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新しい道具

 武具店の帰り、宿に戻る道をてくてくと歩いている瑞希はニコニコと道具を手に持ち歩いていた。


「嬉しそうじゃの」


「新しい調理器具が手に入ると思うとどうしてもな」


「包丁やら何やらで結局さらに50万コルもかかったのに、そっちの金は文句が出なかったのじゃ?」


「仕事道具だからな。料理の幅が広がるなら構わないよ」


「本当にミズキは料理バカじゃな。瑞希が店主に説明して作らせている道具はわからんが、その手に持っておる道具もわからんのじゃが、それは何をするのに使うのじゃ?」


「これはポテトマッシャーって言って、ジャガイモを、こっちならグムグムだな。それを潰す道具だよ」


「潰す? ただそれだけの物なのじゃ?」


「単純だからこそ直ぐに作って貰えたんだよ」


「そうじゃなくて、グムグムを潰すだけなら別に木べらでも良いのじゃ」


「シャオの言い分も一理ある。だけど、調理器具ってのは調理を助ける役割りだろ? グムグムを潰すのに木べらだと力が入れにくいんだよ。だけどこのマッシャーなら持ち手が真っ直ぐだから真上から広い範囲で潰せるんだ」


「成る程。そっちの丸い二重になってる筒は何に使うのじゃ?」


「これはミミカの晩餐には使う予定は無いけど……」


 瑞希はシャオを見ながらニヤニヤとしている。


「なんじゃ? 何に使うのじゃ?」


「俺の装備を作ってくれた御礼もしたいしな!」


「御礼? という事はわしに何か作ってくれるのじゃな!?」


「その通りだ! シャオには何に使うか分かるかな?」


 瑞希は手に持っていた二重になっている丸い筒をシャオに手渡して考えさせる。

 シャオはそれを手に持つと様々な角度から覗き込む。


「何じゃろうな? 二重になってる意味があるのじゃ?」


「そうだな。その料理は食べる分にはその形をしている必要は無いけど、その形で作る意味も当然ある」


「わしが食べた事ある物なのじゃ?」


「俺はまだ作って無いな」


「むむむ……」


 シャオは熱中するあまり前を見ずに歩いており、危ないので瑞希はシャオを肩車する。


「熱中しすぎだ」


「気になるのじゃ! どんな料理なのじゃ!」


「ミミカの晩餐が終わったら作ってやるから楽しみに待っとけ!」


 瑞希は笑いながらシャオに出したなぞなぞの答えを隠すのであった――。


◇◇◇


 ドマルは瑞希が武具店に向かうと、ウォルカに向けての身支度をしていた。


「それにしてもミズキには感謝してもしきれないなぁ。コール商会の香辛料が仕入れられるなんて夢の様だ」


 そんな風にドマルが独言ちている所にギャアギャアと騒がしくしながら二人が帰って来た。


「お帰りミズキ! 装備はどうだった?」


「ちゃんと作って貰えるけど、めちゃくちゃ高かった……」


「高いって言っても15万コルぐらいじゃないの?」


「その十倍だ……」


「じゅっ……!? それはまた凄いのを作るんだね?」


「鎧だけならそこまで高くは無いんだけど、剣がな。特殊な金属で作るからどうしても高くなるみたいだ」


「その手に持ってるのは? 後シャオちゃんは何を唸ってるの?」


「ミズキが何を作ってくれるのか教えてくれんのじゃ!」


「シャオならすぐにわかるはずなんだけどな。こっちのは新しい調理器具だ!」


「ミズキの料理か……僕も早く食べたいな……」


「もう直ぐウォルカに行くのか?」


「ミズキと一緒ぐらいの時間に出ようかと思うけど」


「なら宿にお願いして、ドマルの好きなポム(トマト)ソースで昼ご飯を作ってやるよ。あとどうせならキアラの家に手土産を持って行って欲しいからそれも何か作るよ」


「良いの!? じゃあポムソースをかけた鶏肉が食べたいな!」


「任せろ! 早速作ってくる! シャオ、いつまでも悩んでないで厨房に行くぞ! シャオの好きな甘い物も作るから」


「甘い物!? 今日はどんなのじゃ!?」


「今日のは単純なクッキーだよ。ミミカ達への手土産にも丁度良いから多目に作ろうか!」


 瑞希はそう言うと部屋を出て、食材が置いてある場所へと向かい、食材を調達しに行く――。


◇◇◇


 瑞希は店主に頼み、厨房を使わせて貰うと、ポムソースを作る前に、チーズを作ろうと用意する。


