結果発表
無事に何事も無く営業を終えた瑞希達は、片付けを終えると料理人達やサランと共に、賄いを食べながら雑談をしていた。
瑞希は料理人達と料理の話をしながらメイチやカプリ等、使った事の無い食材の仕込み方を教えて貰っていた。
「――待たせたな」
店主の男はそう言うと、瑞希も含めた従業員の前に金を置いて行く。
「それとサラン、役立たずと言って済まなかった。お前は今日きちんと仕事をしていた」
店主はサランに対して素直に頭を下げた。
「え? え? あの、その……」
「それから小僧……いや、ミズキ、昼間は済まなかった。ミズキの言った様に俺がやり方を変えればサランもここまで仕事が出来るんだな」
「そうですね……やはり伝達の仕方というのは大事ですね」
「それ以上に俺はお前の給仕っぷりの方に驚いた。なぜあそこ迄客の予測が出来るんだ?」
瑞希に質問を投げかけられた横では、サランが緊張の為かグラスに入った水をごくごくと飲みほしていた。
「例えば今サランは水を飲み干す為にグラスを上に傾けましたよね? この角度ならもう飲み切ったなって分かりますし、会計をされる卓は最後の注文をしてからどれぐらいの時間が経ったか等でも分かります」
瑞希は自身が飲食店で培ってきた技術とも言える能力を説明する。
「じゃあまだ席についてない客に事前に注文を聞いてた意味は何なんだ?」
「あれは回転率を上げるためですよ」
「回転率?」
「貴方がサランに謝ったという事は今日の売上は良かったんですよね?」
「あぁ、今までで最高の売上と言っても良い。だが営業の時間はいつもと変わらないのになぜだ?」
「元々このお店はお客様が入るお店ですし、店側が同じ営業時間で売上を上げようとするならお客様の回転を早める事が一番早いんですよ。事前に注文を聞いておけば調理にかかる時間を短縮できるでしょ? それに、サランに飲み物のお代わりを聞いて貰ってたのも、呼ばれる前に注文を聞く事でわずかですが時間の短縮になりますね」
サランを始め従業員達が感嘆の声を漏らす。
しかし、瑞希は説明を続ける。
「ただ、このやり方も諸刃の剣で、あまりやり過ぎるとうっとうしがられるので注意は必要ですし、料理が出過ぎると冷めてしまいますしね。この辺りの塩梅は慣れですよ」
「じゃあミズキさんが一部の料理を先にして欲しいとかを厨房に伝えていたのは?」
「あれは食べる早さが人によってバラバラだろ? その早さを見計らって厨房に伝えて順番を変えて貰ってたんだよ」
黙って瑞希の説明を聞いていた店主の男が口を開く。
「そこまでする必要があるのか?」
「それは店主が決める事ですし正解はないんじゃないでしょうか? ただ今日に限って言えば私のやり方ですので、私が決めてる信念の元、営業させて頂きました」
「ミズキが言う信念とは?」
「楽しむ事です。店が賑わい、料理が褒められ、お客様が料理や飲み物を楽しめる空気感を大切にしてます。サランは今日働いてみてどうだった?」
「今日はお客さんに褒められたんですよ! それにお礼も言われました!」
サランは瑞希に嬉しそうに今日あった事を報告する。
「こうやって従業員の笑顔が自然に出てると自然に料理も美味しく感じますよ」
瑞希もにっこりと微笑む。
男は納得が行ったのか、ふふっと微笑んでしまう。
「いや、その通りだ。思えば私は怒鳴ってばかりだったな……先日辞めた娘にもそれは指摘されたのだがカッとなって言い返してしまった」
「貴方の言動はきついかもしれませんが、優しさが無いとは思いませんよ。現にこうやって約束は守ってくれてますしね」
男は大きく息を吸い込み、吐き出すと、従業員にまた深く頭を下げる。
「今まで済まなかった。実際にミズキに教えられ、目の覚める思いだ。これからは瑞希のやり方も交えつつより良い店にしていこうと思うから宜しく頼む!」
従業員達は動揺しているが、素直に謝罪する店主に向け頭を上げる様に促す。
瑞希は仕事も終えたので、後片付けをしようと皿を纏めていると再び男から声を掛けられる。
「ミズキは料理も出来るのか?」
「え? まぁそっちの方が得意ではありますね?」
「なんと……もし良かったらうちの店で――」
店主の言葉が言い終える前に店の扉がバタンっと大きく開く音がする。
「ミズキ様っ! 今日の料理の約束はどうしたのですか!?」
「仕事を終えたのじゃったら早く帰るのじゃっ!」
いきなり入って来たのはミミカとシャオだ。
店主の男はいきなり領主の娘が顔を出した事に驚愕し固まってしまう。
「あぁっ! ごめんすっかり忘れてたっ! すみません! 後片付けも手伝えないのですが、帰らせて頂きます! 失礼しますっ! サランも元気で頑張れよっ!」
「はいっ!」
瑞希は慌ただしく店を後にする。
――もうっ! お父様もミズキ様の料理を楽しみにしてたんですよっ!
――ごめんごめん。食事は終えただろうからお詫びにとっておきのお菓子を作るよ。
後に残された店の面々は狐に抓まれた様な顔で、取り残されていた。
「彼は一体何者なんだ? 何故テオリス家の方が迎えに来るんだ……」
「あの! ミズキさんが報酬を忘れてますので追いかけて来ます!」
サランが慌てて卓上のお金を掴むと店を出ようとしたが、店の扉の前に一人の帽子を被った人物が立っていた。
「あの兄ちゃんとさっきすれ違ったけど、それは返すってよ」
「え? あっ! クルルちゃん!?」
「クルルか……この前は済まなかったな」
「こっちこそ……悪かったよ……」
「ミズキに新しいやり方を教えて貰ってな……お前も戻って来ないか?」
クルルは帽子を脱ぐと金髪の髪が現れた。
クルルは特徴的な八重歯を出しながらニッと笑う。
「今日さ、客として兄ちゃんの営業を見てて思ったんだよ! この人のやり方を知りたいって! でも店を持ってる訳じゃないからさ、それまでは兄ちゃんの弟子がやってるって店があるからそこで働きたいんだっ! ただ、やっぱきちんと謝っておこうと思って来たんだ……」
「そうか……いや、俺はお前を辞めさせたんだ。自由にしてくれて構わない……サラン、お前は良いのか?」
「へっ!?」
急に話を振られたサランは驚く。
「俺はミズキが働くまでお前を首にしようとしていた男だ。サランもミズキの所で働いてみたくはないのか?」
「私は――」
サランは急に特別に変わった一日を思い返し素直な気持ちを伝える。
瑞希はミミカに怒られながらも、特別なお菓子という言葉でシャオとミミカを宥めながら武具店に寄り、城へと帰路に着くのであった――。
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