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ハンバーグの違い

 カウンター席に座った二人は手を合わせ、頂きますと声を揃える。

 キアラはその二人の動作に首を傾げる。


「食事前に祈るならまだしも、頂きますってのはなんなんな?」


「ん? あぁ、俺の故郷じゃ食事の前の挨拶みたいなものだよ。動物にしろ、植物にしろ、こうやって食べるために命を奪うわけだろ? それに感謝して食事をしますって事だ」


「そうじゃったのか?」


「お前分からずに言ってたのかよ……あぁ、でもまぁ俺の故郷でも知らずに言ってる奴もいるし、言わない奴もいるしな。でも俺は作った人や、命を分けてくれる物には感謝したいな」


「ならミズキ、頂きますなんな!」


「ぬっ! わしも頂きますなのじゃ!」


「わざわざ作った人に名指しで言わなくても、心の中で言ってくれれば良いよ」


 瑞希は苦笑しながら再度、頂きますと手を合わせる。

 シャオはやはりというべきか、ハンバーグに匙を入れると、前回食べたモーム肉のハンバーグとは違う手応えを感じる。


「前のはんばーぐより柔らかいのじゃ!」


 プツッと肉が切れ、割った面から肉汁が見え始める。

 シャオは大きめに切り分けると、いつものように大きく口を開けて大好きなハンバーグを迎え入れる。

 もぐもぐと幸せそうに噛み締める。

 前回食べた時は、初めて見た料理と、想像もして無かった食感や味に驚き、訳も分からず食べ切ってしまったシャオだが、今回は二回目という事もあり落ち着いている。


「……」


 ハンバーグを咀嚼し、ゴクリと飲み込んだシャオは瑞希の顔を見る。


「ん? ナツメグを入れたから口に合わなかったか?」


 シャオは瑞希の顔を見ると涙目になりながら口をパクパクさせ、なんとか感動を伝える。


「美味いのじゃ……こんなにも違う物なのじゃ? 確かに前のモーム肉だけで作った物と比べると、柔らかさも香りもまるで違うのじゃ……」


「すごいだろ? シャオはこっちの肉の方が好きみたいだな?」


「うむ! モーム肉だけのハンバーグもあれはあれで美味いのじゃが、柔らかさという点と、脂の旨味においてこちらの方が好みなのじゃ!」


 キアラはシャオと瑞希のやり取りの横で、カレーを一口食べて固まっている。

 ハッと我に返ると、次はオーク肉を口に入れ咀嚼する。

 ザクザクとした肉の感触と、トロリとした脂の旨味。

 鼻から抜ける香辛料の香りと、甘味を感じると、最後には舌の上に辛みによる痛みを残して行く。


「これは美味いんな! 香り、味、辛み! これは……これはすごいんな!」


「気に入って貰えた様で良かったよ。カパ粉焼きも美味いぞ?」


 瑞希はそう言うと、カパ粉焼きをちぎり、カレーをつけて食べている。

 カパ粉焼きは、ナンより単純な作りのため、少し固いが、カレーと一緒に食べる分には充分満足ができる。


「そうやって食べるんな?」


 キアラも瑞希の真似をして、カパ粉焼きと一緒にカレーを食べてみる。


「単調なカパ粉焼きもこうやって食べる分には美味いんな!」


「シャオもカレーを食べてみろよ。今日のハンバーグは上のソースをかけて無いから、カレーと一緒に食べてみな」


「わかったのじゃ!」


 シャオはハンバーグを切り分け、一口分にすると、カレーをつけて口に入れる。


「あんなに香りが強かったのが、こうやって食べると美味いのが不思議じゃな! それに辛くないのじゃ!」


 シャオはパクパクと食べ進めて行く。


「はんばーぐも美味いんな~! ミズキは男なのに本当に料理上手なんな!」


「お気に召した様で良かったよ。依頼にあった料理はこれで大丈夫そうか?」


「これが良いんな! 香辛料の香りを楽しめる上に、辛いのも楽しめるんな!」


「後は作って行きながら、香辛料の配合とか、食材とかを好みに合わして入れれば、キアラのカレーができるよ」


「オオグの実とクルの根も、臭いと感じれないんな! こんな使い方があったんな!?」


「不思議だろ? でもこの二つが無かったら香りが物足りなくなるんだよ」


「すごいんな~」


 キアラもそう呟くと、夢中で目の前の料理を食べ続けた。

 瑞希の左右で無我夢中に食べる二人をみて、この世界で初めて作るカレーが受け入れて貰えた様で、ほっと胸を撫で下ろすのであった――。


「ご馳走様でしたっと」


 瑞希はそう言うと、シャオの口の周りを拭いてやり、食器を片付けている。


「美味かったんな! この店の看板メニューにして良いんな!?」


「好きにしてくれて構わないよ。キアラが美味いと思うカレーが出来たら俺も食べに来るよ!」


「ミズキ達はもう帰るんな?」


「ん~? どうしようかな……少しウォルカの街を見て、香辛料とかを買ったりはしたいけど……」


 瑞希は三日で戻ると伝えて、ウォルカに来たので、料理の依頼が終わったのであれば、然程急いで帰る必要もない。

 そう思っていると、キアラが身を乗り出す。


「ならうちで香辛料を買えば良いんな! お安くしとくんな!」


「え? キアラは飲食店を営んでるんじゃ無いのか?」


「これはうちの商品をより知って貰える様に挑戦してるだけなんな! もちろんかれーが完成したら、この店の看板メニューにするんな!」


「アンテナショップみたいなもんか。なら香辛料はキアラの所で購入させて貰うよ。じゃあこの依頼書にサインを貰えるか?」


 瑞希は依頼書をキアラの前に出し、キアラはサラサラとサインを書き込んで行く。


「報酬は出来高制だったんな……このかれーのレシピには金貨五枚で良いんな?」


「金貨五枚!?」


「少なかったんな? いや、これだけの料理の作り方を教えてくれたんな……金貨七枚でも高くないんな!」


「高いよっ!? 薬草採取の依頼料知ってるか!? 銅貨二枚とかだぞ!?」


「こんな料理は私がいくら考えても出てこなかったんな! 多分ミズキにしか教えて貰えなかったんな! しかも直ぐに作れる様に丁寧に教えてくれたんな! 直ぐにでも店に出して稼げる事を考えれば全然高く無いんな」


「マジかぁ……」


「それなら、今日はうちに泊まって、じっくり他のカレーの作り方も教えて欲しいんな! ミズキの口ぶりからすると、他の具材でも出来そうなんな?」


「それは構わないけど……」


「ならこれで決まりなんな! 後で必要な食材を一緒に買いに行くんな!」


 瑞希はキアラによりウォルカに留まる事になったのだが、ミミカ達の食事を作るのに、食材の幅が増えるのは嬉しかったので、多少強引ではあるが、キアラの申し出に感謝するのであった――。

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