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ギルドの異変

 キアラの家を離れ、二人はウォルカの街を歩いていた。


「約束の日まで時間はあるけど、ミミカの献立を考えなきゃいけないな……シャオは何が食べたい?」


「ハンバーグなのじゃ!」


「またかよ……それは昨日食べたから無し!」


「うぬぅ……甘い物は食べたいのじゃ!」


「甘い物か……黒砂糖も買ったしそれを使った物にしようかな」


「ミズキの料理なら何でも驚かれるのじゃ!」


「驚く? カレーも驚くかな?」


「カレーは二食も続いたからしばらくは良いのじゃ!」


「それは俺もだよ……何作ろうかな~……」


 瑞希とシャオが手を繋ぎながら歩いていると、冒険者ギルドの近くに差し掛かると、冒険者ギルドがざわざわと喧騒に包まれていた。


「何かあったのかな?」


「人混みで見えんが、キーリスで会った女の魔力を感じるのじゃ」


「キーリスで会った? ミミカとかテミルさんがここにいる訳ないし……ヒアリーかな? すみません、何かあったんですか?」


 瑞希はギルドを取り囲んでいる一人の男に話を聞く。


「ついさっきでかい男と色っぽい女がギルドに運ばれたんだよ! 冒険者だと思うんだけどひどい傷だったから魔物の襲撃があったのかを皆確認に来てるんだよ!」


 男の話を聞き、シャオの言葉を考えるとカインとヒアリーしか思いつかない瑞希は、シャオを肩に乗せると焦って人混みを掻き分けて行く。


「ちょ、ちょっと通してください! 俺も冒険者です! すみませんっ! 通してくださいっ!」


 瑞希がギルドの扉を開けると、血まみれのカインとヒアリーが倒れていた。

 ギルド職員に囲まれ手当をされているが、傷が深いのか二人とも息が荒い。


「カイン! ヒアリー!」


「何ですか貴方は!? 二人は重症なんですよ!」


「見たらわかるよ! 回復魔法をかけるから、良いからどけ!」


 ギルド職員を押しのけ、瑞希はシャオを肩に乗せたまま二人の体に手を置き、傷が治るイメージをしながら傷がある箇所に魔力を流していく。

 二人の傷が次々に塞がり、二人の呼吸は安定していく。

 瑞希はどうにかなったと安堵すると、カインの目が開いた。


「カイン? 俺が分かるか?」


「――ミズキ……か? ヒアリーはどうした!?」


 カインは瑞希に気付くと勢いよく体を起こし、ヒアリーの心配をする。


「落ち着け! ヒアリーはお前の横で寝てるよ」


 カインはヒアリーの姿を確認すると、ほっと安堵の息を吐きだし、自身の体を確認する。


「傷がねぇ……回復魔法か?」


「あぁ」


「わりぃ、助かった……」


 二人が会話をしていると、ヒアリーも気が付いたのか慌てて身を起こし、人に囲まれている現状に訳が分からず、瑞希に気付いていない。


「ヒアリーも起きたか。痛い所はないか?」


「――ミズキ? オーガは!?」


「オーガ? 二人は傷だらけでギルドに運ばれて来たみたいだけど、何があったんだ?」


 意識を取り戻した二人にギルド職員も詰め寄る。


「お二人が傷だらけで運ばれて来るなんて……オーガにだって負けないでしょう!?」


「一匹、二匹ならオーガだって問題ねぇさ。だが、あいつらは群れでいた。しかもオーガキングまでいやがった」


「何とか私達も立ち回っていたんだけど、オーガから逃げて来るオークの大群を相手にした後で、オーガ達の相手をしたから体力も魔力も持たなかったのよ……」


 二人は沈痛な面持ちで言葉を続ける。


「ありゃやべぇ……白銀級以上の冒険者は今ウォルカにいねぇのか?」


「今ウォルカに居るのは貴方方鋼鉄級ぐらいです……」


「じゃあせめてランクは良いから、オーガ達を引き付けられる冒険者はいねぇか?」


「オーガを相手に出来る鋼鉄級以下なんて貴方方ぐらいですよ! キーリスに応援を呼びます!」


「それじゃあ間に合わない……あいつらが私達を見逃したのは多分私達を追うためだわ……」


「そんな……」


 ギルド職員達が悲壮感に包まれる中、巻き込まれぬ様に冒険者達がギルドから出て行く。

 ギルドに残った物は数名の冒険者と瑞希達である。


「とりあえず傷は治ったんだ! ヒアリーも少し休めば魔力は回復するか?」


「ギルドにある魔力薬を早く持ってきて!」


「は、はい!」


 ギルド職員は慌てて魔力薬をヒアリーに手渡し、ヒアリーはごくごくと飲み続ける。


「ミズキ……手を貸しちゃくれねぇか?」


 カインは側に居た瑞希に声をかける。


「手を貸せと言われても俺は戦闘は素人だぞ?」


「魔法で他のオーガを牽制してくれるだけでも良い! それに今回はオークもいねぇ! 例えオーガキングでも俺等二人で戦えたら倒せるはずだ!」


「ぷはっ! あんのくそ野郎! 次こそ私の魔法でズタズタにしてやるわ!」


 魔力薬を飲み干したヒアリーが会話に混ざる。


「あんだけやられて心が折れてないお前等がすげぇよ……」


 二人が闘志をむき出しでオーガキングの討伐の案を考える。


「ちなみに取り巻きのオーガはどれぐらいいたんだ?」


「二、三匹は殺したが、それでも十匹以上は居ると思う……」


「十匹以上!?」


「冒険者が束になればどうという事は無いんだが……」


