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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-092 長距離攻撃に出掛けよう


「直線距離なら600ミラル程度なんだけど、海上を400ミラルほど飛ぶのよ。ちょっとでも方向がズレると、島を見付けるのは難しいわ。

 そこでアデレイ王国のこの尾根を基準にして飛ぼうと思うの。上空1500ユーデなら数十ミラルほど離れても航路を保てるわよ」


「残りは2500ミラルってことか……。コンパスから目を離せないな」


「前方の監視はリーディルだけでなく、私とハンズで交代しながら上部銃座からも行おう。監視の目は多い方がいい」


 地図を頼りの航行ってことだな。直線で飛行することにならないから200ミラルほど距離が延びてしまう。

 外部に燃料貯槽を持たないと帰ってこれなくなりそうだ。

 

「飛行距離は片道720ミラル。巡航速度を守って燃料消費を押さえたいわね。片道12時間というところかしら」


「攻撃は夜明けが良いにゃ。明日の15時に出発するにゃ!」


 リトネンさんがそう言って話を締めくくると解散を告げた。


 陸ならば帰って来れるけど、島に向かうとなれば泳いで帰るには遠すぎるな。

 ここは腹をくくるしかあるまい。

 ミザリーだけでも、といつもなら考えるんだが今回はそれもできない。

 撃墜されたなら、帝国軍に掴まる前に皆と最後に銃撃戦をすることになるのかな?

 そうならないように、相手を倒すことに専念しよう。


「今度は海を越えて島に向かうの!」


 夕食時に、ミザリーが嬉しそうな表情で母さんに話している。

 笑みを浮かべた母さんだけど、最後に俺に向かって小さく頷いた。覚悟はできてるってことかな?

 頷き返すことで、覚悟が出来ていることを母さんに告げる。

 ミザリーは俺が責任を持つことになりそうだ。


 翌日はのんびりと俺達の部屋に向かう。

 サロンの一角にある売店で、タバコと飴玉を買い込んだ。

 ずっと空の上だからなぁ。嗜好品は必要だろう。ミザリーもお菓子を買いこんでいるけど、そんなに買い込んで1人で食べられるんだろうか?


 リトネン一味の扉を開くと、皆がのんびりとお茶やタバコを楽しんでいる。テーブルの上にバッグが乗っているから、後は持って出掛けるだけってことだな。

 俺達もテーブルの上にバッグを置くと、俺はファイネルさんの方に、ミザリーはテレ―座さん達のところへと向かう。


「遅かったな。まあ、座れよ……」


 ハンズさん達が窓際に持ち寄ったベンチに腰を下ろすと、小さなテーブルにワインを入れたカップを出してくれた。


「まだ朝ですよ?」


「出掛けるまでに数時間あるからな。酔いは直ぐに冷めるさ。朝早くに飛空艇を見てきたよ。後部の両舷に木製の燃料貯槽を搭載している。切り離しは配管のバルブを閉めて、レバーを下ろすだけらしいから、ハンズなら問題ないだろう。かなり重いレバーらしいぞ」


「貯槽を固定している金具を切り離すためのレバーだろう? 重いということはそれだけ頑丈に固定されているに違いない。まあ、イオニアⅡ手伝って貰わんで済むよう頑張るさ」


「それにしても前回やり合った時に銃弾を50発以上受けていたとはなぁ……」


「銃座の防弾ガラスの周りのも装甲シャッターが付けられたからな。五分の一イルム厚だが、その後ろが1イルムの防弾ガラスだ。ヒドラⅠで試射したらしいが、防弾ガラスはヒビが入っただけらしい」


 やはり試射してたんだな。だけど装甲シャッターは銃座の周囲が開いている。その代わりヒドラⅡ改に簡単な防盾が付いた。かなり安全に配慮されている気もするけど、両舷の銃座には装甲シャッターを作らずに、銃座そのものを艇内に引き込めるようにしたらしい。

 空中軍艦との戦いには使わないということになるんだろう。

 上部の砲塔のような銃座にもヒドラⅡ改に防盾を付けたから、イオニアさんはそこで戦うに違いない。


「主砲が大きくなりましたからね。今度は甲板を撃ち抜けるんじゃないですか?」


「威力は段違いだが、これ以上の武装強化は無理だろう。何とか撃ち抜きたいところだ」


 昼食をミザリー達が取りに向かう。

 戻って来た時にはリトネンさんが一緒だった。クラウスさんと作戦の最後の詰めを行っていたのかな?


