オーガキングとの決戦
オーガに詰めよる瑞希に驚き、戸惑うオーガ達の頭にシャオの放つ氷柱が突き刺さる。
オーガの中でも個体差があるのだろう、ある者は逃げ、ある者は瑞希に向かって来る。
カイン達がオーガキングの相手をしているため、逃げようとするオーガを鼓舞する声は聞こえない。
逃げ行くオーガもシャオの魔法により倒れる。
「あの三匹だけ氷柱を防いだな……シャオ、直線的な魔法より少し範囲の広い魔法を使ってみてくれ」
「にゃふふ。にゃーん!」
シャオは何が嬉しいのか、一鳴きすると風の刃が残ったオーガを襲う。
先程の氷柱より範囲が広いため、オーガ達は纏めて風に襲われるが、一匹のオーガと、もう一匹のオーガの腕を犠牲にして、風の刃を止める。
腕を飛ばされ苦しんでいるオーガに氷柱が突き刺さり、シャオはぼふんと人の姿に戻る。
「後はこやつだけじゃな!」
「うん……何で人の姿になった?」
「もちろんミズキのためじゃな? お主もわしに料理を教えてくれる時に実践を交えるじゃろ?」
「うん……あほかっ! 命に関わるじゃねぇか!?」
「だ~いじょうぶじゃ! わしも手を繋いどるから魔法も使えるのじゃぞ? (このオーガはオーガキングになりかけじゃが……)」
「今ぼそっと何か不吉な事言わなかったか!?」
「気のせいじゃよ! ほら行くのじゃ!」
シャオは瑞希の手を引っ張りオーガ(キング?)に走り寄っていく。
瑞希は引っ張られながらも、剣を片手に火球のイメージを練り上げ、オーガに放つ。
「グルアァァッ!」
オーガは手で火球を払うと、そのまま飛び上がり瑞希を踏みつぶそうと試みる。
瑞希はシャオを抱き寄せ、そのまま横っ飛びに転がると、自分の居た場所の土を柔らかくするイメージと、池が凍るイメージを同時に行うと、土に嵌ったオーガの足が凍り付く。
「ぺっぺっ! 泥だらけになったけど、上手く行った」
「ほぉ~! あの一瞬で土をいじるだけじゃなく、足まで凍らせるか……やはり中々センスがあるのじゃ!」
「褒められたって嬉しくねぇけど……」
オーガは足を抜こうとしているが、中々抜け出せず、シャオが再び瑞希を引っ張り、走り寄る。
「ミズキ! そのまま剣で切りかかるのじゃ!」
シャオはオーガが動けないと思い、ゴブリン討伐の時の様に瑞希の剣で切れると思った。
しかし、オーガは動けない事を悟ると、魔力を溜め、衝撃波の様な風を瑞希に向け放つ。
「オーガが魔法じゃと!?」
当然魔力を感じれない瑞希はそのまま突っ込もうとするのだが、シャオが先に気付いて、瑞希を押しのけ離れさせ、風魔法を直に食らってしまう。
「シャオ!?」
シャオは風魔法を体で受け、体がくの字に曲がるが、シャオはその場に止まり膝を着く。
「抜かったのじゃ……じゃがこれしきの魔法なら問題ないのじゃ」
「大丈夫か!? 今回復魔法を……」
「後で良いのじゃ! ミズキ! 横に飛ぶのじゃ!」
瑞希はシャオに言われた通りに横に飛ぶと、瑞希の居た位置の土が吹き飛ぶ。
「そのまま走って距離を詰めるのじゃ!」
シャオは氷柱を放ち、オーガの肩を射貫くと、瑞希がオーガの首を目掛けて両手で剣を振る。
「人の大事な妹に傷をつけてんじゃねぇ!」
瑞希が振るう剣に抵抗なくオーガの首が飛ぶ。
遅れて首元から血しぶきを上げながらオーガの体は倒れて行った。
瑞希はオーガを気にする事無く、シャオに走り寄り、シャオの手を握りながらシャオの体に回復魔法をかける。
「あったかいのじゃ~」
「俺が怪我しなくてもお前が傷付いてたら意味ないだろ……」
