徘徊する幽霊 #3
前回の「友達からの誘い」で「遊びに行かない」を選んだ方は、二話前の「徘徊する幽霊」へどうぞ。
「遊びに行く」を選んだ方は、「偽りの幽霊」に戻ってください。
では、どうぞ。
「マスター。ここって……出るの?」
「は?」
ある日、常連の若い子からそんな話をされた。
「でるって、なにが?」
「だから……幽霊」
聞き返せば、声を潜めて言われる。
「そんな話聞いたことないですよぉ!!」
「で、ですよね!!酔っぱらいの戯れ言ですね!」
急な話に全力で否定すると、客もはははっと気まずそうに笑う。
その時は、冗談だと思っていたから。
しかし、その日を堺にチラホラとそういった話を聞くようになった。
「ボロボロの白いワンピを着た女を見た」とか「ボサボサの髪の女だった」とか。
その女は、店のなかを歩き回っているらしい。
たまに、飲んでいると誰かに顔を覗き込まれた、なんて話も聞くようになった。
初めは、「酔っぱらいの勘違いか営業妨害か」と考えていたが、自分が一人で店の準備をしているときに、気配を感じたのだ。
カウンターを拭いていると、ふと、背後に気配を感じた。
「すみません。まだ準備中で」
振り返っても誰もいない。
そこまできてはっとする。
扉が空いた音は、してない。
だったら気のせいに決まってる。
そう思うことにして作業に戻ると、やはり後ろに気配がする。
そして、ずずずっとなにかをひきずる音が背後を移動している。
意を決して振り返る。
が、やはり誰もいない。
なんだったのだろうと作業に戻ろうと顔をもとに戻すと、女が横から顔を覗き込んできた。
「っっっ!!!」
驚いて足を滑らせて尻餅をつく。
慌てて辺りを見回すが、女はいない。
「な、なんだ?今の」
それからも、女の姿をみたという話は尽きず、専門家に相談することにしたのだ。
「で、今に至るわけだ?」
「はい」
高柳さんは、話し終わると一気にコップの烏龍茶を飲み干した。
真剣に話を聞いていたが、別に俺にできることはないか、と思い当たる。
だったら、もう少し肩の力を抜いてもいっか。
俺は、あらかた食べ尽くしたサンドイッチに満足してオレンジジュースを飲もうと視線を下げた。
その瞬間だった。
手元に影ができたと思ったら、女が横から覗き込んできて、バッチリ目があった。
ガサガサな髪に血走った目を見開いていた。
そしつ、ガサガサな唇が開いた。
「ちぃーがぁーーぅーー」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
驚いて俺は、椅子から落ちた。
そして、気を失った。
続きます。