シャオをもふもふ
瑞希達を乗せたドマルの馬車は、ガタガタと音を立てながら、踏みならされた街道を走って行く。
そんな中、瑞希はシャオに喋りかける。
「あのすごい速さで空を飛んだのも魔法だよな? 最初からあの魔法で上空へ上がればこの道を発見できたんじゃないか?」
猫の姿になったシャオはそんな事は知らないと言わんばかりに、瑞希の前で腹を出して、撫でろと催促した。
「そういやバタバタしてお礼をしてなかったな。まずは助けてくれてありがとう」
シャオは尻尾を大きくゆっくり振ると、ふんっと息を吐いた。
瑞希はシャオの人間嫌いが気になり言葉を続ける。
「シャオはさ、人間が嫌いって言ってたけど、俺にも嫌いな人間はいたよ。でも好きな人間もいる。シャオが俺を気に入ってくれたように、他の人間にも良い人はいるかも知れないだろ? 人間との間で何か問題起きたら俺は必ずシャオを助ける。だからさ、人間というだけで嫌うのは止めないか?」
シャオはじっと瑞希の目を見ると、了承したのかゆっくりと目を閉じた。
「それじゃ今からもふもふなでなでするから覚悟しろよ~? 俺はこれでもじいちゃん家の猫や犬とかを骨抜きにさせた腕前なんだぞ? シャオ、ちょっと膝に乗せるぞ?」
シャオは何を訳のわからない事を……と甘く見ていたのだが、いざもふもふが開始すると……。
「まずは手からほぐそうな」
瑞希は自分の膝の上にシャオを乗せ、両手でシャオの前足を一本ずつ握り親指でムニムニとマッサージし始めた。
「にゃっ!」
「次はあごだな」
瑞希は左手でシャオの腕の下辺りを通し、自身の胸で固定し、右手の五本の指でワキワキとあごを掻いたと思えば、掌でまとめて撫でたりを繰り返す。
「にゃふ~」
「首元も気持ちいいだろ?」
あごを撫ででいた右手を背中側から首元に移すと、耳の付け根を掻いたり、鼻筋を指先でツツーとなぞったりしていく。
「――っ!」
「次はシャオの協力も必要なんだが……。シャオ、俺に向かって座ってじっとしてろ」
気持ちよかったのに……。とシャオはのろのろと移動すると、瑞希はシャオの顔を両手でスポっと覆い、両手の親指と人差し指の間でシャオの耳をゆっくりとかつ絶妙な力加減でマッサージしていく。
「猫にこれをやると嫌がる奴もいるんだが、好きなやつはとことん好きなんだよな。シャオはどうだ?」
言うまでもなくシャオは蕩けていた。
味わったことのない絶妙な力加減に加え、普段自分で触ってもなんとも思わない耳が、人の手に、否、瑞希の手によるとこんなにも気持ち良くなるものなのかと。
「シャオは耳も好きみたいだな。おっとと力が抜けてきたか? じゃあそのままうつぶせになって楽にしな」
シャオは言われるがままにうつぶせになり、これ以上何があるのかと期待をしたが、同時に恐怖した。
瑞希はうつぶせになって寝そべっているシャオの頭から肩甲骨にかけて優しく撫でたり、掻いたりを繰り返し、徐々にその手を背中へ……そして尻尾の付け根辺りへと手を進めていきゆっくり撫でてやる。
「――にゃ、にゃっ、ぁぁぁん……!」
もうシャオの体に力は入らない……。
この男、桐原瑞樹は相当な女ったらしではなく、猫ったらしなのであった――。