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報酬と宣伝

 キアラ家にシュークリームを渡し、それを食べたキアラの父親が涙を流す一悶着もあったが、瑞希達はカレーが入った鍋と、籠に詰めたシュークリームを片手にカイン達の待つロイズ亭へとやって来た。

 店に入るとガヤガヤと賑わっている中、一際大きな体躯を持つカインを目印に彼等の座る円卓へと座るのであった。


「遅ぇよミズキ! 先に始めちまってるぞ?」


「ごめんごめん。結構な量のシュークリームを作っててな。それに弟子のキアラがカレーを作ってくれたんだよ」


「どっちも聞いた事ない料理ね……楽しみだけど、先に今回の報酬の話をするわよ?」


 ヒアリーがにやにやと嬉しさを隠し切れない顔で話し始める。


「そんな顔するって事は儲かったんだ?」


「ヒアリーとの商談で最後の方はギルド職員が泣いてたぜ……」


「当たり前じゃない! ウォルカの冒険者が誰も手伝わなかった緊急事態を終わらせたのよ? 貰えるものは貰うわよ!」


「まぁ双方が納得したなら良いんじゃないか?」


「その通りよ! って訳でこれがミズキとシャオの取り分ね」


 瑞希の前にドシャッと重そうな革袋が置かれる。

 瑞希はおもむろに袋を持ち上げると、それなりの重さに驚く。


「あぁ、わざわざ銀貨で用意してくれたのか?」


「何言ってんのよ? それ中身全部金貨よ?」


「きっ……!? ちょっと待て! これ何コルあるんだよ!?」


「今回の件で貰えた報酬は830万コルよ! 大分上乗せさせたんだから!」


「そんなに!?」


「当たり前じゃない! 下手したら死んでたのよ? で、その袋には二人分で400万コル入れておいたのと……」


「まだあるのか?」


「私達のランクを一つ上げて貰えたわ! これで私とカインは銀級冒険者なのよ!」


「てことは俺は鋼鉄級か? まだ依頼を一つしか達成してないのに……」


「後、ミズキが討伐した魔法を使うオーガの皮はギルドに預からせてるから、明日にでも受け取って頂戴」


「オーガの皮を? なんで?」


「そりゃお前の装備を作るためだ! むしろ普段着でオーガを討伐する奴なんざいねぇよ!」


「それに魔法を使ってたでしょ? そのオーガの皮なら魔法耐性がある装備が作れるかも知れないでしょ? 今回の功労者は間違いなく貴方達なんだから受け取って頂戴」


「そう言うならありがたく貰うけど……400万か……」


 瑞希は日本に居た頃の年収以上のお金を一日で稼いだ事に呆れていた。


「後は、端数の30万コルはここの支払いと、残りはこいつら三人に分けても良いか?」


 カインは同じ卓を囲む三人の若手冒険者に目配せをする。


「僕達何もしてないのに報酬を頂いてすみません……」


「全然構わないよ? お前達が来てくれなかったら手間もかかったしな……ていうか名前を聞いてなかったよな? 俺はミズキ・キリハラと言う名前だ」


「僕達は三人でパーティーを組んでいる駆出し冒険者です。僕はラル・クエンと言います」


「俺はロイ・アルゴだぜ」


「私は魔法使いのリン・ツリスと言います!」


「ラル、ロイ、リンだな。宜しく」


 三人の中では背の高いラル。

 三人の中では少し体の丸いロイ。

 三人の中の紅一点で魔法使いのリン。

 瑞希は三人と順番に握手を交わすと、シャオの頭に手を置く。


「シャオ、自己紹介」


「ミズキの妹のシャオなのじゃ!」


「私はミズキの弟子のキアラなんな!」


「さっきからちょいちょい弟子って聞くけど、この子も魔法使いか何かなの?」


「キアラは俺の本業の料理の弟子だよ。キアラのカレーを食ったら驚くぞ?」


「じゃあ話もついたみたいだし、早速かれーをあっためて来るんな!」


「頼む。……シャオ、シュークリームは食事の後な?」


「早く食べたいのじゃ! 一個じゃ我慢できんのじゃ!」


 シュークリームの籠に手を伸ばそうとしていたシャオから、瑞希はシュークリームの入った籠を遠ざける。

 そんな中、キアラがカレーの鍋を開け、温め始めたのだろう。

 店内にはスパイシーなカレーの匂いが広がる。


「おいおいおい! 何だよこの美味そうな香り!」


「あんたの弟子ってのも嘘じゃないみたいね?」


「凄いだろ? 近々キアラの店で出すから食いに行ってやってくれ」


 キアラとロイズ亭の店員がカレーの入った鍋と器を円卓まで運んで来る。

 その道中に振り撒かれる香りに、他の客達が何事かと目と鼻を奪われていた。

 瑞希は他の店で料理の持ち込みをした事を今更悪いと思ってしまう程の注目の集め方になってしまったのが申し訳無くなり、運んで来た店員に頭を下げる。

 店員はキアラの頼みだから構わないと言ってくれたので、瑞希はその言葉に甘える。


「これがミズキに習った私のかれーなんな!」


 目の前に置かれたカレーに初めて見た面々はゴクリと喉を鳴らす。


「カレーを食べる前に乾杯しようか、カイン?」


