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キアラとの別れ

 じゃんけん大会を終えて一夜を過ごした瑞希は今日も今日とてシャオの髪にブラシをかけている。


「くふふふ。毎日やられても気持ちいいのじゃ」


「シャオの髪の毛は柔らかくて綺麗だな」


「くふふふ」


 瑞希は今日のシャオの髪型はアップにするため首元が涼しそうだが、シャオは寒さを気にしないと知っているので挑戦している。

 そんな中瑞希の部屋の扉がバタンと大きく開かれた。


「おはようなんな~!」


「おはようキアラ」


 キアラはシャオの髪形を調整している瑞希を見て首を捻る。


「シャオの髪形はミズキがやってるんな?」


「もう日課だな~……ほい、完成」


 瑞希はポニーテールを作り、垂れた髪を髪の中に入れ、小さくまとめ上げる。

 シャオは手鏡を見てにやにやと笑みを溢す。


「くふふふ。今日は首元がスッキリしているのじゃ」


「私もやって欲しいんな!」


 シャオの髪形が羨ましいのかキアラが吠える。


「シャオと同じ髪型で良いか? キアラの髪の長さならできるぞ?」


 寝起きで髪を下ろしているキアラの髪は肩先まで長さがある。


「シャオとお揃いで良いんな! お願いするんな!」


 キアラは瑞希の前に頭を出すが、ブラシを使って良いかとシャオの目を見るが、シャオは首を横に振る。


「してやりたいんだけど、ブラシはあるか? シャオのは使わせてくれないみたいなんだ」


「これはわし専用じゃっ!」


「それは駄目なんな。なら自分の部屋に取りに行くんな!」


 キアラは走って瑞希の部屋を出ると、その勢いのまま部屋に戻って来る。


「これでできるんな?」


「わざわざすまないな……じゃあシャオ、頼む」


 瑞希がいつもの手順で髪を梳かし、キアラは心地良さげに体の力を緩める。


「これは気持ち良いんな~。シャオは毎日やってもらってるんな? 羨ましいんな~」


「くふふふ。わしの特権じゃな」


 瑞希はブラシで梳かし終えると、シャオにやったように髪形をセットする。


「同じ髪型で、同じ様な背格好だとお前らの方が姉妹みたいだな?」


「私がお姉ちゃんなんな!」


「わしに決まってるじゃろ!」


「喧嘩すんなよ。キアラは俺に何か用があったのか?」


「親父が朝食の後に話がしたいそうな! 後プリンを作って欲しいって言ってるんな」


「相当気に入ったみたいだな」


 瑞希は苦笑しながらキアラの話を聞く。


「夕食の後もプリンプリンうるさかったんな!」


「ならもう一手間加えたプリンを朝食に出そうか?」


「あれより美味くなるんな!?」


「少し食材を足すだけだよ。キアラもカレーを今以上に美味しくなるように日々頑張れよ?」


「当たり前なんな! ミズキが食べに来た時に驚かしてやるんな!」


「そりゃ楽しみだ!」


 瑞希はそう言うと、着替えを済ませ、厨房へと足を運ぶ。

 厨房では三人の使用人が朝食の準備をしている。


「今から昨日のプリンを作るのでレシピを覚えますか?」


 使用人達はコクコクと頷き、瑞希のプリンのレシピを覚える。

 瑞希は時間短縮のためシャオの魔法を使って作成したが、その点の改善案は提示する。


「とまぁ、これだけの事なんです。難しい事ではないでしょう? 失敗して固まらなくても飲めば美味しいですし、卵黄の量を多くすれば固さは調整できます。ただ砂糖は高いから失敗すると怒られるかもしれませんね」


