、軍艦よりも出すことができるなら良いのだろうけど、性能の良い蓄電池やモーターはまだないのだろう。


「まだまだ防衛戦が続くだろうな。だが山の拠点から、この砦に移れたのだ。次は王都周辺の町や村を少しずつ開放すればいい」


「尾根の先端にも監視所が出来たからなあ。リーディルが暮らしていた町には、すでに帝国軍はいないんじゃないか?

 一歩ずつ確実にが理念らしいが、当初から比べるとだいぶ押している気もするなぁ」


 確かに帝国軍の占領地帯が小さくなっている。

 王都周辺の100ユーデ、尾根の西……。そんなところんじゃないかな。

 だけど、油断をしてると足元をすくわれかねない。

 まだまだ帝国軍の戦力は我々の10倍を遥かに超えている。

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 初雪の中、帝国軍の軍艦を狙って出撃することになったのだが、生憎と見付けたのは巡洋艦と呼ばれる軍艦のようだ。


「スマートな艦影だろう。あれなら、今回の爆弾を使うまでもないんだろうけど」


「横幅が狭いですねぇ。当たりますか?」


「至近弾でもそれなりに被害を受けるだろう。せっかく来たんだからなぁ……」


 結果的には、轟沈だった。

 装甲厚が4イルム程度らしいから、重量物の落下で日々が入ったのかも知れない。そこに0.5秒遅延信管が作動したから、炸裂時の暴力的な力が艦を真っ二つにしてしまった。

 ファイネルさんは砲弾庫に直撃したのかもしれないと言っていたから、あの大きな爆弾の力だけでは、艦が2つになるようなことは無いのかもしれない。


 とりあえず爆撃の照準は問題なさそうだ。

 燃料を節約するということで、しばらくは出撃を控えるらしい。


「年が明けて直ぐに、アデレイ王国の作戦本部にクラウスが向かうらしい。どうやら例の飛行船の偵察結果を確認するようだ」


「我等に援助して貰ったこともある。渡航作戦への参加の表明と指揮系統の確認だろう。まともな軍人なら良いのだが……」


 部下が増えるにつれ、鼻持ちならない人物に替わる者もいるらしい。

 かつての王国軍の上級士官達が良い例だと、ハンズさんが吐き捨てるような口調で呟いた。

 自分達の安全だけを考えて早々に降伏したらしいからなぁ。かなり煮え湯を飲まされたに違いない。


「俺達の上官が、リトネンさんですからねぇ。気に食わないと勝手に色々やりだしそうです」


「そこは上手く、手綱を握らないといけないだろうな。エミルに頼んでおくよ」


 女性達は俺達の何時もの部屋でおしゃべりに興じているから、俺達はサロンでワインを飲みながらタバコを楽しむ。

 たまには男だけでのんびり過ごすのも良いものだ。


「ところで、ファイネルの噂を少し耳にしたんだが……」


 ハンズさんの言葉に、ファイネルさんがギョッとしたような顔をして、俺達から目を逸らした。


「ど、どんな噂だ?」


「たまに砦の外で、散歩をしているということだが……」


「俺に似たイヌ族じゃないのか?」


 苦しい弁明に、ハンズさんがニヤリと笑みを浮かべる。

 それ以上の追及はしないってことだな。なるほど、それが大人の思いやりってことかもしれない。

 でも、ファイネルさんがねぇ……。

 ミザリーなら、もっと詳しく知ってるかもしれないな。たまに友人と一緒に遊んでいるみたいだからね。

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                ・

 年が明けて、クラウスさんは東へ向かう汽車に乗っていった。オルバンも一緒のようだから、すっかり副官が板についてきた感じだ。

 果たしてどんな情報を俺達に運んでくれるんだろう。

 とりあえず待つしかないな。


「いよいよ……、って感じね。あの屈辱から何年過ぎたのかしら?」


「リーディルの歳の数と同じよ。20年は過ぎてるわ」


