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幕間 兄妹と竜



 ――どこかの砂漠をどこかの兄妹冒険者がへとへとになりながら歩いている。



「――おにい~……あつい~……お腹空いた~……喉乾いた~……」


「そんな事言ってもしょうがないだろ……ここに竜が出たって報告があったんだから」


「竜なんかいないって! ガセ情報だよこれ~! もう帰ろうよ~!」


「じゃあ今日一日探して出なかったら帰ろう? な? そうだ、カパ粉焼き食べるか?」


 男は妹に何故か輪っかになっているカパ粉焼きを差し出した。


「口の中パッサパサになるわ! しかも何でこんな変な形になってんのよ!」


「普通に作っても面白くないだろ? 大体カパ粉焼きを円に作る必要だってない訳だ。他にも棒状のとか四角形のもあるぞ?」


「何なのよその無駄な努力……おにいは料理のセンスが無いんだからそんな無駄な事したって美味しくならないよ!」


 妹の言葉が男にぐさりと刺さる。


「言ってくれるじゃねぇか……じゃあもし竜を仕留めてもお前には食べさせないからな?」


「食べたくないわっ! そんな変なの食べたがるのおにいだけだって!」


「美味いかもしれないだろ!? 誰も食べた事ないんだぞ? それだけでもわくわくするだろ!」


「ないないない! わくわくしない! わくわくするのは討伐報酬だけ! もしくはその後の魔法で冷やした蜂蜜酒だけだから!」


「おっさん冒険者かお前は……おいっ! あそこ! 不自然に砂埃が立ってないか?」


 兄妹二人は目を凝らし砂埃が立っている方を見ると大きな蜥蜴に翼が生えた様な魔物が二匹で争う様に暴れていた。


「サンドサーペント? ……いや、飛んでるからウィッチサーペントだね? やるの?」


「何で争ってんだろうな? 遠目で見れば竜に見えない事もないか……しょうがない、今回はあれを狩って帰ろうか? 多分報告に挙がってた竜はあれの見間違いだろ?」


「了~解っ! じゃあおにい! 走るよ~!」


 妹が風魔法を使い、二人の背中を柔らかく、それでいて強く押していく。

 二人はその勢いのままウィッチサーペントまで駆けて行く。


◇◇◇


「「ゴギャアー!」」


 飛んだり跳ねたりしながら争いを続ける魔物は風を起こし、お互いを傷つけ合い疲弊していく。

 その二匹の足元から火柱が立ちあがり、燃やそうとするが、一匹はそのまま火柱に飲まれ、危険を察知した一匹の魔物はふわりと後方に避ける。 


「おっしぃ! 一匹外したっ!」


「任せろっ!」


 男はそのまま妹の魔法の力を借り、走りながら跳躍すると、ウィッチサーペントの背に乗り手に持っていた剣で羽を切り落とした。

 落下しながらも男はウィッチサーペントの首に剣を突き立てると、地面への落下の衝撃も合わさり、首に深く剣が刺さり、ウィッチサーペントは絶命した。


「おいっ! そっちのはまだ息があるぞっ!」


「はいは~い! よいっしょお!」


 妹が気の抜ける様な掛け声を上げると、焼け焦げていたウィッチサーペントの腹や首に砂が突き刺さると、そのままの体勢で横に倒れて行く。


「何でこいつら争ってたんだろうな?」


「分かんないけど、とりあえず売れる部分剥ぎ取りしてさっさと帰ろうよ~!」


「まぁそうだな……」

……み~。


「ん? 何か言ったか?」


「何が? もうこいつらの皮堅いよっ!」


 二人で剥ぎ取りをしている中、耳の片隅に何かが聞こえた男は辺りを見回しながら耳をすませる。


「みぃ~」


「やっぱり何か鳴き声聞こえるって!」


「え~?」


 妹は手に付いた血を払いながら男と一緒に耳をすませてみた。


「みぃ~!」


「ほらっ! 聞こえただろ?」


「聞こえたね? あっちの方からかな?」


 妹が指を指した方向には砂しか無いが、二人で歩いて行く。


「みぃ~」


「さっきより近づいて来てる……てか真下から声が聞こえた様な……」


「みぃ~!」


 砂の中からもぞもぞと一匹の動物が這い出て来た。


「何だこいつ?」


「可愛い~! 何この子!」


「みぃ!」


 ずぼっと砂の中から身体を出した一匹の動物は、妹に近づくとすんすんと匂いを嗅ぎ、頭を擦り付けた。


「はぁ~! 何々~? 撫でたいけど手が汚れてて……おにい! 水っ!」


「いや、お前貴重な水を……」


「良いのっ! どうせもう帰るだけだし、その気になったら魔法で水も出せるからっ!」


「後悔すんなよ? 我慢するのはお前だからな?」


「わかったわかった! はいお願い!」


 妹が両手を男の前に出すと、男はため息を吐きながらちょろちょろと水をかけてやる。

 手が綺麗になった妹は擦り寄って来た動物の体を撫でると、毛に付いた砂を払う。


「みぃ?」


「くぁ~わいい~! おにいこの子連れて帰ろう!」


「こいつ見た事ない動物だな? さっきのサーペント共はこいつを狙ってたのか? お前、魔物から逃げてたのか?」


「みぃ!」


 言葉など通じるとは思っていなかったが、動物は予想に反してしっかりとした返事を返す。


「もう大丈夫よ! さっきの奴等は私達が退治したからね!」


「みぃ~」


 動物は長い尻尾を妹の足に絡め、スリスリと体を擦り付ける。


「エミュに似てるけど、尻尾があるんだよな……なぁ、こいつ高く売れるんじゃないか?」


 妹と動物は男の言葉にショックを受け、妹が烈火の如く怒りだす。


「おにいっ! 何てこと言うのよっ! この子を売りに出す訳ないでしょ!? 大丈夫だからね? おにいはアホだけど、私が守ってあげるからね?」


「みぃ……」


 妹の後ろに隠れながら男の顔をちらちらと覗き込む。

 男はばつの悪さに頬を掻きながら天を仰ぐと、遥か上空に空を飛ぶ何かを見つける。


「みぃーー!」


「なになに? どうしたの?」


「おいっ! あの上空の影ってもしかして……」


 二人と一匹が見た物は幻なのか?

 すぐに見失ったのではっきりとは分からなかったが、男は確信してこう呟いた。

「――絶対に喰ってやる!」


 それは兄妹が竜を目指す物語の始まりの出来事なのであった――。

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