表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
104/225

J-091 攻撃力を上げよう


 俺達の拠点がある砦は、西の砦と言われるようになったらしい。

 確かに一番西にある砦だ。砦の直ぐ西の尾根から伸びるいくつかのブンカーは、それぞれ『西の1番』、『西の2番』と南に番号を付けているようだ。現在最南端の監視所は『西の5番』と呼ばれているらしい。

 ブンカーというよりは、塹壕と地下待避所だけのようだけど、攻撃というよりは、西の監視が目的だからなぁ。

 おかげで、砦を目標とした飛行船の爆撃も早期に発見して、飛行機での迎撃態勢が上手く運用されているらしい。

 

 11時を少し過ぎた時刻に西の砦に帰還できた。

 俺達が飛空艇を下りると、直ぐに駐車場内に飛空艇を4輪駆動車が運んで行った。

 次の作戦に向けて、飛空艇の整備が行われるのだろう。


 食堂で少し早い食事を取ると、俺達の部屋でワインを味わう。

 作戦を終えたばかりだ。直ぐに出撃ということにはならないだろう。


「それにしても空中軍艦は頑丈だな。少し攻撃方法を考えたんだが……」


 ハンズさんがリトネンさん達に、飛空艇で俺達が考えた攻撃方法の説明を始めた。

 真面目だなぁ、と俺とファイネルさんは苦笑いを浮かべながらタバコを味わう。

 もう直ぐ、ミザリーがコーヒーを入れてくれるだろう。


 テーブルを囲んでコーヒーを飲んで要ると、クラウスさんがやって来た。オルバンもいつも通りだ。従者と言うより副官のようにも見える。

 大人びてきたから、トラ族特有の精悍な顔がそう見えるのだろう。姉さんもさぞかし喜んでるんじゃないかな。


「落とせなかったか……。それで、どんな戦だったんだ?」


 クラウスさんがエミルさんに顔を向けるのも、この頃は不思議にも思えなくなってきた。

 エミルさんが席を立ち、地図と図番を持ってくる。

 地図を広げて、作戦航路と戦闘状況に説明を始めた。

 詳しく話をしているから、俺達が補足することもない。

 一通り話が終わったところで、クラウスさんが頭を抱えたのは理解できる。

 3連装の3イルム噴進弾が着弾しても、大きな被害を出せなかったんだからなぁ。


「防御力を強化したということか……。大きな穴が空いたのはブリッジ後方だとすれば、階段区画でもあったんだろうな。高度、速力共に変わらないというのも敵の兵器とは言え、大したものだと感心するしかないな」


「結果の確認はできませんでしたが、ヒドラⅡ改であれば命中弾を与えられます。少なくとも着弾による破孔を確認できましたし、煙が穴から漏れていたことも確かです。

 それを考えると、空中軍艦の装甲強化は部分的に行っているように思えるのですが?」


 ハンズさんが、俺達の描いた絵を見せる。

 下部と前面、それに側面だけの強化だ。空中軍艦の後方上部は兵員の居住区じゃないかな。破壊されても床を抜かれなければ問題ないと考えているに違いない。


「ヒドラⅡは前線でも蒸気戦車を相手に徹甲弾を放っていると聞きました。空中軍艦の側面上部なら中層階にまで達すると考えています」


「なるほど、徹甲弾か……。だが徹甲弾は鋳鉄製の弾丸だ。炸裂することが無いからなぁ……」


「弾丸の尾部を掘って焼夷弾用の火薬ぐらいは詰められるのではないですか? この辺りにあるとするなら乗員区画でしょう。窓が列を作っていました。それなら床の鉄板はそれほど厚くはないと考えているのですが」


「利点はありそうだが、その砲弾の欠点も分かってるな?」

「砲弾重量が増すことでの弾速の低下、それに伴う照準の下方修正は何とかなると考えてます」


「問題は、ヒドラⅡだけでは決定打にならんということだろうな。同じ措置を噴進弾の砲弾に適用できるんだろうか……。ドワーフ族の技師長と相談せねばなるまい」


 場合によってはできるということかな?

 できないという事であれば、ヒドラⅡ改で空中軍艦の甲板を散々叩いたところで噴進弾で甲板を破壊することになるだろう。炸裂焼夷弾ではなく、炸裂弾を多用すればあまり厚くはない上部装甲板を破壊することも可能に思える。


「とりあえずは、無事に戻ってくれたことを感謝せねばなるまい。飛空艇の銃弾跡が50個箇所を越えていたそうだ。幸いにも貫通カ所は無かったようだが、帝国軍も馬鹿ではない。対応措置を考えるはずだからな。このままの装甲では、次は間違いなく貫通するだろう。飛空艇の防弾対策も強化せねばなるまい。

 しばらくは、のんびりしてくれ。その間の爆撃は飛行機と飛行船で何とかする」


 銃痕が50カ所以上と聞いて、俺達が目を丸くするのは仕方がないだろう。

 貫通したわけではないらしいから、飛空艇の振動で気が付かなかっただけだろうな。

 確かに舷側の窓や、上部の甲板から盛んに撃って来てはいた。的が大きいんだから当てるのは容易ということなんだろう。

 俺達もヒドラⅡ改を撃ち込んでいたぐらいだ。


「返礼を受けたが、小銃弾ではなぁ……」

 