 その悔しさを知っている連中が、反乱軍の中枢にいるうちに何とかしないといけないんだろうな。

 記憶が薄れて行けば、それを日常として認めてしまいそうだ。

 父さんが生きていた子供時代よりも前の話となると、俺にはピンと来ないところもある。

 だけど、税の軽減を嘆願しただけで、首を刎ねるような施政者ではどうしようも無い。

 解放されたあかつきには、反乱軍が中心になって施政を進めていくんだろう。

 また町に戻って猟師で生活できれば良いんだけどね……。


「それで、西の戦線はどうなったんだ? かなり爆弾を落としているし、補給だって滞りがちのはずだが?」


「俺達の考えでは、帝国の力を計ることなどできない感じだな。後から後から送り込んでくる。戦力差は10倍ぐらいに思っていたが、100倍はあるかもしれん」


「やはり中枢を破壊することになるんでしょうね……」


「帝国の指導者を挿げ替えねば変わらんかな?」


「皇帝を倒しても、変わらないんじゃないかしら? 皇帝だけで政治を全て行うなんて、とても無理だもの。

 たぶん、能力のある人物が周辺にいるんじゃないかしら? その連中も根絶やしにしないと、いつまでも続く様な気がしてならないわ」


 皇帝を倒すだけでは駄目だということかな?

 何か難しい話になりそうだけど、帝国内の民衆は幸せに暮らしているんだろうか? 

 帝国領内の人民が一丸となって……、なんてことになれば、この戦は終わりがないのかもしれないなぁ……。


 10日程、アデレイ王国に滞在してクラウスさんが帰ってきた。

 アデレイ王国の滞在は5日だったらしいが、その後で東の砦に上層部が集まって今後の対応を協議していたらしい。

 砦に戻っても砦内の関係者と連日のように協議を重ねたらしく。俺達の部屋にやって来たのは1月の半ばを過ぎていた。


「グラウド大陸の帝国を直接攻撃する作戦に、俺達も参加することになった。

 リトネン以下の部隊になるが、飛空艇なら十分に共闘することができるだろう。

 補給物資は大型爆弾を含めて、アデレイド王国の大型飛行船で運搬する計画だ。

 小型輸送船並みの運搬が可能だそうだから、春分から夏至までアデレイド王国軍に参加して欲しい」


「派遣軍の構成と指揮系統はどうなるにゃ?」


 リトネンさんの問いに、オルバンがバッグから数枚の書類を取り出してクラウスさんの前に置いた。


「これが編成で、こっちが指揮系統だ。リトネンは遊撃部隊として独自に動くことができるが、目標については指示があるはずだ」


「期間が長いのは、拠点を作るということになるのかにゃ?」


「地図を持って来てくれ。グラウド大陸が載ってるものだ」


 クラウスさんの言葉に、テレーザさんが地図を取り出してテーブルに広げる。

 

「グラウド大陸の東にある山脈に拠点を作る。専攻偵察で見つけた場所は、おおよそこの辺りだな」


 帝都までは500ミラルほどありそうだ。

 かなり標高もあるらしいが、春分を過ぎているなら少しはマシってことかな?


「軍需工場とも言える工房群は、帝国領内に広く分散しているらしい。アデレイド王国も小型飛行船を使って襲撃部隊の送迎を行うと言っていたな」


「それと、これがグラウド大陸のもっと正確な地図になる。ドワーフ族の一団を連れて行くということだから、飛空艇の点検修理もお願いしてきた」


「出発は春分の日で良いのかにゃ? それと集合地点時刻は?」


 それは準備出来次第ということらしい。

 少なくとも1日前には欲しいところだな。

 拠点を作ると言っても、簡単なテント小屋らしいから、俺達は飛空艇内で寝起きしよう。

 食料も10日分ぐらいは持って行った方が良さそうだ。

 それにしても、6日掛けて海を渡ることになるのか……。

 何となく笑みが浮かぶんだよなぁ。

 不謹かな? と思って周りを見ると、皆が笑みを浮かべて地図を眺めていた。


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