「作戦の変更はないにゃ。作戦通りに15時に出発にゃ」


 それにしても、片道12時間以上ってことだからなぁ。上手く作戦を終えることが出来ても、砦に戻るのは明日の夕暮れ近くになりそうだ。


 食事を終えて、コーヒーを飲みながらタバコに火を点ける。

 待機が長いと、本数が増えてしまうな。出来れば1日数本で済ませたいんだけどね。


 14時半に部屋を出る。

 広場に出ると、既に飛空艇が引き出されていた。

 あれが象装か! 後部翼の根元付近に大きなタンクが吊り下げられている。

 直径1ユーデはありそうだし長さも3ユーデ近い代物だ。巡航速度で数時間の飛行ができるのも頷ける大きさだ。


「搭乗するにゃ! ファイネル団旗を直ぐに始めるにゃ」


 駆け足で乗り込むと、手に持ったバッグをミザリーに預けて前部の銃座に納まる。

 シートベルトを着けて、時計を見ると出発10分ほど前だ。

 当座はすることが無いけど、双眼鏡をヒドラⅡ改のストックにぶら下げておく。

 やはり防寒服は暑いなぁ。とりあえず脱いで座席に掛けておこう。

 後ろを見ると、やはり暑いんだろうな。皆が防寒服を脱ぎだしている。

 ファイネルさんの話では、上空に上がると着こむことになるらしいが、それ程高い場所を巡行することはないんじゃないかな。


「時間にゃ。飛空艇を上昇させるにゃ。上昇と同時に南西に回頭、尾根を目指すにゃ!」


「1500まで上昇。テレーザ、回頭してくれ!」


「了解。南への回頭地点に向けて回頭します!」

 

 飛空艇が上昇しながら左に回頭し始める。

 その場でも解凍できるらしいが、高度300ユーデほどで低速で進み始めた。

 だんだんと砦が下になっていく。

 1500ほどに高度を上げると、まるでおもちゃのように見えてしまう。


「飛空艇の速度を巡航に合わせるにゃ。エミル、航路の確認は任せたにゃ」


「了解! 2時間はこのままでだいじょうぶよ」


 このまま進むと、帝国軍との戦場は見ることができないらしい。

 戦場の上を飛ぶなら爆弾を落としたいところだが、今回の爆弾は全手帝国軍の南の島向けだからなぁ。

 やはり、もう1艇ぐらい飛空艇を作っても良いんじゃないか?


 回頭を行う尾根は、5つほど東の尾根らしい。最初の尾根が眼下を通り過ぎる。2時間は先になるようだから、しばらくは風景を楽しんでいよう。


「隣国に入ることになるが、許可は得てるのか?」


「砦から今朝方知らせてあるにゃ。打ち落とされる心配はないにゃ。それに飛行機に狙われることもないにゃ」


 飛行機の速度は毎時200ミラルを越えるからなぁ。俺達の飛空艇なら直ぐに迎撃が出来るに違いない。

 もっとも銃弾はフェンリルの自動装填装置を応用したヒドラⅠの銃弾らしいから、滅多な事では被害を受けることは無いだろうけどね。


 いつの間にか、俺の足元にエミルさんが飲み物を入れたカップを持って座っている。

 航路はエミルさん任せなんだけど、まだ回頭地点まで時間があるからということなのかな?


