徘徊する幽霊 #1
前回の「友達からの誘い」で「遊びに行かない」を選んだ方は、こちらの話へお進みください。
「遊びに行く」を選んだ方は、「偽りの幽霊」に戻ってください。
では、どうぞ。
「あ、わりぃ。ちょっと……」
本当は行きたいけど、寝不足もあるし……
遊ぶならコンディションバッチリのときにいきたいと一瞬考えてしまい、お断りの言葉が出ていた。
「そっか。残念」
「わりぃな。また誘ってくれ」
「あぁ」
珠ちゃんとわかれ、家路につく。
家につき、玄関の扉を開けると、なぜか水澄がいた。
「お帰り。出掛けんぞ」
「ただい……は?」
思わず、扉を閉めようとしてしまった。
「おいおい。俺がまだ出てねぇぞ」
「帰ってきていきなり、なんなんだよ」
「仕事だ」
「お前一人でいきゃぁいいだろ?昼飯食べてないし……」
「昼飯食いに行くぞ」
「仕事じゃないの?」
「仕事兼昼飯」
「ふーん」
ならしかたがない。何故なら俺は料理ができないから。
カップ麺を食べるのと、美味しいものが食べれるのなら、そちらを選ぼう。
「で、どこ行くの?」
車に乗り込んでそうそうに、俺は水澄に質問する。
「あぁ。知り合いの知り合いの店だな」
「知り合いの知り合い?つまり他人?」
「まぁ、そうなるな」
そうなるな、じゃないぞ。
「で、どんな仕事?あっ、それより何屋さん?腹減ったんだけど」
「いきゃぁわかる」
そうだけど、今教えてくれないのはなんで?
その疑問は、店に着いたらすぐに解けた。
「店って、バーのことだったの?」
「あぁ。行くぞ」
居酒屋が立ち並ぶ一角にあったビルの地下へと続く階段の前まで来て、未成年が入っていいの?と不安になる。
「まだ、昼間だし、大人と一緒だからいいだろ」
ホントかなぁ。
不安のまま階段を降りていく。
降りきった先には、臙脂色のおしゃれな扉があった。
扉には「シリウス」と書かれていた。
水澄が扉を開けるとカラン、と軽い音がした。
「まだ開店前ですよ」
「呼ばれてきたんだがな」
ちょっと薄暗い店内に入ると、カウンターの内側に金髪のチャラ目なお兄さんがいた。
「あっ。もしかして、アレの件で……こちらにどうぞ」
案内されてカウンターに水澄と並んで座る。
「この店でオーナーをしております、高柳と申します」
「水澄だ」
オーナー、高柳さんが俺をチラリとみる。
それは、そうだ。未成年が制服でついてきていれば気になるに決まっている。
「えーっと、伊織、です。」
ここで「助手です!!」と言えない自分は、チキンメンタルだ。
明らかに不審そうな顔で見られていて、落ち着かない。
「こいつのことは気にすんな。でけぇ熊のぬいぐるみかなんかだと思って気にしないでくれ」
は?なんだよ。熊のぬいぐるみって。
腹が減ってイライラしていることもあり、水澄を睨む。
視界の端に米俵にまたがる熊が両手をあげて「がおー」のポーズをしていたのが、また腹立たしかった。
続きます。