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バランの依頼

 完成したアイスクリームを器に移し、部屋に持ち込むと、そこにテミルも加わりいつかの女子会の時の様な面子でアイスクリームを食べ始める。

 

「じゃあ心して頂きます」


 ドマルは先程の光景を頭の片隅に残しながらアイスクリームを口にした。

 キンッと冷えたアイスクリームは口の中に入れると、口内の温度でトロトロと溶けていく。

 乳のコクに、甘味が加わり、最後にはふわっと香辛料の香りが心地良く鼻に抜けていき、口の中から姿を消した。


「これは苦行をしてでも食べたくなるのもわかるよ……美味しいよ!」


「苦労した甲斐があったってもんだ」


「何度食べても美味いのじゃ!」


「痛かったけど、この味を知ったらまた作りたくなるのよねっ!」


「お嬢、次からは交代でやるっす。うちもこれが食べれるなら我慢するっす」


「(美味しい……)」


 アンナは相当気に入ってるのか無言でパクパクと食べていた。


「アンナ、そんな勢いで食べたら……」


 アンナはキーンと頭に痛みが走り、こめかみを押さえる。


「冷たい物を勢い良く食べると頭に響くんだよ。ほら、こっちの暖かいお茶を飲め」


「か、かたじけないミズキ殿……」


「それにしても何で瑞希は魔法で作らないの? 魔法があれば簡単に作れるでしょ?」


 ドマルはシャオが魔法でウテナを乾かしていた事を知っている。

 あれと同じ要領で金属の筒を冷やせば良いだろうと思っていた。 

 瑞希はシャオの汚れた口元をいつもの様に拭いながら質問に答えた。


「それだと俺が居なくなったら食べれなくなるだろ? ミミカは俺の教え子なんだから、俺が居なくても作れなきゃいざという時困るかもしれないじゃないか?」


「そう言えばミミカ様が殆ど作り上げたよね。でもいざという時って……」


 二人が会話をしている時にバタンっと部屋の扉が大きく開く。


「ミミカっ! 今日のも美味いぞ! おかげで仕事が捗ってしょうがない!」


 ドーナツの時の様に、器を手にしたバランが部屋に入ってきてミミカを褒める。

 その姿を見て瑞希はお茶をすすりながら微笑んでいた。


「もうっ! お父様ったら! ノックをして下さい! でもありがとうございます」


 ミミカは嬉しそうに御礼を返す。


「あまりに旨いから急いで伝えたくてな! また作ってくれるか!?」


「雪が降る頃には作れますから安心して下さい。今日のは一から私が作りましたもの」


「そうかそうか。ミミカには料理の才能があるのだな! そうそう、ミズキ君とドマル君、後で部屋に来てくれないだろうか?」


「わかりました。もう少ししたら向かいます」


「よろしく頼む」


 バランは伝え終わると、部屋を後にした。


「何ていうか……本当にバラン様は印象が凄く変わったよね?」


「でもミミカにとったら良い事だろ? それにしても用ってのはなんだろうな?」


 アイスクリームを食べ終え、お茶を口にしていたテミルが口を開く。


「旅についてですよ。ドマルさんから行先は聞いてましたからその事で頼み事があるそうです」


「バラン様が僕達に頼み事? なんだろう?」


「さぁ? とりあえずアイスを食べ終わったら行ってみようか」


 瑞希達はアイスクリームを食べ終えると、片付けをアンナ達に任せてバランの待つ執務室へと足を運ぶのであった。


◇◇◇


 執務室に入りソファーに腰を掛けた瑞希達三人はバランの仕事が一段落するのを待っていた。

 程なくしてバランの手が止まり、瑞希達の対面に腰を下ろす。


「待たせてしまって済まないな。君達が次に向かうのはマリジット地方だと聞いているのだが、一つ頼みがあるのだ」


「テミルさんにも聞いてましたが、頼みですか?」


 瑞希は自分達が力になれる事なのだろうかと、疑問を持ちながら聞き返した。


「頼みとはな、マリジット地方で取れる農作物についてだ。ドマル君ならわかるだろう?」


「農作物ですか? マリジット地方の作物と言えば……ペムイでしょうか?」


「その通りだ。向こうでは酒造りに使われている農作物なのだが、昔からマリジット地方の中の名産地では主食にもなっているらしい。モノクーン地方の食糧事情を向上させるためにもペムイの苗が欲しいのだが、以前に一度断られていてな」


「それは俺達が行ったとしても断られるだけなのでは?」


「それが君達なら何とかなるかもしれないと思ったから頼みたいんだ」


 瑞希とドマルは目を合わせると、アイコンタクトの様な形でお互いが分からない事を確認する。


「ペムイなのだが、マリジット地方でも主食にする様になったのはここ最近だと言われているのだが、名産とされている街では昔から酒造にも使われているのだ。そして以前使者を出して苗の購入をお願いしたのだが、『お金よりモノクーン地方の名産と交換』という前提条件を出されてな……」


