噂の飲食店
明日からは一話ずつ更新していきます。
――キーリスの領主であるバランを通し、キーリスに乳製品の技術を伝え終えた瑞希は城にある自室でドマルとシャオと共に荷造りをしていた。
「僕まで城で寝泊まりさせて貰って良いのかな?」
「ドマルは行商で乳製品も扱う最初の行商人なんだから良いんじゃないか?」
「それこそ恐れ多いよ……」
「あほ。ドマルには乳製品の活用方法も教えたし、色々食べて味も知ってるだろ? ドマルがやらなきゃ誰も出来ないだろ?」
「そうか……そうだね! 色々教えてくれてありがとうねミズキ!」
「どういたしまして! それよりシャオ、いつまでも膝で丸まってないで準備を始めろよ?」
猫の姿になって瑞希の膝でリラックスしていたシャオはぼふんと人の姿に変化する。
「準備と言ってもわしの用意はないのじゃ」
「あるだろ? お前がミミカやキアラに貰った服がそこにあるから鞄に詰めろよ」
「別にわしはこの姿で構わんのじゃ」
「ほぉ~? ならシャオの櫛もブラシも鞄には入れないし、当然それが無けりゃブラッシングも無しだからな?」
「じょ、冗談なのじゃ! ドマル! わしの鞄を早く寄越すのじゃ!」
ドマルはくすくす笑いながらシャオに鞄を渡し、シャオは慌てて鞄に荷物を詰めて行く。
「ミズキの装備は着て行くんだよね?」
「当たり前じゃ!」
瑞希に聞いたつもりが、鞄に荷物を詰めていたシャオが声を上げる。
瑞希はシャオの頭を撫でながら答えた。
「折角シャオが俺に買ってくれたんだからもちろん着て行くよ。革の鎧だからそんなに動き難くも無いし、何があるかもわからないし……」
キーリスの武具店で作成してもらったオーガの革鎧と、魔鉱石で出来た片手剣を見ながら瑞希は思い出す。
一緒に作って貰った魔鉱石で出来た包丁で、シャオに魔力を流して貰い、食材を切ろうとしたらまな板ごと真っ二つにしてしまった事を。
「まぁここまでの切れ味が必要なのかは悩む所なんだけどな……」
「でもすごく良い物だよね! 僕もそんな剣は商材としても扱った事ないよ」
「受け取りに行った時に一騒動あったけどな……」
「ミズキは飲食店が絡むと怖いのじゃ」
「一体何があったのさ?」
瑞希は荷物を詰める手を止め、その日の出来事をドマルに語る――。
・
・
・
・
・
・
◇◇◇
装備が出来るという日に武具店に訪れようと、瑞希とシャオはキーリスの街を歩いていた。
通り道にある飲食店は人気店なのか、がやがやと賑やかな声が外まで聞こえている。
「あそこの店は人入りが良いな~? 美味い料理でも出してるのかな?」
「今はそれより装備じゃ!」
「はいはい。わかったよ。シャオの買ってくれる装備だから大事にしなきゃな!」
「当たり前じゃ! わしもお主に貰った物は……」
シャオの頭には瑞希がココナ村で買ったリボンが巻かれており、ポニーテールに纏められたシャオの髪の毛がゆらゆら揺れている。
二人がしばらく歩くと、装備の制作を注文した武具店に到着する。
「ごめん下さい!」
瑞希が店内に入り、声をかけると瑞希を待っていたのか、装備の注文をした職人の男がすぐに顔を出した。
「待ってたぞ兄さん。約束の品は向こうに置いてあるから一緒に来てくれ」
男がそう言うと工房を離れる様に歩いて行くので、瑞希とシャオはその男について行く。
案内された部屋は個人工房なのか、こじんまりとはしているが、装備が作れるような道具が揃っている。
「剣と包丁はそこの台の上にある。鎧はこれだが、兄さんに着てもらってから微調整をする。まずは剣を手に取ってみてくれ」
瑞希は作業台の上にある片手剣を手にする。
大きさ自体は以前の剣より少し長いのだが、以前の物より軽い。
「軽い! すごいですね!」