「こんなの怪我の内に入らんのじゃ! それにオーガが魔法を使うなんて思ってなかったのじゃ」
「俺の訓練も良いけど、もっと軽い相手からで良いだろ?」
「オーガなんて大した事なかったじゃろ?」
「手応えはやっぱり軽かったな。ドマルの剣が実は良い物だったのかな?」
「それは多分じゃな……」
「――ゴルアァァ!」
瑞希達から少し離れた場所に炎が上がり、炎が消えると同時にオーガキングの雄叫びが聞こえる。
「あの声はオーガキングか!? カイン達の所に急ごう!」
瑞希はシャオの手を取り、風で飛ぶ様な速さで草原を駆けて行くのであった。
◇◇◇
カインはオーガキングの持つ棍棒と打ち合う。
数撃受けた時に、カインの持つ大剣にひびが入り、体制を崩されたカインの腹にオーガキングの拳が突き刺さり吹っ飛ばされた。
「がはっ!」
カインは体勢を立て直すが、膝を地面に着くと、口から血を吐く。
「――彼の者に無慈悲なる大火を! エンディマグファー!」
オーガキングの足元から炎による柱が立ち昇る。
魔力を急激に消費したためヒアリーは膝をつき霞がかった目で焼けて行くオーガキングを見届ける。
断末魔とも言える雄叫びが響き渡り、炎が消えるが、オーガキングはゆっくりと一歩踏み出した。
「ゴルアァァッ!」
オーガキングは体から煙を吹きながらも、一歩一歩着実にカインに近づいて行く。
棍棒は燃え尽きたが、オーガキングの持つ強靭な肉体はヒアリーの魔法を耐え切った。
カインもかろうじて立ち上がり、応戦しようと大剣を構えるが、足取りがフラつく。
オーガキングは、とどめと言わんばかりにカインに拳を振りかぶるが、カインは動けずにいた。
「カイン! 避けて!」
「氷壁っ!」
カインの前に氷の壁がせり上がる。
オーガキングの拳は氷壁にひびを入れ止まり、氷壁が崩れる。
「凍りつけっ!」
瑞希はオーガキングに手をかざしながら、イメージを飛ばす。
オーガキングの体は動きを止め、カインは最後の力を振り絞り、大剣を振り下ろす。
大剣は衝撃でボキンッと言う音を立てて折れ、オーガキングの体はピシピシとヒビが入り崩れ落ちた。
「ミズキ……助かった」
「カイン! 大丈夫か!? 今治す!」
瑞希はシャオの手を握り、カインの傷に手を当て治して行くが、体の力が抜けて行きぐらりと目眩を起こした。
「ミズキ!?」
回復したカインが瑞希の体を支えると、瑞希は気を失ってしまう。
魔力薬を飲み、少し回復したヒアリーがカインの元に歩み寄る。
「さすがに魔力の使い過ぎの様じゃな……。魔力薬は残っておるか?」
「ミズキに飲ませるわ!」
ヒアリーは瑞希の口に魔力薬を流し込み、瑞希は気を失いながらも何とか飲み込む。
「苦い……不味い……」
薬の不味さからか、魔力が少し戻ったからか、気付いた瑞希は味の感想を呟いてしまう。
「瀕死のこやつらの回復から始まり、オーガとの戦闘、オーガキングをも凍り付かせ、最後にまた回復魔法……いくら瑞希の魔力が多くても流石に枯渇したのじゃ」
「あんた、ずっとさっきみたいな魔力の使い方をしてるの!?」
「魔法は……使い方がわからん……とりあえずカイン、後は頼んだ」
「俺も体力の限界なんだが……ヒアリー頼んだ」
「私ももう限界……」
「くふふふ。とりあえず一休みじゃな」
三人は大の字で寝転がり、シャオもまた猫の姿になり瑞希の側で丸くなる。
オーガの群れをたった四人で討伐した面々は今は平和な草原の中、確かな達成感と共に眠りにつくのであった――。