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正夢

作者: 瀬戸者 サチ



 これは私の見た夢である。


 夢の中の私は(現実がどうであるかは兎も角として)少年であった。


 一番初めの夢の始まりでは、“私”は椅子に座っていた。それも古い洋風の屋敷においてあるような年季の入った、アンティークとかいうようなやつである。目の前にはそれと揃いの、唐草の意匠のテーブルがあった。


 かつり、と音がしたので顔を前に向けると、そこには少年が一人いた。彼は“私”の友人のようである。先程まで椅子に座ったまま居眠りしていた“私”を後目に、左手でチェスの駒を動かしていた所だった。右手には何か本を開いて持っている。


 チェスの駒とチェス盤もまた年季の入ったものだった。細かな疵が付き、恐らくチェスの駒を置くための枠なのであろう溝が、薄れてしまっている。


 “私”はチェスなんて分からないから、彼の相手なぞにはなりようも無いが、ただ何となく眺めていた。


 そこで目が覚めて、一番初めの夢は終わったのである。彼の声が聴けなかったのを、私は何となく残念に思った。


 その夢を見てからしばらくして、また似たような夢を見た。二番目の夢だ。今度もまた同じ所に座っていた。彼はテーブルを挟んで窓側、“私”はその向かい側である。


 テーブルの上には、紅茶とスコーンの入った皿が並んでいた。彼はそれを摘みつつ、一番初めの夢の時とは違う本を読んでいる。


 “私”はスコーンにたっぷりとジャムを塗りたくりながら、彼が今何を読んでいるのか考えている。考え込むあまりに、彼のスコーンまで食べてしまっていたのはご愛嬌である。彼は笑って許してくれた(しかし目は笑っていなかったが)。

 そしてそうなる前も笑っていたので、きっと読んでいた本は喜劇か、とりあえず悲しくない本だったのだと思った。


 指についた苺を舐め取りながら、部屋の中を眺める。寮の二人部屋で、そこの共有スペースらしい。置いてある二脚の椅子と一つのテーブルは備え付けで、古めかしい寮の石壁に雰囲気(ともう古ぼけて壊れそうな所)がよくあっている。あまり広くはないので、他に物も無い。


 彼が“私”の仕草にか、本にか、くすりと笑った所で目が覚めた。これが二番目の夢の終わりである。彼はあまりにくすくす言っていて、私が笑われたのなら憤慨してみせるところではあるが、本に笑ったのだとしたら。普段本なぞ読まない私だが、少しばかりその内容が気になった。


 二度あることは三度あると言う様に、私はまたしばらくして三番目の夢を見た。今回の舞台は何処かの屋外の様だ。


 “私”は樹の下にごろりと横になっていた。日陰になっていて昼寝に丁度良さそうな丘の上だ。程良い木漏れ日や葉擦れの音が心地よいのもまた眠気を誘う。このまま眠って仕舞おうかと考えて居た所で、“私”は慌てて起き上がった。


 というのも、すぐ横に居て今もまた本を読んでいた筈の彼が、次の本に夢中なあまり気付かず、其の前に読んでいた本を“私”の顔の上に置こうとしたからである。


 “私”は不満を込めて彼を睨んだが、笑って躱された。


 そこで三番目の夢は終わった。その後は続きらしき夢を見ることが無くなった。私がはてあれはなんだったのかと首を傾げた記憶がある。




……僕には、いつかこの記憶を失って仕舞うだろうという予感がある。





 どこかの異世界にて。僕は気が付かぬ内に転生して始まった二度目の人生を歩もう。



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