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ウォルカの通り道

 ――シャオの風魔法で空を飛んでいる瑞希が、ふと視線を下ろすと一匹のオークに追われている三人の冒険者を見つける。

 瑞希はシャオに声をかけ、止めてもらいふわふわと上空に浮いている。


「にゃ~ん」


「シャオにもっと美味いハンバーグを食べさせたいからオーク肉は欲しいんだけど、あれが囮で追われてるかもしれないからな。ちょっと様子を見よう」


 シャオはハンバーグという単語を聞き、オークを追いかける様にゆっくりと上空を飛んだ。

 そうこうしている内に冒険者の一人がこけ、残された二人がこけた者に駆け寄る。


「こりゃ駄目だ! シャオ!」


「にゃんにゃーん!」


 シャオは四つ足で走っていたオークの首を風の刃で狙い、落とす。

 三人の冒険者は目の前で首が落ちたオークに驚き固まってしまい、瑞希達は事情を説明するのにオークの近くに降り立った。


「危なそうだったから助けたけど、大丈夫だったか?」


 見た所まだ二十歳も越えて無さそうな三人組は、瑞希の言葉に我に返ると、三人共が首を縦に振っていた。


「討伐途中だったら横取りになっちまうと思ってな、無事で良かったよ」


 こけた女冒険者を支えていた三人の中で一番背の高い、剣を腰に差した男冒険者が言葉を返す。


「ありがとうございます! 僕達まだ駆け出し冒険者で、薬草の納品依頼を受けたんですけど、急にオークが現れてっ!」


「それなら良かった。じゃあ少しだけオークの肉を分けて貰っても良いか?」


「僕等の物じゃないですよ! 全部持ってって下さい!」


 女冒険者と、近くに居た少し体が丸い男冒険者も首を縦に振っている。


「全部って言われても……今から依頼もあるし、包む物も無いしな……。君達の依頼はもう終わってるのか?」


「私達の依頼の採取はもう終わってます!」


「採取して、そろそろ帰ろうかと思ったら急にオークが俺達の方に走って来たから慌てて逃げてたんだ!」


 瑞希は昨日カインが追いかけていたオークを思い出す。


「それってやっぱり西の方から走って来たか?」


「僕達はウォルカの北にある森で採取してたのですが、無我夢中で走って来てたので方角は良く分かりません……」


 瑞希は地図を出し、現在地を確認する。


「さっきこの湖を通り過ぎたから、やっぱり西からこっちに走って来てたんじゃないか?」


 キーリスから見て、ウォルカは南西に位置する。

 地図にも、ウォルカの北には森があり、その少し東にずれた所に湖がある。

 瑞希達は街道沿いから少し離れた所を飛んでおり、湖を突っ切った形で飛んでいた。


「カインも西からって言ってたし……なんかあんのかな?」


「あ、あのっ!」


 女冒険者が独り言を言っていた瑞希に話しかける。


「ん? あぁオークの事か? どうしようか?」


「いえっ! あの、貴方も魔法使いですか?」


「ん~……まぁそうだな」


「じゃ、じゃあ魔法でここまで飛んで来たんですか!?」


「そうだけど……」


「何の魔法ですか!? 詠唱は!? 魔力はどうなってるんですか!?」


 女冒険者は瑞希に詰め寄り質問攻めをするが、男冒険者二人から頭を叩かれる。


「馬鹿っ! そんなの言える訳ないだろ!?」


「お前は見境が無さすぎるんだよ……。すみません。通りがかりなのに僕等を助けて頂いてありがとうございます」


「オーク肉が欲しかっただけだから気にするな。オーク肉なんだけど、俺は少し貰うだけで良いから、後は持って帰るか?」


「良いんですか!?」


「オークならいつでも狩れるだろうし、今は持てないからな。三人なら解体して持って帰れるだろ?」


「僕達そこまでお金は無いのですが……」


「別に貰うつもりもないよ。処理とかを任せるんだから自分達の収入にすれば良いよ」


「そんな!? 良いんですか!?」


 瑞希もオークを狩った時にそのまま売りに行けば良いとは思ったのだが、昨日の冒険者ギルドの掲示板を見る限り、ある程度のランクがあれば、依頼報酬があるので日銭を稼ぐのはその方が時間がかからないと思っていた。


「持ってっても冒険者ランクは上がらないからな。食べる分だけで充分だ。いらないなら埋めるけど……」


「いるっ! そう言ってくれるなら俺等が貰いますっ!」


「じゃあ代わりに何か肉を包めるような袋とか葉っぱとか持ってたらくれないか?」


「私が持ってます!」


 女冒険者は鞄から折りたたんだ大きな葉っぱを取り出した。


「そう言えばこれって何て言う葉っぱなんだ?」


 瑞希はモーム肉やホロホロ鶏を買った時に、包まれていた事を思い出す。


「知りませんか? これはムルの葉と言って、肉や魚を包むと腐敗を遅らせてくれるんです」


「これって雑貨屋とかにも置いてあるか?」


「むしろ冒険者ギルドでも扱ってますよ?」


「知らなかった……今度から買っとこ……」


 瑞希はムルの葉を受け取り、オークの背中肉と、バラ肉を切り分け、ムルの葉に包み紐で縛る。


「じゃあ後は任せて良いか?」


「「「はいっ!」」」


「こっちの方角に真っ直ぐ行けば街道に出るから、街道に出て右に行けばウォルカに着くからな?」


「最後にお聞きしたいのですが、オークを一瞬で倒した手腕を見る限り、銀級……いや、もしかして白銀級の冒険者ですか!?」


「いや銅級だけど?」


「「「嘘でしょっ!?」」」


 瑞希はこれ以上はめんどくさい事になりそうなので、シャオに声をかけ、空に浮かぶ。


「じゃあ俺はこれで! 気を付けて帰れよ~!」


「にゃーん」


 瑞希達は再び上空を飛んで、ウォルカの街に向かって行く。


「せめて御名前だけでも~! 行っちまった……」


「む、無詠唱で空を飛んで行った……」


「何なんだよあの人……」


 背の高い男冒険者は瑞希が飛んで行った方角に手を伸ばし、女冒険者は無詠唱で魔法を使用した事に驚き、少し丸い男冒険者は瑞希の存在に呆れていた。


「僕達も頑張ろうな……」


「「うん……」」


 まだまだ駆出し冒険者の三人ではあるが、銅級になってもあんな規格外の銅級には成れないだろうと思っていた。

 しかし、瑞希が置いて行ったオークは彼等からしたら破格の収入になるので、そんな事は気にせず、慣れない手つきで解体していくのであった――。

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