「いつ見ても、景色が良いのよね。珍しく昼間だから、遠くまで良く見えるわ」


「はい。兄さんものんびりしてたら? 今日は深夜まで飛行するんだから」


 ミザリーが渡してくれたカップを受け取ると銃座から降りる。

 砲塔区画で、ハンズさん達と世間話でもしてこよう。

 

「砲塔に行ってます!」

 

 リトネンさんに伝えると、ブリッジを出る。

 やはり暇を持て余していたようで、大型のナイフを研いでいるところだった。


「遠出ができるのも、良いような悪いような……」


「一歩離れて状況を見るなら、良いことだろう。だが、実際には退屈な時間が増えただけだな。もっとも、この先に退屈なんて言えない戦が待っていることも確かだ。4イルム噴進弾を見たか?

 これなんだが、前に使った物よりも遥かに長い。少なくとも1フィール近い気がするな。重量も増しているから、装薬だけでなく噴射ガスの威力も上げているんだろうな」


「弾速が上がるほど貫徹力が増すと聞きましたが?」


「そうだ。その為に榴弾砲で徹甲弾を放つ時には装薬量を増すんだ。この先端部分は鉄ではなく鋼と言っていたぞ。1イルムどころか2イルムの装甲板を撃ち抜くんじゃないか?」


「これで落とせないと、次は乗り込んで白兵戦になりかねませんよ!」


「ハハハ……、それも良いなぁ」


「何を喜んでるんだ? ほらよ。リーディルは持って来たんだよな」


 テレーザさんに操縦を任せたのかな?

 フェイネルさんが、2つ持って来たカップの1つをハンズさんに渡している。


「4イルム砲弾が効かない時には白兵戦を挑もうということになってな」


 ハンズさんの話を聞いて、ファイネルさんも笑い声を上げる。


「ハハハ……、さすがに4イルム噴進弾なら効果があるだろう。だが、白兵戦もできそうだな。空中軍艦も飛空艇も空中で停止できるんだ。乗り込むことができるのは間違いない」


 白兵戦に何を用意するか、空中戦艦に乗り込んだ後はどのように行動するかで、話が弾む。

 だけど実際にはやらないんだよね?

 何となく、ここにリトネンさんがいたら、面白そうだと本当にやりかねないからな。


「弾薬庫の場所さえ分かれば時限爆弾を仕掛けて退避することもできるあろう」


「その為にはフェンリル以上の速射性に優れた銃が欲しいな。機関銃が出来そうだと聞いたが飛行機用だそうだ。歩兵が使える軽い機関銃が出来れば良いんだが」


 こっちの陣営で開発が進んでいるなら、帝国の科学力なら既にできている可能性もありそうだ。

 前回の戦闘結果から、それなりに装甲を新たに設置したが戦ってみないと、分からなくなってきたな。

 一番困るのが、跳弾という現象らしい。

 打ち込まれた銃弾が船内の鉄板に当たってあちこち飛び跳ねるということらしいが、どこに飛んでいくか予想すらできないそうだ。


 ファイネルさんの話では、かつて戦場でほとんど損傷の無い蒸気戦車を見付けたそうだ。

 これなら動かせるだろうと、ハッチを開けてたらしいが、中で血まみれの敵兵がファイネルさんを眺めていたらしい。


「蒸気戦車には前方を見る小さなスリットが鉄板に空いてるんだ。そこから銃弾が飛び込んだんだろうな。中で跳ねまわったんだろう。3人とも虫の息だったよ」


「跳弾を防ぐ方法もあるんだが、内部が厚いコルクになってしまうからなぁ。装甲内部に銃弾が飛び込んだら運が悪いと諦めるしかないだろうな」


 それならヒドラⅡ改の砲弾に、炸薬を仕込まないで放っても良いように思えるな。

 弾速ならゴブリンを越えているようだから、窓から撃ち込めば周辺を蹂躙できそうに思えてきた。


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