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キアラの願い

 最初の雄叫びが聞こえた時に、キアラは冒険者ギルドに走っていた。

 冒険者ギルドによると、がたいの良い冒険者と、美人な魔法使いが討伐に向かった様だが、そこに子連れの銅級冒険者が一緒に付いて行ったという。

 キアラは瑞希とシャオだと分かると、ギルドに残っていた冒険者に加勢を頼み込むが、誰も首を縦に振らなかった。

 キアラが困り果てていると、三人の若手冒険者であろう者達がキアラに声をかけた。

 冒険者曰く、瑞希なら大丈夫だと言うが、万が一行き倒れてしまっているかもしれない……そう思ったキアラは馬車を貸すから瑞希達を迎えに行って欲しいと頼む。

 迎えに行くだけなら大丈夫かと思った若手冒険者達は、キアラに馬車を借り、向かおうとした矢先に、先程よりも大きな雄叫びがウォルカの街に響き渡る。

 それを最後に声は聞こえなくなったが、若手冒険者達もさすがに瑞希達に何かあったと思い、瑞希に恩を返す為、意を決して馬車を走らせた。

「と、思って迎えに来たのは良いけど……三人共寝てるよな?」


「こ、こっちのバラバラになってるオーガキングは凍ってるよ!?」


「こんなでかい大剣が折れてる……おい、女の子がいないぞ!?」

 