 瑞希はオーガがどれぐらいの戦闘力を持っているのか分からないので、鬼が十匹以上いると想像すると身震いを起こす。

 カインは辺りを見回すが、数人しか残ってない現状に頭を抱える。


「ウォルカの冒険者共は腰抜けばかりかよ!? おい職員! 他に依頼中の使える冒険者はいねぇのか!?」


「今ウォルカにいる冒険者で手練れと言えるのは貴方方ぐらいです! そちらの子供を連れた方も銅級冒険者ですよ!?」


「銅級とか鋼鉄級とか関係ねぇ! 俺達が戦う時間さえ稼いでくれたら後は何とかする!」


 カインは苛立ち、声を荒げ職員に詰め寄るが職員は冷や汗を流しながら沈黙する。

 そんな中、冒険者ギルドの扉が開く。


「この騒ぎはどうしたんですか?」


「なんか表にすっげぇ人だかり出来てるけど」


「私達すごいタイミング悪い時に入って来たんじゃ……」


 扉から入ってきた三人は瑞希に気付く。


「「「あぁ~!」」」


 瑞希は三人の顔を見て、ウォルカに入る前の事を思い出す。


「貴方もウォルカに居られたんですか!?」


「名前ぐらい教えてくれても良かっただろ!」


「私に魔法を教えてください!」


「とりあえずお前等は落ち着け! 今はそれどころじゃないから!」


 三人は周りの空気を感じ、声のトーンを落とす。


「ミズキの知り合いかしら?」


 ヒアリーは瑞希に尋ねる。


「ウォルカに入る前にオークに襲われてたから助けたんだよ」


「あの時はありがとうございました! ミズキさんって言うんですね!」


 三人組のリーダーと思わしき青年が頭を下げる。


「オークに襲われるぐらいじゃどうにもならねぇか……」


 カインは戦力にならなそうだと思いぼやく。


「どうしたんですか?」


「カイン達が言うにはオーガキングが出たみたいなんだ」


「えぇっ!? あ、でもミズキさんも討伐に行くんですか?」


「まぁ成り行き上でそうなってるな……」


「なら大丈夫ですね!」


 三人は瑞希が討伐に行くという話を聞いてほっとしたのか、三人で呑気に談笑を続ける。

 カインはこそこそと瑞希に話しかける。


「ミズキ、お前どんだけすごい助け方したんだ?」


「いやちょっと空中からオークの首を落としただけなんだけどな?」


「空中ですって!? あんたどういう事よ!?」


「いやそれは俺の魔法じゃなくて……」


「わしの魔法じゃな!」


 シャオはふふんと自慢げに鼻を鳴らす。


「あんたの妹はどんだけすごいのよ……」


「……ミズキ、空中からオーガの数を確認して減らす事はできないか?」


「いや、俺に聞かれても……オーガを見た事ないし何とも言えん」


「だが、空中から攻める事は可能だよな?」


「それは大丈夫だ……」


 瑞希はシャオの魔法なら大丈夫だと思い答えるが、シャオを見ながらなにやら考え込んでいる。


「なぁ、事情は後で話すから、オーガの討伐は俺達だけでやれないか?」


 瑞希はウォルカの事を真剣に心配する二人に隠し事をしている後ろめたさがあった。

 二人の焦り方を見ると、オーガキングを野放しにするのはウォルカに相当な被害を及ぼすのだろう。

 キアラ達の事を考えるとそれは瑞希とて避けたい事態であった。


「勝算はあるんでしょうね?」


「大丈夫だよな?」


「問題ないのじゃ! おぬし等はオーガキングに集中すれば良いのじゃ!」


「うっしゃ! じゃあミズキの言葉を信じてリベンジと行くか!」


 カインは掌と拳を音を立てて合わせると、職員に話しかける。


「オーガの討伐は俺達だけで行って来る。何かでかい剣を貸してくれねぇか?」


「私には魔力薬をもう少し持って来て頂戴!」


「す、すぐにお持ち致します!」


 ギルド職員は慌てて言われた物を販売カウンターまで取りに行く。


「ミズキは何か必要な物は無いのか?」


「ん~剣はあるし、戦闘は殆どシャオ任せだしな」


「あんたそのなまくらでオーガと対峙するつもり!?」


「大丈夫だって。それにオーガキングはカイン達の仕事だろ?」


「あぁ! 任せろ!」


「お待たせしました!」


 職員はよろよろと大剣と魔力薬を持って来ると、カインは片手でそれを受け取り、ヒアリーはポーチに魔力薬が入った瓶を入れる。


「じゃあ行くか!」


 カインとヒアリー、瑞希とシャオはギルドの出口へと歩いて行く。


「ミズキさん帰って来たら絶対冒険話を聞かせて下さいね!」


「私は魔法の話も聞きたいです!」


「一緒に飯でも食おうぜ!」


 瑞希は三人にひらひらと手を振り、シャオはゴブリン以来の戦闘という事もありテンションが上がっている様だ。

 四人はギルドを出ると、人混みを通りウォルカの北出入口に到着すると、門の憲兵に事情を話し通してもらい、街の外に出る。


「オーガが居るのは北西の方角だ! 行くぞ!」


「シャオ、猫になっても良いぞ」


 シャオはぼふんと姿を変え、瑞希の肩に乗る。


「ミズキ! どういう事よ!?」


「事情は走りながら説明するからとりあえず向かうぞ!」


 瑞希達はオーガキングが居る北西の方向へ歩を進めるのであった――。

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