表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/412

閑話 三人の会話

ブクマ100件記念の閑話です。

 すっかり夜も更けた。

 ミズキさんと約束を済ましたうちとアンナは、城に到着して執事長に話を聞くと今日の夕食はバラン様とお嬢は約束通り一緒に食べたそうだが、どこかぎこちない雰囲気で、見てた執事長がハラハラとしたのだと言う。

 やっぱりそう簡単に打ち解けるのは難しいみたいっすね。

 お風呂に入って、アンナと一緒に侍女の部屋に戻ろうとした時にまだ起きてたお嬢に呼び止められた。

 お嬢は口の前に指を立て、手招きをしながら私達をついてこさせ、お嬢の部屋まで連れて来られた。


「二人とも随分遅かったじゃない? ミズキ様はどうしたの?」


「それが……ミズキ殿は三日程来れないようです……」


「え~! 何でぇ~!?」


 慌ててお嬢の口を塞ぎ、もごもごと口を動かしているが、うちが口の前に指を立てている事に気付いたのか、また部屋が静かになる。


「ミズキさんは冒険者の依頼が入ったそうっす。なんか料理の開発を手伝って欲しいって変わった依頼で、すぐ戻るから先にテミルさんを迎えに行って欲しいって言ってたっす」


「そっかぁ……でも嬉しいなぁ~テミルがまたここに来てくれるのね」


「けどテミルさんもギルドの仕事があるから少し時間がかかるかもしれないっすね」


「それでもお父様がテミルを連れて来いって言ったのは嬉しかったわ」


 あの時、ミズキさんがバラン様に怒り散らした事を思い出す。

 何があったのかは知らないが、旦那様と知って怒りを露わにできるのはよっぽどの馬鹿か、お人好しなのだろう。


「どうしたジーニャ? 急に静かになって?」


「いや、あの時のミズキさん格好良かったっすね」


「そうなのよ! お父様に向かっ……もごご」


「だからミミカ様お静かに!」


 お嬢はふっと息を吐き、落ち着いたのか、両手を上下に振りながら話を続けたっす。


「ミズキ様が怒ってくれた時は慌てたけれど、落ち着いて考えれば私のために怒ってくれたのよね?」


「それもあるかも知れないですが、ミズキ殿自身に昔何かあったのではないでしょうか?」


「そもそもミズキさんって謎っすよね。何であんな美味しい物作れるんすかね? 夕食のも……」


「夕食?」


「馬鹿っ!」


 しまった……つい口が滑った。


「もしかして二人だけミズキ様の料理を食べたのかしら?」


 ニコニコしているお嬢の背後から怒りを表す何かが見える様な気さえする。


「違うんです! 夜になり、ミズキ殿が見つからなかったので、お腹が空いてたまたま入った料理屋で……」


「うんうん。料理屋で?」


 お嬢は相変わらずニコニコとしながら話を聞いているけど……。


「夕食を食べてから探そうと思ったら、その料理はミズキさんが作った料理だったんす……」


「二人だけずる~いっ! どんな料理だったの!? そこにミズキ様が居たの!?」


 お嬢の声が三度大きくなってきたので、うちとアンナは指を立てながらお嬢を落ち着かせる。


「そこには居なかったのですが、女店主に出された料理はモーム肉の煮込みでした」


「モーム肉かぁ……」


「うちらもそんな反応だったっす。けどモーム肉なのにすごく柔らかくて、スープの味も黒っぽい色しているのに、甘味もあって……」


「……やっぱり美味しかったの?」


「「はいっ!」」


 うちとアンナは声を揃えて返事を返した。

 モーム肉と知ってもあれはもう一回食べたいっす。


「やっぱりずるい~。私もミズキ様の料理食べたかった~」


「ミミカ様はバラン様とのお食事はどうだったのですか?」


「うぅ……あらためてお父様と食事をしたら、緊張して無言だったの……」


「まぁ共通の話題とか無いと難しいっすよね」


「ミズキ様の料理なら美味しさとか、不思議な料理でそれが話題になるのに……」


「確かに……ミズキ殿の帰りを宿で待ってる時にドマル殿と料理の話で盛り上がりましたね」


 ドマルさんに聞いたはんばーぐっていう料理も不思議だった。

 一度粉々にした肉をもう一度固めて焼くらしい。

 何でそんな面倒くさい事をするのかは分からないけど、ミズキさんが作るなら必要な事なのだろう。


「ミズキ様の料理ってわくわくするもんね! 今日の朝食べたくれーぷも美味しかったよね~」


「私はヨーグルトもすごく気に入りました」


「うちは……」


 話そうと思った時にふと、前髪が気になった。