「お主ら火事場泥棒なのじゃ?」


 人の姿になったシャオは三人の後ろから殺気を出しつつ声をかける。

 急な声に驚いた事もあるが、今まで感じた事のない圧に三人は滝の様な汗を流しながら振り返ると、そこにはワンピースを着た可愛らしい女の子が素足で立っていた。


「なんじゃおぬし等か。どうしたのじゃ?」


 シャオが殺気を解くと、三人は圧から解放される。


「ミ、ミズキさん達の迎えを頼まれたんです……」


「「「(こ、こえぇー!)」」」


 シャオは三人ににっこりとした笑顔を見せる。


「それは助かるのじゃ! 三人共起きるのじゃ!」


 瑞希はシャオに揺さぶられ、ぐらぐらする視界の中、三人の姿を見てほっとする。


「お前等か……悪いけど魔力薬って持ってないか?」


「あります!」


 魔法使いの女が瑞希に魔力薬を差し出す。


「悪い、ギルドに戻ったらちゃんと返すからな……」


「良いです良いです! それもオークを売ったお金で買ったんですから!」


 瑞希は苦みを我慢しながら魔力薬を飲み干すと、視界は落ち着いたのだが、気怠さが抜けない。

 シャオに起こされたカインとヒアリーもだるそうに体を起こした。


「リベンジできたな……」


「ミズキが居なかったら死んでたわ……」


「ちげぇねぇ!」


 カインとヒアリーが達成感の中笑いあっていると、三人の冒険者が声をかけた。


「あの、オーガの剥ぎ取りはどうしますか?」


「一応馬車で迎えに来たんだけど……」


「私達も手伝いますよ?」


「お前等オーガの剥ぎ取りは……やった事あるわけねぇわな。なら教えてやるから手伝え! ちゃんと駄賃もやるからよ!」


「良いんですか!?」


「やりぃ! 迎えに来た甲斐があったぜ!」


「とりあえずこのオーガキングは後にして……ミズキ、オーガの群れはどこら辺だ?」


「あっちの方に真っ直ぐ行けば居るよ。任せて良いか? 気怠さが抜けないんだ」


「今回の功労者は間違いなくお前たち兄妹だからな! ゆっくりしてろよ! ヒアリーも手伝ってくれ!」


「全く、人使いが荒いわね。ミズキはここに居なさいよ? ウォルカに帰ったら祝勝会よ!」


「今朝ウォルカに別れを告げた筈なのにな……そう言えば三人は誰に迎えを頼まれたんだ?」


「ミズキさんの妹さんみたいな髪形をした女の子ですよ。泣きながら他の冒険者に加勢を頼んでいた所に僕達が声をかけたんです。この馬車もその子の家の馬車です」


「キアラか……それは御礼を言いに帰らないとな」


「わしは何か甘い物が食べたいのじゃ」


「夜に回復してたら何か作ってやるよ」


「それ私達にも作りなさいよ!?」


「分かったよ……なら俺はもう少し休ませて貰うな」


 カイン達は瑞希が討伐したオーガの群れに馬車を走らせて行く。

 瑞希は再びごろりと横になった。


「魔力が枯渇するとしんどいな〜?」


 シャオは瑞希の顔を覗き込む。


「くふふふ。それが嫌じゃったら早く一人で魔法を使える様になるのじゃな」


「ちゃんと訓練するかな。けどまぁ今回も助かったよ。ありがとなシャオ?」


 瑞希は顔を覗き込むシャオの頭を撫で、シャオは気持ちよさそうに目を細める。


「帰ったら御褒美に甘い物を頼むのじゃ」


「お前もカインに負けず人使いが荒いな」


 瑞希は再び眠りにつき、シャオは瑞希の腹を枕に横になる。

 少し肌寒い風もシャオがいるおかげか気持ちよく感じるのであった。

「――おぉい。ミズキ、起きろよ。帰るぞ」


 瑞希はパチリと目を覚ますと、日が少し落ちたのか、赤焼けに照らされたオーガの皮が山積みにされている。

 瑞希は身を起こすと先程の様な体の気怠さは感じられず、体をひと伸びさせ、首を鳴らした。


「大分回復したけど、代わりに腹が減ったな」


「俺もだ。帰って祝勝会と行こうか!」


「今日は飲むわよー!」


 瑞希は馬車の方に視線をやると、バラバラになったオーガキングの死体が転がっていた。


「これは剥ぎ取らないのか?」


「それが手持ちのナイフだと刃がたたねぇんだよ。このでかいのを馬車に積む訳にはいかねぇから、後でまた回収に来ようかと思ってな」


「そっか……あ、一個試してみても良いか? 皮が切れたら良いんだよな?」


「まぁそうだな。魔法を使うのか? 魔力は大丈夫なのか?」


「今は気怠さも無いし、大丈夫だろ? シャオ手伝ってくれ」


 シャオはオーガキングの前にしゃがみ込む瑞希の背中にへばりつき、瑞希の使う魔法を眺める。

 瑞希は水を圧縮するイメージをして、指先から細く、凄い勢いで噴射する水を出し、オーガキングの死体に当ててみた。


「お、いけるいける」


「水なのに切れるのじゃ?」


「風の刃のイメージに似てるけど、あれは遠くに当てるイメージになるからな。指先から出すなら水の方がイメージしやすい」


 オーガキングの皮に這わせる様に指先を動かして行き、べろりと皮を剥いていく。

 切れさえすれば鹿の解体とそう変わらないのだが、やはり人型という事もあり、気分は悪くなる。


「これで全部だ。丈夫な皮だな」


「防具とかにするんだが、流石に細々になってるから無理かもな。ギルドに売りつけて金に換えちまおう」


「な、何ですか今の魔法! 詠唱は!? 魔力はどれぐらい使うんですか!?」


 瑞希の皮剥を見ていた若手冒険者の魔法使いが作業を終えるまで待っていた様だ。


「それよりもあんたさっきまで魔力が枯渇して寝てたじゃない! どんな回復力よ!?」


「ん〜……どっちも知らん。魔法はイメージで使えって言われたからそうしてるだけだし、魔力は枯渇したのが初めてだから回復の速さもこんなもんじゃ無いのか?」


「イメージのまま魔法を放ったら倒れますよ!」


「魔力が回復するのは最低でも一日かかるわよ!」


「くふふふ。ミズキは凄いのじゃ!」


「いや、あんたも大概で凄いわよ!」


「うちのシャオは凄いんだよ」


「お前らやっぱり似た者兄妹だわ」


 二人の魔法使いに言い寄られる瑞希のやり取りを一部始終見ていたカインがボソリと呟き、一行は剥ぎ取った皮を馬車に乗せる。


「このウェリーは何でこんなにミズキさんに懐いているんですか?」


「気にするな……いつもの事だ。ちょっと重いけど街まで頑張ってくれよ?」


 瑞希がウェリーに話しかけると、急にやる気を出し、人数が多く重いはずの馬車をゆっくりとだが走らせて行くのであった――。

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