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指示とフライドグムグム

 サランは最初に出された指示の意図が分からなかったのだが、確かな分かりやすさに、徐々に落ち着き始めていた。


「サラン! もうすぐ1番卓の料理が出来るから頼む!」


「はいっ!」


 瑞希の指示通りに厨房に向かうと丁度料理が出来ており、迷わずに1番卓に料理を運ぶ。


「お待たせしました! リッカの酢漬けです!」


「お? サランちゃん今日は間違えてないね!」


「はいっ!」


 サランはにっこりと微笑むと卓を離れる。

 すれ違う瑞希がサランに小声で話しかける。


「3番卓のグラスが空いてるからお代わりがいらないか聞いてくれないか? にっこりと笑顔で頼む」


「わかりましたっ!」


 サランはニコニコしながら3番卓に向かって歩いて行く――。


◇◇◇


 開店前、サランに店内の説明受けていた瑞希は一つ提案をする。


「サランさん、料理は注文をした人に提供するのが好ましいですが、最低限その卓にさえ持って行ければ大丈夫ですから、卓に番号を打ちましょう」


「番号ですか?」


「そうです。今卓は全部で10卓ありますよね? 近い席から順に1、2、3……という風に覚えて下さい」


「それでは料理を誰の前に出せば良いか分からないのでは?」


「そんなのはお客さんに聞けば良いんですよ。相手は人間でしょ? これを頼んだ方はどちらですか? と素直に聞けば教えてくれますよ。もちろん給仕としては頼んだ人の前に出すのが最善ですが、今はそこまで求めません」


「わかりました! ……あの、ミズキさんの方が年上でしょうし普通に喋って貰っても良いですよ?」


「了解。じゃあサラン、今日は一日宜しく頼む!」


「はいっ!」


 瑞希はサランの返事を聞くと、次は厨房へと足を運び、料理人達と会話をするのであった――。


◇◇◇

 ――夜の部が開店してから早二時間は経とうとしているが、席は既に満席で、外には待っている客も出て来た。


「サラン、6番卓の方がそろそろお会計だと思うから、次のお客さんから注文を事前に聞いといてくれ!」


「はいっ!」


 サランは瑞希の指示に首を傾げながらも注文を取りに行き、瑞希が言う様にその間に6番卓から会計がかかる。


「ありがとうございました! サラン! この卓の皿を下げるついでにさっき取った注文を厨房に伝えてくれ!」


「わかりました!」


 瑞希はサランの手が空くのを見計らい、次の指示を出していく。

 片付けた卓に次の客を案内すると、すぐに事前注文されていた飲み物と料理が運ばれて来る。


「料理来るの早いなっ! 腹減ってたから助かるよ! ありがとう!」


 サランはぺこりと頭を下げるとにやにやと笑みを浮かべていた。


「(お客さんに褒められちゃった!)」


――この香草焼きの香りが良いわね……


――ぷはぁっ! でよぉ! 俺がこう言った訳だ……


 瑞希は空いてる皿を下げて厨房に戻る。


「5番卓の女性の方は香草焼きの香りが気に入ったみたいですよ! 美味しく作ってくれてありがとうございます! サランは8番卓の男性のグラスが空いたと思うから空いてる皿を下げるついでに追加注文がいらないか聞いてみてくれるか?」


 瑞希の言葉に料理人達も笑顔で料理を作る。

 料理人たるものやはり人に美味いと言ってくれるのが嬉しく、瑞希はその都度客の状況を厨房に伝えるので料理人からすれば楽しいのだ。


「8番卓にマルク酒を2つお願いします!」


 サランも客に褒められたりして気分が上がってきているのか、徐々に声も大きくなって来た。

 昼間の自信が無かったサランからは想像も出来ない元気の良さだ。

 瑞希は手が空いたので客の顔を眺めながら卓の状況を確認していた。


「そろそろ7番卓が会計かな……あ、いらっしゃいませ! ってシャオか。もうすぐ席が空くと思うからもう少し待っててくれな?」


 シャオを先頭に、武具店の男と、帽子を被った若い女性が店に入って来た。


「くふふふ。ミズキが生き生きしておるのじゃ」


「そりゃ俺の本業だからな! ――ありがとうございます! こちらのお客様の会計をお願いします!」


 瑞希に伝票を渡された店主の男はぶすっとしながらも素早く会計を終わらせた。


「サラン、7番卓は片付けておくから、次に座るお客様の注文を……「わかりました! 次はミズキさんの妹さん達ですよね?」」


「あぁっ! 宜しく頼む!」


 瑞希はニッと笑顔を見せると、サランもまた笑顔を返す。

 その光景を見ながら店主の男は同じ時間帯でいつもより上がっている売上に気付き始めた。

 シャオ達は席に案内され、ミズキが飲み物と一緒に持ってきた料理を眺めていた。


「なんじゃこれは?」


「名付けるならフライドグムグム(ジャガイモ)だな! グムグムを細く切ってそのまま揚げて塩をかけただけなんだけど、酒のつまみにもなるし、子供のおやつにもなる。まぁ居酒屋の定番メニューだな! 昼間に揚げ物が出て来たから料理人の方々に頼んで今日だけ作って貰ってるんだよ!」


 男はフライドグムグムに手に取ると、目の前でじっくりと観察している。


「グムグムを揚げるのか……」


「安心するのじゃ! 食わずとも美味いのじゃ!」


 シャオは瑞希の言葉を聞いて、迷わずに料理を口に頬張る。

 サクッとしたした表面を噛むと、中からはホクホクとした熱々のグムグムが顔を出し、塩だけの味付けにも関わらず、そのおかげかグムグムの甘さを引き出している。


「くふふふ。単純なのに美味いのじゃ」


「おいおいおい、エールにえらい合うじゃねぇか! 兄さん! もう一杯エールをくれ!」


「ありがとうございます! サラン! 7番卓にエールを一杯頼むっ!」


「はぁいっ!」


 瑞希もシャオ達の卓から離れ、別の卓で接客を続ける。

 シャオ達と一緒に来た見慣れない女性は黙々とフライドグムグムを頬張る。


「お待たせしましたっ! エールとカプリの炒め物です!」


 サランはニコニコと追加で頼まれたエールと、事前に注文を受けていた料理を運んできた。

 その姿を見た帽子を被った女性がサランに話しかけた。


「サランちゃん、凄い良い顔してるじゃん」


「えっと……もしかしてクルルちゃん?」


 帽子を被った女性は帽子からこっそり目を出すと、指を口の前で立てながらサランに笑いかける。


「元気そうで良かった。あのバカ店主はまだ怒鳴ってるのか?」


「今日はミズキさんが代わりに働いてるから平和だよ! それに仕事が楽しいんだっ! あ、ごめんね? 次の料理運ばなくちゃ!」


「手を止めて悪かったね。頑張ってな?」


「うんっ!」


 サランはクルルとの会話はそこそこに瑞希の側に行き次の指示を受けに行くのであった――。

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