「兄さん、こっちに丸太を用意したからちょっと切ってみてくれ」
瑞希は丸太に対して袈裟切りに切りかかる。
しかし丸太の真ん中辺りで刃は止まる。
「感触はどうだ?」
「ぶっちゃけスパッと切れるかと思ってましたが、この軽さでここまで刃が入るなら十分じゃないですか?」
「まだまだ、次は魔力を込めて切ってみてくれ」
「手伝うのじゃ」
シャオは瑞希の背中に手を置き、瑞希は再び丸太に切りかかる。
すると次は抵抗もなくスパッと丸太が切り落とされた。
「手応えを全く感じなかった……え、怖っ」
「剣を見せてくれ」
瑞希は男に剣を渡す。
男は剣を手に取ると色々な角度から剣を眺め確認する。
「問題ないな。これなら兄さんの使い方にも応えてくれる。じゃあ次は鎧を調整するから着てくれ」
瑞希が革鎧を着て、男が調整していく。
シャオは嬉しそうにその光景を眺めている。
「ミズキ、その姿でこの剣を腰に差すのじゃ」
瑞希はシャオに手渡された剣帯を取り付け、剣を腰に差す。
「くふふふ、似合うのじゃミズキ!」
「そうか? シャオが気に入ったのなら良かったよ。それより俺は包丁が気になるんだけど……試し切りは料理の時にでもするか。じゃあお代ですが……」
「それなんだが、兄さんは料理が出来るんだよな? 飲食店で働いてた事はあるか?」
想像もしてなかった質問に瑞希は疑問を浮かべながら答える。
「故郷では飲食店で店舗を任されてましたね」
「じゃあ人に使われた事も使った事もあるよな?」
「もちろんそれはありますけど……どうしたんですか?」
「いや……その……親戚の娘が飲食店で働きたいって言ってるんだがどこか紹介してくれないか? 俺は武具店の事は分かるが飲食店の事はわからないんだ。働ける店を知ってないかと思ってな?」
「その娘さんは御幾つですか?」
「十五歳だな。成人もしてるし、紹介してくれるなら他の街でも良いんだが」
「(十五歳で成人? そう言えばキアラも十五歳になったらとか言ってたから十五歳が成人かな?) そうですね……娘さんは料理人になりたいんですか?」
「そうなんだ。兄さんも料理人なら伝手があるかと思ってな」
「そう言われてもこの地方で僕が知ってる店なんて少ないですよ……いや、もしかしたらウォルカなら紹介できるかも……」
「本当か!? 紹介してくれないか!?」
「別に構わないですが、別に伝手なんかなくてもキーリスでもいくらでも働ける飲食店はあるでしょう?」
「それがな……キーリスの人気店で少し働いてたんだが……誰に似たのか気が強くてな……店主と喧嘩しちまったのが噂になって雇って貰えないんだよ」
「それは難儀ですね……でも性格に問題があるというなら俺も紹介はできませんよ?」
「確かに気は強いんだが、昔からクルルを知ってる俺としては一方的に問題があるとは思えないんだよ……一度その飲食店に行って様子をみて来てくれないか?」
「それは構いませんが……そうだな。丁度昼時だから今からシャオと昼食がてら行ってみます」
「今日は外食なのじゃ?」
「たまには外で食べるのも勉強だ!」
「じゃあ装備の代金は感想を聞く時に貰うから、宜しく頼んだ! 店の場所は……」
・
・
・
・
・
・
武具店の男から飲食店の場所を聞き出し、向かってみると、行きしなに通りがかった飲食店であった。
「丁度来てみたかった店だ!」
「早く行くのじゃ! わしは腹が空いたのじゃ!」
「はいはい。じゃあ行こうか!」
瑞希はシャオと手を繋ぐと噂の飲食店の入り口に足を進めるのであった――。
面白いと思っていただけましたらブックマークをお願いします。
評価や、特に感想を頂けますと、作者のモチベーションがグッと上がりますので、宜しければ下記にある星マークや、ランキングリンクをぽちっとお願いします。