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苦行の末のアイスクリーム

 厨房にやって来た瑞希達は見慣れた面子の中で調理を始める。

 もうすでに何回かは作っているので、ミミカも用意し始めていた様だ。


「ミズキさん、お嬢からあいすくりーむを作るって言われて来たんすけど、本当っすか!?」


「ミズキ殿ありがとうございます!」


 一度食べた事のあるジーニャとアンナはまた食べられる事を素直に喜んでいるが、ミミカは少し後ろめたい様な表情をしている。


「まぁ、バランさんとミミカが食べたいって言ってるし、ドマルがまだ食べた事無かったからな。乳製品を扱う行商人としては知っておかなければならない味だろ?」


 アンナとジーニャは瑞希の言葉に喜ばしそうに、うんうんと頷いているのだが、ミミカの表情はやはり少し暗かった。

 ドマルは職業柄、相手の表情を良く見るのため、ミミカの表情を見逃さず、事前に聞いていた瑞希の情報から苦行と言われる調理法に一人恐怖していた。


「えっと……アンナさんとジーニャさんはあいすくりーむの作り方は知らないんだよね?」


「ミミカ様からは簡単に作れるとは聞きましたが?」


「簡単に作れるのにあんなに美味しいなんてすごいっすよね!」


 ドマルは二人の言葉を聞き、ミミカに視線を向けるが、ミミカはさっと目を逸らす。


「さ、さぁ! 人も揃った事ですし皆で楽しく作りましょう!」


 どこか焦りながらも無理やり話題を逸らしたミミカに、ドマルはますます不安になる。

 瑞希は作り方を知らない者達の為に、作り方の説明をする。


「じゃあ用意する物は、モーム乳、生クリーム、砂糖、卵と、甘い香りがするこの香辛料だ」


 ミミカが用意していた食材に加え、ウォルカにてプリンを作った時に使ったバニラの様な香りのする香辛料を取り出し、作業台の上に並べる。


「初めて見た時はぷりんを作るかと思ったのじゃ」


「ぷりんってなんすか?」


「今用意した材料で作るお菓子じゃ。ぷるぷるとした食感で、甘くて美味しいのじゃ!」


「へぇ~そっちも食べてみたいっすね!」


「アイスならすぐ食べれるし、プリンなら少し時間がかかるな。まぁドマルにも作り方を見せたいから今日の所はアイスクリームにしよう……な?」


 瑞希は凄く良い笑顔でドマルに確認を取るが、ドマルは素直に返事を返すことは出来なかった。


「ミズキ……そんな笑顔で言われてももう恐怖しかないよ!」


 ドマルは瑞希に言い返すが、その言葉の意味が分からずアンナとジーニャは呆気に取られている。

 瑞希はドマルの反応が面白いのか声を上げて笑っていた。


「さて、冗談はさておき、まずはモーム乳を半分と、砂糖を入れて軽く温める。もう半分のモーム乳には卵黄と香辛料を混ぜておいてくれ。生クリームは氷水で間接的に冷やしながらビーターで混ぜて半ホイップ状態まで混ぜて行こう!」


 瑞希はパンっと手を叩き、各々に指示を出して作業に取り掛からせる。


「ジーニャ……何で私が生クリーム係なんだ?」


「うちは前のメレンゲの時にやったっすもん! 次はアンナの番っすよ!」


「まぁ良いが……ミズキ殿、こんな感じで混ぜたら良いのですか?」


「横に混ぜるより、上下に叩くように空気を混ぜて行くんだ……こういう感じな?」


 瑞希は以前ミミカに教えた様に、アンナの手を取りビーターの動かし方を教える。

 当然そんな事をすればアンナの緊張は一気に高まり、ジーニャがしまったという顔をするが、教えている瑞希は気付かずに手を離し確認する。


「クレープの時より柔らかい状態で止めてくれたら良いからな」


「か、かしこまったのだ!」


 瑞希はその場を離れ、大きなタライを取りに行く。


「(ぷぷっ。また変な言葉になってるっすよ?)」


「(し、仕方ないだろ!? お前だってしまったって顔をして無かったか!?)」


「(べ、別にしてないっすよ! 勘違いっす!)」


 二人が言い合いをしている所にモーム乳を温めて、砂糖を溶かした物が入っている鍋を持って近づいて来たミミカが合流する。


「何々? 何の話?」


「あ、お嬢。さっきアンナが――「出来たっ! ミミカ様、生クリームはこれぐらいで大丈夫でしょうか!?」」


「え? うん。これで大丈夫! じゃあ次はジーニャがやってた卵黄とモーム乳を混ぜた物にこっちのモーム乳を混ぜるの! 卵が熱で固まらない様にちょっとずつ入れるからジーニャは混ぜてね?」


