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魔法使いのお菓子

「という感じでな? 俺も久々に飲食店で働けて楽しかったんだけど、帰りの馬車の中ではシャオとミミカからガミガミ言われて大変だったんだよ……」


「ミズキが早く帰って来ずに、呑気に食事をしてるのが悪いのじゃっ!」


 ドマルはミズキの話を聞きながら質問を返す。


「じゃあこの装備は結局安くなったの?」


「あぁ! あの後武具店に行って、クルルって子の職場斡旋と引き換えに三割も安くしてもらったんだよ! なんでも俺の弟子がやってる店って聞いて働いてみたいんだって」


「弟子? ……あぁ、キアラちゃんの店か。キアラちゃんにはちゃんと聞いたの?」


「手紙でやり取りしてて、店が忙しいから助かるってさ。それにクルルは料理人志望らしいから、キアラにとっても人に教えるってのは勉強になるからな!」


「キアラちゃんは一気に二人も増えても大丈夫かな?」


 ドマルの言葉に瑞希は首を傾げる。


「二人? 紹介するのはクルルって子だけだぞ?」


「いや~……サランちゃんだっけ? ミズキの事だしなぁ……多分その子も一緒に働きたいんじゃないかな?」


「それは駄目だろ? クルルは実際辞めてるから自由だけど、サランはまだ勤めてるんだし」


「でも失敗したら首って言われてたんだよね? ミズキならそこで働き続けたい?」


「いや……それは……でも店主の人も最後の方は変わってたから!」


「まぁ僕等がとやかく言っててもしょうがないか。じゃあ旅の行きしなにウォルカに寄れば良いんだよね?」


「そうそう。ついでにキアラに教えたい料理もあるからさ! って、次はどこに行くんだ?」


 ドマルは旅の行き先を説明してなかった事を思い出し説明する。


「キーリスでは衣料品を始め売り物を色々仕入れたからね、次はマリジット地方にある水の都ミーテルを目指そうかと思うんだ! そこは魚介類も豊富だしお酒なんかも良いのがあるんだよ!」


 ドマルの言葉にピクリとシャオが反応する。


「ミズキは魚料理も作れるのじゃ?」


「当たり前だろ? 俺の故郷は魚介類豊富な国だったんだぞ?」


「あの香草を使った料理みたいなのじゃ?」


「ああいう料理もあるけど、俺はあんまり作らなかったな。俺の故郷は生でも魚を食べるし、焼いたり、煮たり、揚げたり、蒸したり……と、色んな食べ方をしてたな。こっちに来る前に最後に食べた食事も魚の塩焼きを食べてたぐらいだしな」


 瑞希はそんな話をしていると、米が食べたくなって来た。

 シャオも瑞希の話を聞いてる内に涎が出て来たのかじゅるりと音を鳴らして啜る。


「マリジット地方にもミズキが喜んでくれそうな食材があると思うんだよね!」


「それはありがたいんだけど、ドマルの商売的にはその地方で大丈夫なのか?」


「問題ないよ! しかも今回は香辛料まであるからね! 頑張って売るよ!」


「それなら良かった! シャオも美味しい物いっぱい食べような!」


「当たり前なのじゃっ!」


 三人は楽しそうに荷造りを続ける。

 そんな中部屋を恨めしそうに覗き込む二人の親子が居た。


「ミズキ君……今日はアレを作ってはくれないのか?」


「ミズキ様……私もアレが食べたいです」


 意識もしていない所から急に声が聞こえたため瑞希は驚き肩を跳ねさせる。


「わぁー! びっくりしたっ! アレですか……何回食べれば気が済むんですか……」


「わしもおやつに食べたいのじゃ! 早く一緒に作るのじゃ!」


 ドマルからすれば、瑞希以外の三人の反応からして、瑞希のお菓子なのだろうと予想をつける。

 ドマルはたまたまではあるが、未だに口にしてはいなかったため、疑問が浮かぶ。


「ミズキ、アレって言うのは何なの?」


「さっきの話には続きがあってな、城に戻ってから簡単な食後の甘味をお詫びに作ったんだよ」


「あぁ、特別なお菓子って言ってた奴? 簡単なお菓子なんだ?」


 食べてもいないドマルなので、瑞希の説明を聞いてもピンと来ないのだが、バランとミミカはわなわなと震え叫びだす。


「ミズキ様からすれば簡単かもしれませんが、アレはミズキ様達にしか作れないじゃないですか!」


「そうだぞミズキ君! アレは魔法の様な料理ではなく魔法そのものではないか!」


「バランさんは魔法嫌いだった筈なのに……まぁミズキなら仕方ないか」


 ドマルは慣れて来たのか、諦めの様な言葉を呟きながらも、二人を虜にしたお菓子が気になり始める。


「ねぇミズキ、僕も食べてみたいから作って欲しいな!」


「じゃあ今から作りましょうか。せっかくなら皆の分も作ろうか? ミミカも当然手伝うよな?」


「勿論です! あの味の為ならばどのような苦行ですら耐えてみせます!」


「私も手伝うぞ!」


 ドマルはますますどの様なお菓子なのかが想像出来なくなる。

 瑞希もドマルも城に寝泊まりする様になり感覚が麻痺しているのかもしれないが、貴族であり領主であるバランがたかがお菓子の為に料理番の手伝いを申し出る事自体が異常事態なのだ。


「バランさんは御自身の仕事をしてて下さい。認知が広まればアレがいつでも……は無理か。でも誰でも作れる時期もあるんですからね」


「ぬうぅ……ちゃんと執務室に持って来てくれるな? たっぷりだぞ?」


「わかってますよ。とは言ってもたっぷり作るならもう少し人手は欲しいな……アンナとジーニャにも手伝って貰おうか?」


「急いで呼んで参りますっ!」


「じゃあそのまま調理場に向かっといてくれ」


「はいっ!」


 そう言うとバランは仕事に戻り、ミミカは走ってどこかに消えて行く。


「簡単なお菓子なのに苦行があって、誰でも作れるけど時期が関係するの? でもバラン様の仕事って事はモーム乳関係だよね?」


「さすがドマル! するどいな」


「ミズキの料理に驚く事には慣れたけど、料理の内容までは分からないな。簡単なお菓子って事はすぐ作れるんだよね? 丁度良いからキアラちゃんのお土産にはしないの?」


「どうせなら向こうで作るよ。出来立ての方が美味しいからな! その時はドマルにも手伝って貰うからな?」


「わしはもうやらんのじゃ! あれは辛いのじゃっ!」


 瑞希は悪そうな顔をしながらドマルに微笑みかける。

 シャオは一緒に作ると言いながら、もうやらないという矛盾した宣言をした事により、ドマルは内心焦り始めた。


「ミ、ミズキ? それって本当に料理だよね? 修行とかじゃないよね?」


「間違いなく料理だよ? まぁまぁドマルは今日初めて食べるからまずは見物しといてくれて良いよ。キアラの家で手伝ってくれれば良いって」


 瑞希はドマルの肩にポンっと手を置くのだが、ドマルからしたら恐怖以外の何物でもない。


「せめてその料理の名前だけでも教えて貰えないかな?」


「名前か? 名前はアイスクリームだっ! 正確にはバニラアイスかな」


 名前を聞いても何が苦行かわからないドマルと、その顔を見ながら悪戯心に火が付いた瑞希が悪そうに笑いながら調理場へ向かって行くのであった――。

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