ケチャップとウスターソース
ある程度の仕込みを終えた瑞希は、晩餐に使うかは決めてないが、作っておきたかった調味料を作り出す。
用意するものは似ているが、まるで違う調味料が出来上がる。
「じゃあ今からウスターソースとケチャップを作っておこうと思うんだけど、晩餐は何か食べたい物はないか?」
「前に言ってた父の好みなのですが、父はもしかしたらグムグムが好物かもしれません。最近一緒に食事はしていますが、グムグムが出た日は顔が綻んでいた様に思えます」
「グムグムか……ミミカは当然お肉が食べたいんだよな?」
瑞希がミミカを茶化すと、アンナとジーニャがくすくす笑う。
「もうっ! ミズキ様!」
「でも丁度今日は肉料理のつもりだったんだ。ミミカ、オムレツは作ってるって言ったよな? 材料は前教えた通りか?」
「はい? ちゃんと教え通りの材料で作ってますが?」
「じゃあ今日は同じ材料で魔法のオムレツを出してやるよ! それに小さ目のグムグムのコロッケを添えるか……。ならスープは……」
瑞希はぶつぶつと独り言を言いながら献立をたてているが、魔法のオムレツという単語にミミカは期待を膨らませていた。
「魔法のオムレツって何ですか!?」
「ん? あぁ、それはな……いや、止めとこう。親父さんと一緒に当ててみな」
瑞希は笑いながら、ソース作りを開始しようと、材料を取り出し始めた。
アピー、ポムの実、パルマン、カマチ、オオグの実、クルの根、その他には砂糖や塩、酢、香辛料各種を用意する。
「とりあえずは野菜を全ておろしてしまって、香辛料を組み合わせておく。そしたら鍋に砂糖を入れて、カラメルから作って行こうか。シャオ、火を頼む」
シャオが竃に火を入れると、瑞希はカラメルを作ってからそこに水を入れ、こそげる様にカラメルを取ると、すり下ろした野菜や、調味料、香辛料を入れて弱火で煮込んでいく。
「これで終わりなのじゃ?」
「後はもう少し煮込んだら冷ましながら時間を置いて、布で濾したら完成だな。次はケチャップを作ろうか! 用意する物は大体一緒だが、ポムの実が主なソースだから大量に使うんだ」
瑞希は再びパルマン、オオグの実、アピー、ポムの実を取り出し皮を剥いてざく切りにする。
「全部すり下ろしても良いけど、ちょっと魔法で楽をしようかな……」
瑞希は材料を鍋に入れて、シャオの手を握り、ハンドブレンダーの要領で野菜を攪拌していき、ドロドロのペースト状にしてしまう。
「これって魔法が無かったら作れないんすか?」
「全部細かく切って加熱してからザルで濾しても良いし、全部すり下ろして作っても良いよ。今回は面倒くさいから魔法を使ったけどな」
ジーニャの疑問に答えつつ、瑞希はペーストを火にかけ熱していき、そこに香辛料を加え、塩、砂糖、酢、胡椒等で味を付けさらに煮込んでいく。
「ありゃりゃ、ポムの実が黄色だからやっぱり変わった色になっちまったな」
「本来は何色なのじゃ?」
「本来は真っ赤な色になるんだよ。まぁ味は……うん、美味いし、問題ない。後はこれも冷ましてからザルで濾したら完成だ。いや~キアラの家で香辛料が貰えて助かった」
瑞希の言葉にむむっと反応したミミカは対抗しようと周りを見渡すが、瑞希が先程すり下ろしたグムグムを揉んだ汁が沈殿している事に気付く。
「ミズキ様? こちらの白いのは何に使うんですか?」
「あぁ、それは新しい食材だよ。その上澄みをもう一度捨てて……残った白いドロドロを浅い皿に移して……シャオ、温風をこの皿に当てといてくれるか?」
「これはミズキが作ったにしては不味そうなのじゃ? これぐらいの強さで当てておくのじゃ?」
「大丈夫だ。これは水分が飛んだら粉になるんだよ」
「粉になるのじゃ?」
「片栗粉って言ってな、とろみをつけるのに便利なんだよ。今回は食後の甘味にも使うし、メインの肉料理のソースにも使うからな」
「ミズキさんの料理か~うちらも食べたいっすね」
「配膳の仕事もあるからさすがに無理だろう?」
「アンナ達の食事はミミカ達が終わった後か?」
「そうですね。食後の片付けが済みましたら私達は使用人の食堂で用意されている物を頂きます」
「じゃあそっちの食堂に一品御裾分けしとこうか? グムグムを使ったコロッケっていう料理だけど、単純な料理だけど美味いんだ! ミミカ達にはオムレツに添えようと思ってたんだけど」
「良いんすか!?」
「持ち込みの食材を調理して御裾分けする分には構わないだろミミカ?」
「え、えぇ! もちろんです!」
「なら今からコロッケのタネを作ろうか! 三人はグムグムをカットして皮を剥いて茹でよう! シャオはバターを、俺はチーズを作る」
各々の作業を進め、瑞希はチーズ作りが終わると、オーク肉とモーム肉をミンチにしてしまう。
「刻んだパルマンは余ってるから、鉄鍋の中でバターと一緒に炒めて、合挽ミンチも一緒に炒める」
「合挽って言うのはなんじゃ?」
「このミンチはモーム肉とオーク肉がどっちも入ってるんだよ、合わせて挽くから合挽な。両方の良いとこ取りがしたい時に使うんだよ」
瑞希は合挽ミンチとパルマンを炒めると、そこにコンソメ代わりに鶏ガラスープを加え、水分を軽く飛ばす。
「グムグムは茹で上がったらザルに上げて、大きめのボウルに移してくれ。シャオ、俺の荷物からマッシャーを持って来て、ボウルのグムグムを潰してくれ」
シャオはボウルに入ったグムグムをマッシャーで押しつぶしていく。
「簡単に潰れるのじゃな!」
「便利だろ? ここに炒めた具材とモーム乳を少し加えて、塩と胡椒で味付けして、木べらで混ぜたら一旦冷ましておく」
「なんかこの時点で美味しそうじゃのう?」
「少し味見するか?」
瑞希は小匙でタネを掬うと、あ~んと口を開けて待っているシャオの口に入れて、食べさせる。
「おぉ! やはりこれだけでも美味いのじゃ!」
「うちも食べたいっす!」
シャオの横で手を上げるジーニャに、瑞希は新しい小匙でジーニャの口に放り込む。
「んふふ~。美味いっす!」
ジーニャは好奇心から味見をしたかったのだが、両頬を押さえながら、幸せそうに咀嚼していると恨みがましい二人の視線を感じる。
そんな事は露知らず、瑞希は残りの二人に声をかける。
「二人も食べてみるか?」
「「はいっ!」」
二人は瑞希に向けて雛鳥の様に口を開けるが、アンナだけはどこか照れくさそうにしているのであった――。