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キアラの選択

 すでに商会の従業員達は食堂の方で食事をしている途中のため、瑞希達は厨房でカレーとナンを食べようとしていた。


「キアラは向こうで食べなくて良かったのか?」


「今日は瑞希達がいつ来るかわからなかったから、私はこっちで食べるって言っといたんな」


「そっか、ならまぁ久々にキアラのカレーを頂こうか! 頂きますっ!」


 昼間も瑞希達がやっていた所作を見て不思議に思っていたが、キアラもやっていたのでクルルとサランも真似をして手を合わせる。

 瑞希はまずカレーだけを食べようと思い匙で掬い、口に入れる。

 細かく切られた野菜と、挽肉を使ったカレーには前食べた時とは香辛料の配合がまた違う。

 前のよりは少し辛く、よりスパイシーな調合がなされており、具を食べるカレーとしてはこちらの方が合っている。


「ふふふ、どうなんな!?」


「美味いっ! 教えるまでもなくキーマカレーを思い付くなんて大したもんだ!」


「え? このかれーも知ってたんな?」


「これはキーマカレーって言って、挽肉を使ったカレーなんだ。でも俺もこっちでは作った事は無いから、間違いなくこれはキアラが作りあげたカレーだよ!」


「ミズキを驚かせるのは難しいんなぁ……」


「何言ってんだよ? この短期間でキーマカレーまで作るなんて充分驚いてるぞ? それにちゃんとシャオのは辛さを控えめにしてくれたんだろ? それにしてもどうやって思いついたんだ?」


 瑞希が食べた所、シャオが嫌がる様な辛さにも関わらず、シャオはパクパクとカレーを食べている。


「最近は子連れのお客さんも増えたから、辛くないかれーも作ってるんな。発想は初めてミズキに食べさせてもらったはんばーぐかれーなんな!」


「なるほど。確かにハンバーグはミンチ肉を使うし、ボロボロ崩れた感じはキーマカレーを想像させるな。良い発想力だな!」


 夢中で食べていたシャオは顔を上げ、キアラに満面の笑みを向けながら皿を突き出す。


「キアラこれは美味いのじゃ! 自信を持って良いのじゃ! おかわりが欲しいのじゃ!」


「ふふふ。二人に褒められるのは嬉しいんな! いっぱい食べて欲しいんな!」


 キアラはニコニコと微笑み、シャオの皿にカレーを入れ返すと、ミズキの作ったナンに手を伸ばす。


「なんはカパ粉焼よりふかふかしてるんな?」


「発酵して膨らませたからな、まずはそのまま食べてみてくれ」


 キアラは一口大に千切ると、そのまま口に放り込む。


「カパ粉焼とは似てるのに全然違うんな!」


「美味いだろ? そしたら次はキーマカレーを乗せて一緒に口に放り込む」


 クルルとサランも瑞希を真似て同じ様に食べる。


「美味いんなっ! これは確かにかれーに合うんな!」


「兄ちゃんもキアラちゃんもどんだけだよ……」


「ふわぁ……美味しいぃ……」


 二人は初めて食べたカレーに心を躍らせている。


「ミズキ、最近かれーを作ってて悩んでる事があるんな」


「ん? どうしたんだ?」


「こうやって汁の無いかれー、いつも作ってる汁を食べるのもかれー、一体かれーってなんなんな?」


「あははは。料理ってそういう悩みもあるよな! 大事なのはその料理に対して根本的に必要な食材を使っているかで判断して良いと思うぞ?」


「必要な食材?」


「例えば、カレーなら香辛料が必要不可欠だろ? ハンバーグならミンチ肉が必要な訳だ。それを外したレシピなら別の料理名を付ける場合がある。もっと簡単に言えば、キアラが香辛料を使った料理を出した時にカレーと言えば、それはもうカレーになるんだよ。まぁ言ったもん勝ちだな」


「そんな簡単に判断して良いんな?」


「前にも言ったけど、レシピなんて同じ料理名でも何万種類も存在するからな。根本的な事を外して無かったらそれは同じ料理名だ。大事なのは同じ料理名でも、同じ味の料理ではないし、どうせなら同じ料理名でもより美味しい料理を目指すのが料理人だろ? キアラもそんな事に惑わされないで、自分だけのカレーを作って行けよ」