「モノクーン地方ならば衣料品でしょう? それとの交換で良いのではないですか?」


 行商人であるドマルが言葉を返す。


「私もそう思ったのだが、向こうは『食材には食材の交換が良い。それもモノクーン地方ならではの物でなければ釣り合わない』と言われてな。正直モノクーン地方ならではというとモームしか無かった訳だが、その肉では釣り合わないと返されてしまって頓挫してたんだが……」


「――乳製品が現れた?」


「その通りだっ! ミズキ君が現れた事によりモーム乳の可能性が生まれたっ! そしてちーずを始め、ばたーやよーぐると等、モームを育てている我が地方にとって乳製品は徐々に、そして確実に名産品になるだろう! そこで君達にお願いしたいのが、乳製品の有用性を知らしめて来て欲しいのだ!」


「有用性と言ってもこちらではまだ作成中では無いのですか? 私の馬車に積んでいる物でも先日作られたばかりの物でしょう?」


「だが、早急に作成している上に、ミズキ君のレシピも一緒に手回しをしている。君達が帰ってくる頃には間違いなく名産品となっているはずだ!」


 二人はバランの話に頷きながら相槌をしている。

 瑞希はふと気になった事がある。


「前提条件という事はまだ条件があるんですか?」


「気付いたか? 二つ目の条件はペムイを扱う事が出来るかという事だ」


「扱う? 農作物として育てられるかですか?」


 バランは首を振り、ミズキに視線を合わせる。


「食材として……だ。カパの様に粉にして使ったりするわけでは無いらしく、食べ方を知らない者に大事なペムイを酷く扱われるのは我慢できないと言うのだ。ミズキ君なら扱えるのではないかと思ってな」


「ミズキなら出来そうですね」


「いやいや、見てもいない食材をいきなり扱える訳ないだろ? 失敗するかもしれませんよ?」


「それならまぁその時だ。是が非でも欲しいという訳では無いのだが、あるに越した事はない作物だからな。ミズキ君に教わった事だが、人は腹が満たされていれば心も満たされるらしい。以前の私は余裕も無く、食事をおざなりにしていたが、美味い物を食べ、腹が満たされ、余裕が生まれると、歯車が噛み合った様に最近は順調で、心までも満たされている。美味い物を食べれる様になれば民達もより満たされると思うのだ」


 瑞希とドマルは初めて会った時のバランを思い出しながらクスクス笑いながらも、領民達を思うバランに協力がしたくなる。


「そういう事でしたら俺達は手伝いますよ」


「そうかっ! 成功した暁にはきちんと報奨金も出すからな!」


「じゃあ成功したら折半で良いよなドマル?」


「えっ? 僕は役に立てないよ?」


「乳製品を運ぶのはお前とボルボの仕事だろ? 俺の仕事はペムイを扱う事。仕事量からしたら充分折半されてるだろ? それにお前と金で揉めるとか俺は嫌だからな」


「僕も嫌だよ。ならこの話はこれでおしまい」


 ドマルが柏手を一つ叩くと報酬の話が終わる。

 話を終えるとバランは二人にネックレスを差し出す。


「これは?」


「テオリス家の家紋が掘られた物だ。指輪でも何でも構わないのだが、冒険者と行商人としては些か目立ちすぎるだろう? ネックレスならば服の中に隠せるし、有用時に見せればテオリス家の関係者だと証明できる」


「あの、バラン様? 何故私の分まで?」


「君には乳製品を扱ってペムイとの商談を纏めて来て欲しいからな。今回は行商で乳製品を扱うというより、ペムイとの商談で扱って貰いたい」


「そんな大役を僕に……」


「私はこれでも君をかっているんだよ? 馬車の荷を見せて貰ったが、取り分け目に付いたのは衣料品と香辛料だ」


「それはミズキの力もありましたし!」


「あほ、その場にいなかった俺の力なんて関係ないだろ? お前が使える手段を用いて商談を成功させたならそれはお前の力だよ」


「理由はどうあれ、一行商人が扱う品としては一級品だ。そして一行商人として商品を仕入れる手腕と、ミズキ君の知識を今回は貸して貰いたい」


 バランは二人に頭を下げるので、二人が慌てて頭を上げる様にお願いする。

 バランが頭を上げた事で、一息つくのだが、二人はまだ驚き戸惑っていた。


「あまり驚かせないで下さいよ」


 瑞希は大きく息を吐き言葉を返す。


「君達の成功を祈っているよ。何かあれば使者を出すからすぐに伝えてくれ」


「畏まりました。では僕達はこれで……」


 ドマルと瑞希はバランに頭を下げソファーから立ち上がる。


「あぁ。頑張ってくれ!」


 二人は執務室を離れ、皆の待つ部屋へ戻るのであった――。

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