「モーム乳、生クリーム、ヨーグルトにシャクル(レモン)を用意して……」


「前のちーずとは少し材料が違うのじゃな?」


「今回はクリームチーズだからな。前より濃厚だし、焼いたら溶けるんだ。どうせポムソースを作るなら簡単なピザでも作ろうかと思ってな」


 瑞希はそう言うと乳製品を全て混ぜ合わせ、加熱し温め、シャクルの果汁を加えてからゆっくり混ぜ、固まりが分離してきた所でザルに布を広げ、そこに流し込んだ。


「作り方は以前と一緒じゃが、水の中で洗わんのじゃ?」


「今回はこのまま布で包んで涼しい所で放置しておくと完成だ。次はピザ生地とクッキー生地を作ろうか。シャオはいつもの様にバターを作ってくれるか?」


「了解なのじゃ!」


 瑞希はカパ粉、植物油、塩、砂糖、卵と、以前水に漬け込んでいたブドウの様なコロンの実の瓶を取り出す。


「まずはクッキー生地から作ろうか……」


 瑞希はカパ粉を振るってボウルに移すと、シャオが出来たバターを持って来たので、別のボウルにバターを入れ、シャオにビーターと一緒に手渡し混ぜさせる。


「どれぐらい混ぜれば良いのじゃ?」


「ネットリするまで混ぜたら良いよ……よし、じゃあここに砂糖を加えて更に混ぜる。白っぽくなったら卵黄を加えて更に練る。後は振るったカパ粉を加えて、木べらで切る様に混ぜながらまとめて行って、ラップは無いから濡らした布で代用しようか。これで四角形に形を整えて包めばクッキー生地の完成だ」


「意外に簡単なのじゃな?」


「女の子が作る初級のお菓子だからな。という訳で、シャオにはこのクッキーを大量に作って貰って良いか? 手順さえ守れば失敗はしないさ」


「任されたのじゃ!」


 瑞希はシャオの使う分量を用意する。


「手順が分からなくなったら聞いてくれ」


 瑞希はそう言うとピザ生地を作る。


「発酵してくれると良いんだけどな……物は試しって言うからな……」


 瑞希はカパ粉にコロンの水と砂糖少量と植物油を加え手を使って混ぜて行く。

 ある程度固まった所に塩を加え、更に手で練って丸くまとめる。


「ふぅ。とりあえず形にはなったな。濡れ布巾を被せて……シャオ悪いんだけどこの辺りに暖かい風で、暖かい空間を作ってくれないか?」


「うぬぬぬ……あ、このバターを練るのはミズキみたいに魔法でやれば良いのじゃ!」


 シャオは集中していて瑞希の声が聞こえていないのか、魔法を使って手早くバターを練り合わせるとカパ粉に手を伸ばす。

 瑞希はシャオの姿を見て感心していた。


「どうしたのじゃミズキ?」


「あ、あぁ、このボウル周辺を温風で暖めてくれないか?」


 シャオは指を立てると、ボウルの周りが暖かくなる。


「ありがとう。なら俺はこっちの竃でポムソースを作ってるから、シャオはそれが出来たら教えてくれ!」


「わかったのじゃ!」


 瑞希はポムソースをさっさと作ってしまうと、シャオも生地が出来たと報告が来る。


「綺麗に出来たじゃないか!」


 瑞希はシャオの頭を撫で、シャオは踏ん反り返る。


「ふふん! わしの手にかかれば造作もないのじゃ!」


「じゃあ後はこのクッキー生地を冷やしたいから、冷たい風で冷やしてくれるか? あと、石窯には薪を入れたからそこに魔法で火をつけてくれ」


 シャオが魔法を使うと、瑞希はボウルに入れ暖かい空間に置いていた生地を取り出す。


「お、多少は膨らんだな!」


「生地を暖かい所に置いとくと膨らむのじゃ?」


「これにはコロンの実で作った天然酵母液を混ぜたんだよ。後で酵母の素種も作っておこう。じゃないとシャオに出したなぞなぞの料理も作れないしな」


「くっきーに集中して忘れておったのに!」


「まぁまぁ、じゃあ台に打ち粉をしてピザ生地を伸ばして行こうか」


 瑞希はピザ生地を伸ばすと、そこにオリーブオイルに似た植物油を薄く塗り、ポムソースとチーズを乗せる。


「後はこれを石窯で焼いたら完成だ。シャオは冷えて固まったクッキー生地をこうやって切ってくれるか?」


 瑞希はシャオに見本を見せる。


「わかったのじゃ、切ったのは天板に並べるのじゃ?」


「さすが! 良く分かってるじゃ無いか!」


「もっと褒めるのじゃ!」


 瑞希とシャオは楽しそうに料理を続けて行くのであった――。

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