閑話 キアラのいたずら
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ミズキについてやって来たロイズ亭は昔っからうちの香辛料を卸しているお店の一つで、客として利用するのは初めてだ。
店に着くとミズキに頼まれて作ったかれーをオーガキングを討伐した皆で食べて貰うらしく、私は直ぐに厨房を借りてかれーを温めた。
「ごめんなんな急に厨房を借りて」
「キアラちゃんなら構わないけど……すごい香りだね? 一口貰っても良いかい?」
「どうぞなんな!」
店主はかれーを一口啜ると、味に驚き作り方を聞いて来たけど、これはまだ私から人に教えたくない。
これはまだまだミズキの料理だ。
私の料理と言える時が来たら教えても良いと思う……でもそれまでは私とミズキだけが作れる唯一の料理だ。
「ふふ。美味しいんな?」
「本当にどうやって作るんだい!?」
「まだ教えれないんな~!」
二人だけが作れる料理。
二人だけしか作れない料理。
私の自慢の料理だ。
「温まったから運ぶのを手伝って欲しいんな!」
店主と私でミズキ達のいる円卓に運ぶ時に周りのお客さんから視線を感じる。
大丈夫だよね? 臭いとか思われてないよね?
私は円卓に着くとかれーの入った鍋の蓋を開ける。
「これがミズキに習った私のかれーなんな!」
皿にかれーを入れ、乾杯をすると、大きな体の男が早速カレーを口に運び……止まった?
「美味ぇっ! ミズキが作ってくれたモーム肉の煮込みも美味かったがこれもすげぇ!」
ふふふ。
私も初めてミズキのかれーを食べた時は驚いた。
……それにしてもモーム肉の煮込みって何だろう?
私の知らないミズキの料理……食べてみたいな……。
円卓からはお代わりの声と、かれーを賛辞する言葉を聞きながら私の顔は笑顔になってしまう。
瑞希は急に席を立つと店主と私に謝り、周りに居る他のお客さんに自分のカレーを一口ずつ食べさせた。
すると周りの見ず知らずの人達からもっと食べたいとか、美味しいという声が次々に聞こえて来た。
「キアラの料理が認められて良かったな」
そう言ってミズキに頭を撫でられると、泣きそうになってしまうのを必死に堪えながら、私は周りのお客さんに何度も頭を下げた。
「本日御試食頂いたカレーという料理は近々この子がやってるお店でお出ししますので、良かったらまた食べに行って上げて下さい!」
急に自分の分を試食させたいと聞いた時は、ミズキに食べて貰えない事に少しがっかりしたが、ミズキは目の前の私のかれーの心配ではなく、お店の事を心配してくれていたのだ。
この師匠は……本当にこの師匠は……。
「宜しく頼むんな~!」
私がそう言うと周りからいつ食べれるのか、何時頃にやっているのかを聞かれたので私は二、三日したら……と言う言葉を返した。
次は絶対もっと美味しいかれーをミズキに食べさせよう。
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そうこうしている内にしゅーくりーむの争奪戦が始まった。
これはミズキが作った料理だ。
私だっていっぱい食べたい。
「ここはじゃんけんで決めるんな!」
「じゃんけんってなによ?」
私はミズキに教えて貰ったじゃんけんを説明すると、円卓にいた争奪戦の参加者は理解してじゃんけんが始まった。
「皆とりあえずしゅーくりーむを一個ずつ食べたんな? 私も含めてミズキのしゅーくりーむを全部食べたい気持ちなはずなんな! だからじゃんけんで勝つ毎にしゅーくりーむを一個貰えるというのはどうな?」
「構わんのじゃ! わしが全部貰うのじゃ!」
「私も構わないわ!」
「私も負けません!」
「じゃあ行くんな? じゃん、けん……」
結局じゃんけんの結果はシャオが四個、私が三個、後の二人は二個ずつしゅーくりーむを取った。
最後にシャオに負けたのは悔しかったが姉として妹に譲るのは何もおかしな話じゃない。
悔しくは……ない……。
「ミズキのしゅーくりーむは何個食べても美味いんな~!」
「くふふふ。止まらんのじゃ! これは何個でも食べてしまうのじゃ!」
食べ終わったシャオの口の周りはくりーむだらけになっており、見かねたミズキが布で口を拭っている……しまった、私も口の周りを汚していれば拭って貰えたかも知れない。
「あんまり甘い物ばっか食ってたら太るぞ? ヒアリーも美味いからって食いすぎるなよ? せっかくのスタイルが崩れるぞ?」
「あら? 心配してくれるの? ちょっとぐらい食べ過ぎても明日から銀級冒険者としてバリバリ稼ぐから大丈夫よ! だから次にミズキに会った時にはお金払うからこれをもっと作って欲しいわ!」
むぅ……。
ミズキはヒアリーの様な体が好きなのだろうか?
私だって後数年したらもっと身長は伸びるし体だって……。
「シャオとキアラはそろそろ部屋で寝ろよ? シャオはキアラになら事情を話しても良いから楽な姿で寝たら良いよ」
「わかったのじゃ! キアラ、わし達は先に寝るのじゃ!」
「わかったんな?」
事情? シャオには何か事情があるのだろうか?
魔法が使えるのは凄いけど、見た目は私より少し小さいかわいい女の子だと思ってたけど……。
私達は部屋に入り、シャオに事情を聞き、シャオは姿を動物に変え、再び人間の姿になった。
「どっちもシャオなんな?」
「むしろミズキが猫という姿の方が本来のわしの姿じゃな……やっぱり怖いのじゃ?」
怖い? 何で怖がる必要があるのだろう?
「怖い訳ないんな! どっちのシャオも可愛いんな! シャオがどんな姿でも私の妹なんな!」
「ちょっと待つのじゃ! 姉はどう見てもわしじゃろ!?」
「私の方が少し背が高いんな~! 見た目から言ったら絶対私が姉なんな!」
「ぬぐぐ……じゃがわしはミズキの一番弟子じゃ!」
「うぬぬ……」
どちらが姉かという不毛な争いは続くが、私達は姉妹ではない。
でもそれなら……。
「わかった。じゃあこうするんな! どっちも妹なんな!」
「どっちも妹じゃと? ならば姉は誰じゃ?」
「ふふふ。私達に姉はいないんな! いるのはミズキという兄だけなんな!」
「成るほどなのじゃ! それなら不毛な争いは無しじゃな!」
「ならこれでおしまいなんな。シャオは楽な姿で一緒の布団で寝るんな!」
「どうせならミズキの話も聞きたいじゃろうから、眠るまではこの姿でいるのじゃ」
「ミズキの話!? 聞きたいんな!」
「まず最初に食べたミズキの料理はな……」
二人で一つの布団に入った私はミズキの話を聞きながら、食べた事の無い料理や、ゴブリンの話を聞きながら睡魔に襲われた――。
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「トイレに行きたいんな……」
夜中に目を覚まし、目をしょぼしょぼさせながらトイレから布団に戻って来るとシャオの姿が無い。
トイレは今私が使ってたし……そう思いながらもう片方のベッドを見ると、宴会から戻って来たのかミズキが壁の方を向き、すぅすぅと寝息をたてていた。
好奇心からか、そっと背中側の布団を開けると、そこには猫の姿をしたシャオが寝ている。
一緒の布団で寝るって約束したのに……ずるい。
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私はそのまま布団に入って目を閉じた。
シャオの柔らかな毛を撫でながら再び深い眠りについていく――。
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