魔力の相性
御者台には若手冒険者三人が座っており、ガタガタと揺れる馬車の中では、カインが瑞希の剣を見ながら首をひねっていた。
「やっぱりこの剣でオーガの首を切れるとは思えねぇんだよな。それにもうボロボロだぞ?」
「前にもゴブリンに斬りかかった時は鈍い感触だったんだけど、その後別のゴブリンメイジを斬った時はスパッと斬れたんだよ」
「なんじゃそりゃ……」
「多分瑞希は剣に魔力を流してるんじゃよ」
シャオがしれっと答えを言ってしまう。
「魔力を? でも俺はまだ魔力を感じれないんだぞ?」
「今回も前回も斬る前に魔法を使ってたじゃろ? それで魔力が出やすくなっている状態で……くふふ。ミズキは怒っていたのじゃ。それで魔力が溢れたんじゃろう」
瑞希は思い当たる節があるのか、納得した顔で頷いているが、ヒアリーは頭を抱えている。
「ミズキ、それがどれだけ凄い事かわかってるの?」
「魔力は誰にでもあるんだから、誰でも出来るんじゃないのか?」
「そんな方法で魔力を使ってたらぶっ倒れるわよ!」
ヒアリーの大声に御者をしている冒険者が驚き、ウェリーが蛇行する。
「おいおい、魔法の事はわかんねぇけど、そんなにでかい声を出すなよ。嬢ちゃん、それって俺にも出来るのか?」
「可能じゃろうな。但し、ヒアリーが言う様にお主の魔力が少ないならすぐに枯渇して倒れるのじゃ」
「魔法……いや、魔力って本当に便利だな」
瑞希は感慨深げに相槌を打つが、魔法にそれなりに詳しいと自負していたヒアリーは呆れていた。
「あんたの魔力量があってこそよ! それにカインが出来る訳ないじゃない!」
「お主が手伝えば良いのじゃ?」
「手伝う? どういう事よ?」
「カインよ、瑞希の剣をそのまま持っておるのじゃ。このやり方は魔力を大量に消費するからの、覚悟するのじゃぞ?」
「お、おぅ」
シャオそう言うと、カインの背中から自身の魔力を流し込み、カインの魔力を押し出す。
カインはぐらりと倒れそうになるが、何とか意識を保つ。
「これでそのオーガキングの皮の切れ端を切ってみるのじゃ」
「……わ、わかった」
カインは息も絶え絶え、何とかオーガキングの皮を剣の切っ先を押し当て突き刺した。
抵抗はあったが、なまくらだと思っていた剣で突き刺せた事に驚くと、カインは剣を手放した。
「確かにこの剣で刺せたけど……これは、辛いな……」
「魔力の相性もあるのじゃよ。わしもミズキの魔力なら扱いやすいが、お主の魔力は扱い辛い。ヒアリーなら相性が良いかもしれんしな」
「だ、誰がこいつと相性が良いのよ!」
「可能性の話じゃよ。それにお主等もいざという時に奥の手があった方が良いじゃろ?」
「それは……確かにそうね」
カインとヒアリーは今回のオーガキングとの戦いを振り返ると、瑞希とシャオ無しでは負けていた事実を噛み締めた。
「それにヒアリーは魔力も感じれている様じゃし、最初はイメージでの魔力放出で辛いかもしれんが、魔力に余裕がある時にカインの体に触れ、カインの魔力を押し出してみるのじゃ。そうすれば自ずと感覚を掴めるのじゃ」
「一撃のために、魔力を持って行かれてふらつくのか……それなりにリスクも高ぇな」
「付け加えるならば、武器の消耗も激しいのじゃ。ミズキがドマルに貰った剣ももうすぐ折れそうじゃしな」
「嘘っ!? ドマルに悪い事したな……」
「ミズキを助けたのじゃから、ドマルも怒りはせんじゃろ?」
「それもそうか……にしても、シャオにしては二人に嫌に親切だな?」
「こやつ等は自分の命を顧みず他の者達を守ろうとしたからの、気に入っただけじゃ」
瑞希はシャオの頭をぐりぐり撫で、カインとヒアリーは顔を見合わすと、シャオの両手を取り握手を交わす。
そうしている内に馬車はウォルカに着き、馬車内の四人は外に出る。
シャオは裸足の為、シャオの希望で瑞希におぶられていた。
一行が冒険者ギルドに着くと、瑞希目掛けて女の子が飛び込んできた。
「ミズキー! 生きてるんな!? シャオはどこなんな!?」
「いてて……シャオは背中に居るよ」
「折角別れを済ましたのにまた戻って来たのじゃ」
シャオは瑞希の肩から顔を出し、キアラと目が合う。
「良かったんな! 生きてるんな!?」
「わしとミズキは強いのじゃ!」
「キアラ、迎えを呼んでくれてありがとうな? おかげで助かったよ」
瑞希が腹に抱き着くキアラの頭を撫でると、キアラは声を上げて泣き出してしまった。
「モテモテじゃねぇかミズキ」
「御馳走様ね」
「やめろあほ。とりあえず、ギルドへの報告は任せて良いか?」
「もちろんよ! がっぽりと報酬を頂いてくるわ!」
「ヒアリーに任せとけば大丈夫だ……むしろここのギルドが可哀想だな……」
「あ、ヒアリー、俺が最後に戦ってたオーガってわかるか?」
「首から下だけの奴よね?」
「そうそう、そのオーガが魔法を使って来たんだよ。シャオが驚いてたから一応報告しといてくれ」
「オーガが魔法ですって!? 聞いた事無いわよそんなの!」
「お前等良く無事だったな?」
「シャオが怪我させられたから無事ではないけどな」
「痛かったのじゃ~、甘い物を食べなければ死んでしまうのじゃ~」
「嬢ちゃん……元気そうで何よりだ」
「後で作ってやるから……ほんとにお前は戦闘の時とのキャラのギャップが凄いな」
瑞希は笑いながらずり落ちて来るシャオを持ち直す。
キアラは一頻り泣き、泣き止むとシャオの素足に気付く。
「シャオの靴がないんな?」
「どっかで脱げて忘れて来たんだよ」
「それはいけないんな! 私の家に余ってるから一緒に来るんな!」
「どうするシャオ?」
「わしはミズキが背負ってくれるならどっちでも良いのじゃ」
「お前な……なら、キアラの馬車に乗って行って良いか?」
「構わないんな! ほら、すぐ行くんな!」
「そんな急かさなくても……」
「良いじゃねぇか、行ってやれよ。俺等は鑑定が終わったらロイズ亭って宿に戻ってるから、嬢ちゃんの靴が手に入ったらすぐに来いよ? 今日はしこたま飲むぞ!」
「ちゃんとミズキの料理も食べさせなさいよ!?」
「そうだな……」
瑞希はチラリとキアラを見る。
「どうせなら俺の弟子の料理を食べて貰おうかな。もちろん俺も甘い物を作って持って行くよ」
「それって僕達も参加して良いんですか?」
若手冒険者のリーダーの男がおずおずと手を上げる。
「当たり前だろ!? 今日は驕ってやるからお前等も俺達と一緒に来いよ!」
「カインは兄貴分って言葉が本当に似合うな……じゃあキアラ、行こうか?」
「早く行くんな! またミズキと料理作るんな!」
キアラは瑞希が料理をすると聞き、先程の泣き顔はどこに行ったのか、笑みが隠し切れない顔で、ぐいぐいと瑞希の背を押して行くのであった――。