「ふふふ。わかったんな!」


「そうそう、このナンも焼く時に中にチーズを入れたチーズナンって言うのも美味いぞ! チーズももうすぐ出回るからもし見つけたら一度試してみろよ!」


「ちーず? まだまだ知らない事が多いんな!」


「それに、このキーマカレーを冷ましてからパンを焼く前の生地に包んだらカレーパンが出来るし、ナンの生地で包んでから焼いても面白いかもな!」


 キアラは嬉しそうにミズキとの会話をする。

 二人の会話を聞いていたクルルも目を輝かせていた。


「こんな美味い物が作れてるのに、これ以上に美味い物が作れるのかよ!? 私にも作れるか!?」


「もちろんクルルにも作れるぞ! そう言えばキアラから見て二人はどうだったんだ?」


「クルルは問題なく包丁も使えるんな! かれーも教えればすぐ作れそうなんな! サランはまだ練習が必要なんな」


 クルルはふふんと胸を張りながら、サランは少し落ち込んでいる。


「まぁ、サランは給仕の仕事をするつもりで連れて来たからな。落ち込む必要はないって。それで、二人を雇って貰いたい訳だが、大丈夫そうか?」


「正直に言えば一人で充分なんな。ただ……」


「ん? どうした?」


「ミズキ達はこれからまた旅に出るんな?」


「そうだな、今日は泊めてもらって翌朝に出発はするけど……それがどうしたんだ?」


「迷惑でなければ一人はその旅に連れてって欲しいんな! もちろんその分の御給金はこっちで支払うんな」


「「えぇっ!?」」


 キアラの言葉にクルルとサランが驚く。

 だが、瑞希はキアラの思惑が理解できたのか嬉しそうに微笑んでいる。


「キアラは本当に賢い子だよな」


 瑞希は思わずキアラの頭を撫でながら褒めるのだが、キアラは嬉しそうにしており、その光景を見ている二人には、当然理解が出来ていなかった。


「何で旅について行くだけで給料が出るんだよ? しかも兄ちゃんからじゃなくてキアラちゃんからだろ?」


「店内で労働もしてないのに……それではお金が減るだけではないですか?」


「キアラちゃんの先行投資だよ」


 ここまで会話に混ざって無かったドマルが食事を終えたのか、口元を拭きながら二人に分かりやすく説明する。


「「先行投資?」」


「一人が旅について来る事によってミズキの知識を教えて貰えるでしょ? それを学んでからキアラちゃんの店で働けば間接的にキアラちゃんも学べるんだよ」


「その通りなんな! それまでに今よりかれーを流行らせて、人手がもっと欲しくなった時に合流してくれれば助かるんな! その時に学んだ知識を生かしてくれればより美味しく、より良い店舗になるに決まってるんな!」


「先に店で働いてる方も、三人が合流する時には仕事に慣れてる筈だから、キアラと一緒に店の仕事を教えられるだろ? そうすれば二人に一気に教えるよりも簡単になる」


 三人の話を聞いていたクルルとサランは会話の内容に呆気に取られていた。


「ただ人を雇うのにそこまで先を考えるのかよ?」


「キアラの場合は親が商売をしているから、そこで学んだんだろ?」


「その通りなんな! 仕事を任せるにも、仕事を発展させる時にも、相応の人材が必要なんな! 私の夢は色々な所でかれーと、うちの香辛料を知って貰う事なんな。そのためには今から必要な人材が来てくれるなら嬉しい事なんな!」


 キアラは二人に対して可愛らしい笑顔で自身の夢を語る。

 その笑顔を見てその夢を手伝いたくなったのかクルルがキアラに手を伸ばす。


「楽しそうだな! 兄ちゃん! 良い所を紹介してくれてありがとなっ! キアラちゃんもこれから宜しく!」


「宜しく頼むんな!」


「あ、あの、私でも役に立つでしょうか?」


「もちろんなんな! これから宜しく頼むんな!」


 キアラは二人と握手を交わす。


「それは良いとして、まずはどっちを店で雇うんだ?」


「それはもう決めてるんな! 店で働くのは……」


 キアラは話し始めようとした時に無数の視線を感じて言葉を止める。

 視線の先に目を向けると、親父を筆頭に従業員達が厨房を覗いていた。


「皆してどうしたんな?」


「食事が終わったから、ミズキさんの甘味がまだかな~? っと尋ねに来たんだが……」


 従業員達も親父の言葉に一斉に頷く。

 それ程までに瑞希がこの商会に残した爪痕は凄かった様だ。


「じゃあ続きは皆でデザートを食べてからにしようか?」


「そうするんな! じゃあ食堂に運ぶから待ってて欲しいんな!」


 親父も含めて従業員から歓声が上がる。

 瑞希達が食堂に運んだアイスクリームによって親父が暴走をする。

 クルルとサランも今日一日で何度驚かされたか分からないが、瑞希といると驚く事に慣れるというドマルの言葉に今更ながら納得するのであった――。

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