 お風呂上りで髪の毛を下ろしていたのを忘れていた。

 あの髪形気に入ってたんだけどな。


「どうしたの?」


「いや前髪が邪魔だなって思っただけっす」


「今日の髪形はミズキ様にやってもらってたから可愛かったもんね! 私ももう下ろしちゃったな」


「ミズキさんって何で髪形まで作れるんすかね? 女性がやる仕事ばっかり出来る様な……」


「前に小さい子の髪形を良く作ってたんだって。でもゴブリンを倒した時はすっごい男らしかったのよ? こうズバーンって切っちゃんたんだから!」


「楽しそうに料理をしてる所からは全然想像つかないっすね……どうしたんすかアンナ?」


 お嬢と髪形の話をしていると、アンナは暗い顔をして落ち込んでいる。

 何か余計な事言ったっすかね?


「私だけ髪の毛をやって貰ってない……」


「た、たまたまっすよ? 今日の朝テントから起きたら寝癖がひどかったのを見られて、たまたまやって貰っただけっすよ! それにアンナは火の番で疲れてたし!」


「私も寝ぐせが酷かったから! アンナは髪の毛も短いし、寝相も良いから寝癖になりにくいじゃない?」


「二人ともずるい……髪の毛伸ばそうかな……」


 アンナの髪の毛も短めだけど、短髪という訳じゃないのに……。

 でもミズキさんならいじれるんすかね?


「じゃあ次にミズキさんが来る時は泊ってもらって、アンナがやって貰ったら良いっすよ! お嬢もアンナで良いっすよね?」


「それは……その……」


「お嬢は二日ともやってもらったじゃないっすか……」


「だって、だって~! 髪の毛乾かして貰うのも気持ち良いし……」


「確かに……温かい風と櫛が気持ち良いんすよね」


「二人ばっかりずるい……」


 しまった……アンナがますます拗ねてしまった。

 でも本当に気持ち良かったんだから仕方ない……。

 シャオちゃんは毎日やって貰ってるみたいだから、正直に言うと羨ましい。


「でもアンナ? 寝癖を直してもらうって事は、ボサボサの頭でミズキさんに会う必要があるっすよ?」


「うぅ……それは恥ずかしいな」


「私も初めて見られた時は恥ずかしかったな~」


「アンナも覚悟を決める時っすよ!」


「覚悟を……」


 アンナが思案していると、次はお嬢が難しい顔をし始めた。


「どうしたんすかお嬢?」


「さっき料理屋さんって女店主って言ってたわよね?」


「そうっすよ? 料理屋なんだから普通じゃないっすか?」


「その人……ミズキ様の料理を……というか、ミズキ様の事を……」


 あ〜……はいはい。

 いやいくら何でもそんな急にはないでしょ?

 そう思いながらも、目の前の二人を見ると、そんな急な事例が居る。


「でもミズキさんの事はすごい人としか言って無かったっすから大丈夫じゃないっすか?」


「私も最初はすごい人って思ってただけだもん! それがね、なんかね……なんか……」


「わかります。頼りたくなるんですよね?」


 急にアンナが復活して来た。


「そうなの! ミズキ様って、こうちょちょいって解決してくれるの!」


「ゴブリンに捕まった時も覚悟を決めていたのですが、颯爽と現れて……」


 二人が助けられた時の会話をしてると、急に疎外感に襲われる。

 うちはミズキさんが戦ってる時の姿は見た事がない……。


「なんかずるいっす……」


「「えっ?」」


 えっ? 何でうちはそんな言葉を呟いたんだろう。

 二人はニヤニヤしながらうちを見ている。


「ち、ちがうっす! これは違うんすよ!」


「良いじゃない! ミズキ様の事を知りたいのは私達も一緒よ!」


「その通りだ。ジーニャも混ざれば良い!」


「とりあえずうちも二人も落ち着くっす!」


 うち等は口の前で指を立てる。

 それが可笑しかったのか皆でくすくす笑う。

 三人の会話の中心はミズキさんの事ばっかりだ。

 バラン様とお嬢の食事もミズキさんの料理なら上手く行くに違いない。

 ドマルさんも言ってたけど、あの人の料理は魔法以上に不思議な事が起きるんだから――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が魅力的。 [一言] まだ序盤しか読んで無いですが、料理人の主人公が旅をしながら料理で周りを幸せにしていく物語に引き込まれました。 異世界+飯系の小説で、とくに料理人でも無い主人公…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