 瑞希は笑いながら使用人達に説明する。


「ミズキ? これなら昨日と同じなんな?」


「後は最後に生クリームを乗せて完成だよ」


 瑞希はシャオに手伝って貰い、自身のイメージで魔法を使いホイップクリームを作る。


「すごいんな! これは魔法を使わないと出来ないんな!?」


「これも別に普通に作れるぞ? キーリスで料理を教えてる子も作れてたしな」


「料理を教えてる子? どんな子なんな?」


「キアラより少し年上で、可愛らしい女の子だよ。次の依頼もその子の依頼だな」


 キアラは腕を組みながら、何かを考えているのか、黙り込む。


「ミズキはその子の事気になるんな?」


「まぁ早く料理を作ってやりたいよな?」


「そうなんな……私にもまた料理作ってくれるんな?」


「もちろん! まだまだ教えたい料理もあるしな!」


「じゃあ私もミズキの弟子なんな!?」


「俺はそんな凄い奴じゃないけどな」


「良いから! 私も弟子なんな!」


「そうだな! ならキアラは三番目の教え子だな」


「一番目はさっき話に出た子なんな?」


「一番目はシャオだな!」


「くふふふ。ワシはミズキの一番なのじゃ」


「シャオも色んな料理作ろうな!」


「もちろんじゃ!」


 使用人達が瑞希達に声をかけ、朝食を食堂に運んでいく。

 瑞希もプリンにホイップクリームを乗せ食堂に運ぶ。

 そのプリンを食べたキアラの父親を含め、ホイップクリームを食べた者達が絶句しながら食べたのは言うまでも無かった――。


◇◇◇


 朝食後にキアラの父親に呼ばれた瑞希は、シャオと共に応接間で話を聞いていた。


「昨日のプリンも美味かったが、今日のプリンはそれ以上に美味かった!」


「ありがとうございます。使用人の方にはレシピを教えておいたので、昨日のならいつでも作れる筈ですよ」


「それは本当か!? ありがとう! ありがとうっ!!」


 瑞希の手を硬く握り、何度も御礼を言うキアラの父親は相当嬉しいのか顔を破顔させていた。


「それでお話と言うのは?」


「キアラは本当に上手く行くと思うか?」


「それはキアラの頑張り次第ですが、何か心配事でもあるんですか?」


「正直言うとな……十五歳迄にキアラに出していた条件は達成出来ないと……いや、達成させたく無かったんだ……」


「それはどういう意味でしょうか?」


 瑞希はキアラの事を思うと少し苛立ちを感じる。


「あんなに可愛い娘が……目に入れても痛くない娘が外の街へ行こうとしているんだぞ!? 父親としては心配で心配で……っ!」


 愚直な父親の親バカ発言に瑞希はすっかり毒気が抜かれ、思わず吹き出してしまう。


「確かにキアラの歳で外の街に行くと言うのは心配ですが、遅かれ早かれですよ。いきなり外の街で営業するのも難しいでしょうし、十五歳まではウォルカでしっかりと飲食店のやり方を身につける事は必要ですので、しっかりと経営の事は教えてあげて下さい」


「もちろんそれは教えるが……ミズキさんは心配では無いのか?」


「子供は親からいずれ離れるものでしょう? キアラの場合はそれが早いだけですよ。しかもその理由が親父さんの香辛料を広めるためですよ? 親冥利に尽きるでしょう?」


「その通りだ! その通りなのだがな……」


「二度と会えないって訳じゃないでしょう? 可愛い子には旅をさせろですよ」


 瑞希の言葉にキアラの父親は頷く。


「……ミズキさん。もし良かったらキアラを支えてくれないだろうか?」


「それは……すみません、それは出来ません……」


「まぁそうだろうな……ミズキさんにも仕事があるだろう……これからはどうするんだ?」


「とりあえずはキーリスで依頼があるので……そうだ、香辛料を売ってもらえませんか?」


「うちの香辛料をか? 高いぞ?」


 男はニヤリと笑う。


「お安くして頂けると助かるのですが……」


「わっはっは! 冗談だよ! 一通り持って行けば良い!」


「良いんですか!?」


「キアラが世話になったからな。もちろんそれ以外にも私自身、君の事が気に入ったんだよ!」


 瑞希は肩をバシバシと叩かれる。


「ウォルカに寄った時はまたうちに足を運んでくれるか?」


「ええ、またお邪魔します! もちろんその時は違うプリンをお持ちしますよ」


「本当かっ!? それは是非楽しみにしているよ!」


 瑞希はガッチリと握手をし、一礼をして部屋を出る。

 部屋に戻り渡された香辛料を鞄にしまい荷物の整理をし終えると、シャオと共に部屋を出る。

 すると部屋の前には俯いたキアラが立っている。


「丁度良かった。キアラに挨拶しようと思ってたんだ」


「もう行くんな?」


「何があるかわからないからな。そろそろキーリスに向かおうかと思ってな」


「そうなんな……」


「用がないのじゃったらもう行くのじゃ」


 シャオがそう言うや否や、キアラは瑞希の腰元に抱きついた。


「嫌なんな! もっと料理を教えてほしいんな!」


 キアラは泣きながら瑞希の歩を止める。

 瑞希はどうしたものかと頭を悩ますが、それを見たシャオがキアラに話しかける。


「お主はミズキより美味いかれーを作るんじゃなかったのじゃ?」


「作るんな!」


「それはミズキが側に居ないと出来ないのじゃ?」


「そんな事ないんな!」


「ならミズキを驚かすかれーはまた食わしてくれるのじゃ?」


「当たり前なんな! 次会う時までに今より美味いかれーを作るんな!」


「それなら良いのじゃ! 昨日のお主のかれーも中々じゃったからの。楽しみにしておるのじゃ!」


「次は辛くないので作ってやるんな!」


「もう前を向けた様じゃの。また会いに来るのじゃ」


「絶対また来て欲しいんな」


 キアラはシャオに抱きつき、シャオもまた抱き返す。

 良く似た髪型と背格好をした二人は再会の約束をするのであった――。

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