「お、おぉ! そうだな! ミズキの言う通りだ! じゃあオーガキングの討伐成功を祝って……」


「「「乾杯っ!」」」


 瑞希は赤ワインに似たルク酒を口にすると、目の前に置かれた鶏の丸焼きに手を伸ばし、切り分ける。

 シャオが皿を前に出して待っているので、鶏肉を皿に乗せる。


「この鶏肉は香辛料と香草を使ってるな……石窯で焼いてるんだろうな、美味い」


「なかなか美味いのじゃ、そっちの野菜は……辛い奴なのじゃ! わしはいらんのじゃ!」


「どれどれ……あぁ〜これはちょっとシャオには辛いな」


「カイン、そっちの卵料理を……カイン?」


 カインはカレーを口にしたまま固まっている。

 ミズキに呼ばれハッと我に帰ると、猛烈な速さでカレーを口に運び、あっという間にカレーを食べ切る。


「美味ぇっ! ミズキが作ってくれたモーム肉の煮込みも美味かったがこれもすげぇ!」


「ミズキ……あんたの料理どうなってんのよ……」


「良かったなキアラ?」


「でかい兄ちゃん、お代わりはいるんな?」


「勿論だっ! 大盛りで頼むっ!」


 カインは皿をキアラに突き出すと、負けじと若手冒険者のロイも皿を突き出す。


「俺ももっと食いたい! おかわりっ!」


「ロイ、お前少しは遠慮しろよ……」


「そうだよロイ君……」


「ラル、お前これが美味くないのか!? リンも!」


「かれーはまだあるんな! 喜んで貰えて嬉しいんな!」


 周りの客達がカインとロイの言葉と勢いにゴクリと喉を鳴らす。

 瑞希は店員とキアラに詫びを入れ、自身のカレーを周りの客に試食させると、美味いという声が次々に上がる。


「キアラの料理が認められて良かったな」


 瑞希は横に座るキアラの頭を撫でると、キアラは自分の料理が認められ嬉しかったのかペコペコと周りの客に頭を下げる。

 そんなキアラを見た瑞希は最後に一言付け加える。


「本日御試食頂いたカレーという料理は近々この子がやってるお店でお出ししますので、良かったらまた食べに行ってあげて下さい!」


「宜しく頼むんな~!」


 瑞希はカレーが無くなると席に戻り再び食事を続ける。


「キアラの嬢ちゃん、これはいつから店に出すんだ!?」


「もう二、三日試作したらお店に出すんな!」


「俺達も絶対に食いに行くぜ!」


「これより美味しいカレーを作って待ってるんな!」


 キアラはニコニコと宣言をすると、周りの客からも次々と質問責めに会う。

 瑞希とキアラはしっかりと店の宣伝をしておく。

 瑞希は微笑みながらルク酒を口にする。


「親バカな師匠じゃな……」


「何がだよ?」


「くふふ。何でも無いのじゃよ。それより食事も終えたからシュークリームを食べて良いのじゃ?」


「際限なく食べそうだからまずは一個な」


「それはミズキが作ったのかしら? 私にも貰える?」


「私もシュークリーム欲しいんな!」


 シャオとキアラは二個目だが、美味しそうにシュークリームを食べている。

 そして次はシュークリームを食べたヒアリーが固まった。


「な、な、な、……何よこれ!?」


「シュークリームって言うんだけど、シャオの御褒美に作ったんだよ」


「私っ! 私もオーガキングと戦った! 御褒美にもっと食べたいわ!」


 遅れてシュークリームを口にしたリンが声を上げる!


「わた、私は! ミズキさんに魔力薬をあげました! お返しはシュークリームが良いですっ!」


「ならんのじゃ! これはわしの御褒美なのじゃ!」


「それならかれーを美味しく作った私も欲しいんな!」


 女子達がギャアギャアとシュークリームの取り合いをしそうだったので、瑞希はシュークリームをこっそりと遠ざける。


「ミズキ……お前の料理は危険だな」


「なんて言うか……本当にすまん」


「美味い料理に罪はねぇよ。かれーに出会わせてくれて感謝したいしな!」


「気に入ってくれて何よりだ。とりあえず今日はお疲れ」


 瑞希はカインのグラスと静かに音を鳴らすとゆっくりと酒を飲んでいくのであった――。


◇◇◇


 瑞希とシャオはウォルカを出て街道を歩いている。


「さて、別れも済ませたし、冒険者プレートも鋼鉄になった。忘れ物は無いな?」


「大丈夫なのじゃ!」


「じゃあミミカのために料理を作りに行こうか!」


「次は何が食べれるんじゃろうな!」


「それはその時のお楽しみだな! じゃあシャオ、今日も頼む!」


 シャオは猫の姿になる。


「にゃんにゃーん!」


 瑞希の体は宙に浮き、ミミカの待つキーリスへと向かう。

 その手にはキアラに貰ったシャオの靴が抱えられているのであった――。

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[一言] 毎日楽しく読ませて頂いてます! これからも投稿頑張ってください!
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