 ミミカは温めたモーム乳をジーニャの手元にある常温のモーム乳に少しづつ混ぜて行く。


「じゃあアンナのボウルはその氷水から退けて、こっちの混ぜたモーム乳を冷やしながら混ぜて行って……アンナの生クリームを混ぜるの」


 ミミカは生クリームもモーム乳に混ぜてしまう。


「これで終わりっすか? でも前食べたのは固まってたっすよね?」


 調理を眺めていたドマルも予想以上に簡単な調理に疑問を浮かべていた。

 ミミカがジーニャの質問にギクリという反応を返した所で、タライを持った瑞希が戻って来た。


「ミミカ、アイスの素は出来たか?」


「はいっ! こんな感じです!」


 ミミカは手元のボウルの中身を瑞希に見せる。


「流石に何回も作ってるから完璧だなっ! じゃあ恒例のアレをやろうか!」


「背に腹は変えられません……頑張ります……」


「わしは魔法係じゃから皆の者頑張るのじゃっ!」


 調理方法を知らないアンナとジーニャは意気消沈しているミミカの姿に疑問を浮かべるが、ドマルはここが苦行と呼ばれる部分かとハラハラしていた。

 シャオが魔法でタライに氷をたっぷりと入れると、瑞希はそこに白い粉をドサっと入れる。


「ミズキ、今入れたのは何なの?」


「これは塩だよ」


「塩? 氷に塩を入れて何か意味があるの?」


「氷ってのは水が冷たくなって初めて氷になるだろ? 塩を入れると氷になるのを防ぐんだよ」


「えっと……ごめんあんまり意味が分からないや」


「つまり、凍る温度よりさらに冷たくなるんだよ。そして、武具店に無理を言って作って貰った金属の筒にさっきのモーム乳を半分ぐらい入れて蓋をして……こうやって横に向けて氷の中に突っ込んで回転させるんだ」


 瑞希は筒をガシャガシャと回し始める。

 平然とした顔で作業を続ける瑞希だが、それを見て作業に取り掛かるミミカは声に出さないが苦悶の表情を浮かべていた。


「ねぇミズキ……これってもしかして……」


「そう、これが本当に冷たいんだっ! 凍るより冷たい温度だからな!」


「ならもう少しそういう反応をしてよっ! ミミカ様だって……「いったぁいっ! もう無理ですっ! アンナっ! 交代っ! 交代ぃ!」」


 ミミカはついに我慢が出来なくなったのか、氷から手を離しシャオが気を利かせて作って置いたぬるま湯に手を突っ込む。


「良く頑張ったのじゃ! 偉いのじゃっ!」


「痛かったよぉ。シャオちゃんありがとう〜!」


 シャオも以前にやった事があるのか、ミミカを褒めている。


「あのミズキ殿……これって手でやらなければならないのですか?」


「均等に回したいからな、さぁアンナとジーニャも頑張ろうか?」


 瑞希は二人にニッコリと笑顔を見せると、キンキンに冷えた自身の両手で二人の手を掴む。


「「ひっ!」」


 そのまま二人の手を氷に突っ込むと筒を回転させる。


「痛いっす! これは駄目っす!」


「我慢我慢! この後に美味しいアイスが食べれるんだから!」


「手、手の感覚が無くなってきた……これはいつまでやれば良いのですか!?」


「こんな風に筒を振ってみて液体の音がしなかったら完成だ! という訳で俺のは完成したから後は任せたっ!」


 瑞希はミミカが突っ込んでいたぬるま湯に手を突っ込むとホッと一息をついた。

 

「痛い痛い痛いっ! 限界っす! 一旦抜けるっす!」


「私ももう駄目だっ!」


 二人も筒から手を離し、ぬるま湯に手を突っ込み、手を温める。

 四人の反応を目の当たりにしたドマルは引きつった顔をしている。


「ね、ねぇ、これって何で回転させなきゃ行けないのさ?」


「金属は熱が伝わり安いだろ? だから金属に付いた部分が固まり始めるから回転させなきゃ固まるのに時間がかかるんだよ」


「こんな苦行をしなくてもシャオちゃんの魔法を使えば良いんじゃ……」


「それだとシャオしか作れないだろ?」


「でもそもそも氷なんて……」


「もっと寒くなれば雪も降るだろ? その時なら誰でも作れるさ!」


「あぁ……だから時期が来れば誰でも作れるのか。でもこのお菓子って滅茶苦茶冷たいんじゃ無いの?」


「そうなんだよ。だから本来は暑い時とかに食べたくなるんだけど、寒い時も暖かい部屋で食べたら美味いんだよな!」


 手が温まった面々は、筒を取り出し、蓋を外す。

 そこには白く固まったアイスクリームが顔を見せるのであった――。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] このアイスクリームつくるときって、缶飲料を早く冷たくする裏技のように、紐を一回転させて左右交互に引っ張って回転させる方法なら平気では?
[気になる点] おもちゃであるような、アイスクリームメーカーみたいに容器を冷やし、中身をハンドルで混ぜるようなタイプではダメなのかな?
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