 クラウスさんが出て行く扉を眺めながら、ハンズさんが呟いた。


「ゴブリンのような小銃を使っているのを目撃しました。フェンリルのように連発で撃っている連中もいましたけど……」


「ゴブリンの銃弾を強化した焼夷弾で飛行船を落としているにゃ。ゴブリンも馬鹿にできないにゃ」


「最低でもヒドラⅠ型相当の小銃を持ち出すだろう。50口径だが、初速はあるぞ。三分の一イルム(8mm)程度の装甲板なら撃ち抜けるんじゃないか?」


「飛空艇の下部は半イルムあるが、それ以外は三分の一イルムだ。飛空艇のジュピテル機関は2基搭載しているから、まだまだ重量増加は許容できるだろう。四分の一イルムを装甲板を増やしても問題は無いと思うんだがなぁ」


 イオニアさんの指摘に、ファイネルさんが対応策を話しているけど、装甲板の追加は案外簡単なのかもしれない。

 だけど、結構綺麗な流線形だからなぁ。武骨は装甲板は見た目が悪くなりそうだ。


 10日程過ぎると、飛空艇の改造案が形になってきた。

 やはり主砲とも言える3連装噴進弾発射機は、より大型の4イルム噴進弾を発射できるようにするらしい。

 それだけでかなり重量が増えるけど、追加する装甲板の全重量から比べれば微々たる量だと言っていた。

 全部と後部の半球状のガラス窓は、シャッター式の装甲板を使って閉じることができるらしい。装甲板の厚さは五分の一イルム(5mm)程度だが、防弾ガラスに直接銃弾を受けるよりは安心できる。


「4イルム噴進弾となると、ハンズとイオニアぐらいしか装填できんな」


「任せとけ。この重さが信頼の証だからなぁ」

 

 1発がおよそ1ブロス(20kg)を越える重量だ。先が尖った肉厚の半徹甲弾を使えるらしい。

 砲弾の炸薬量は榴弾の半分以下だけど、これなら最上階の居住区の床を貫通して中階で炸裂させることができるかもしれないな。

 ヒドラⅡ改の砲弾も先端部の肉厚を増した炸裂焼夷弾を作ってくれたらしい。

 被害半径は小さくなるらしいが、それでも手榴弾並みの破壊力は持っているようだ。


「3000ユーデまで上昇出来て、速度が前と変わらないなら、これで良い勝負ができそうですね」

「だが、砲弾ラックを大きくしても搭載する砲弾数は15発だ。5回でけりをつかないと、再び両者の強化競争が始まるぞ」


 その時には2番艇を作るべきだろうな。あまり改造を続けるのも問題だろう。

               ・

               ・

               ・

 飛行機や飛行船による爆撃で、前線は相変わらず膠着状態らしい。

 旧王都の港は沈没した輸送船の撤去でしばらくは使えないらしく、帝国軍は前線近くの海上に停泊した輸送艦隊から補給を受けているとのことだ。

 2000ユーデ程上空から行われる飛行船の爆撃で、帝国軍の輸送艦隊はそれなりの被害を受けているらしいが、命中率が悪く飛行船3隻でどうにか1、2隻ということらしい


「命中率で言うなら飛行機だろうな。だがこの間、1機落とされたらしい。やはり大口径の小銃は作られていたってことだな」


「輸送船団にも渡すなら、空中軍艦には間違いなく搭載してるでしょうね。ヒドラⅡ出ないことを祈るばかりだわ」


「そうなると、空中炸裂型の爆弾は魅力があるなぁ。攻撃前に空中軍艦の周囲で炸裂させれば銃手達を一掃できそうだ」


「初撃時に4イルム噴進弾を榴弾にしても同じことができるんじゃないですか? 射程はこちらの方が長いんですから」


「それも良いなぁ!」 と皆が感心してくれた。

 要は、相手の状況に合わせての対応ということになるんだけど、飛空艇の噴進弾の装填は面倒だからなぁ。

 高倍率の双眼鏡を用意して、攻撃前に相手を観測できるようにすることも大事に思える。


 飛空艇の改造が終わったのは2か月も経ってからだった。

 直ぐに輸送艦隊への攻撃に出掛けることになったのだが、4イルム噴進弾はさすがに強力だ。

 2発を受けた輸送船は、大破して海底に姿を消したぐらいだ。

 

 輸送艦隊野上空でしばらく待機していたのだが、空中軍艦は姿を現さない。

 やはり装甲板の強化を行っているのだろう。


 もう少し航続距離があるなら、南の島に殴り込みに出掛けるんだが、生憎とギリギリの距離だ。

 戦闘機動があまりできないような戦を仕掛けるのは無謀だろう。

 2隻を撃沈して帰投する。

 これで少しは前線が静かになるかもしれないな。


 そろそろ次の輸送艦隊攻撃かと俺達が話していた時だった。

 リトネンさんに続いて、クラウスさん達が部屋に入ってくる。

 クラウスさん達が来るというのは、少し問題のある作戦案の説明ということだろう。

 テレーザさんが急いで地位図を広げると、俺達はクラウスさんの言葉を待つ。


「帝国軍の南の島を叩く。飛空艇による爆弾投下と4イルム砲弾による攻撃を実施したい。場合によっては空中軍艦が地上停泊状態で攻撃できるぞ」


「ですが、飛空艇の航続距離を考えるとほとんどギリギリです。島の上空に空中軍艦がいた場合は、せいぜい一撃を与えるだけになるでしょう」


「そこは考えた。飛空艇に外部燃料タンクを増設する。単純なタンクだから燃料を使い切ったら投棄しても構わない。2つでおよそ5時間の巡航が可能だ」


 かなり航続距離を稼げそうだ。

 それなら、やってみる価値は十分だろう。

 出発は明日ということで急いで準備を始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