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瑞希の尊厳

 瑞希とシャオはギルドから宿への帰り道を歩いていたのだが、行きしなとは違い、手は繋いでおらず、シャオはぶすっとした顔をしていた。


「……何でぶぅ垂れてんだ?」


「……ミズキがぶったのじゃ……」


「ぶったって……あれはお前が気絶させたからだろ?」


「あやつらはミズキを馬鹿にしておったのじゃ!」


「馬鹿に……まぁそうかもしれないけど、急に気絶させるのも可哀想だろ?」


「全然可哀想じゃないのじゃ! ミズキはすごいのじゃ! なのにあやつらは……」


「そんな事か……」


「そんな事とはなんじゃ!」


 瑞希はシャオの頭を撫で、抱き上げる。

 シャオはされるがままに持ち上げられ、瑞希に抱き締められる。


「お前が怒ってくれたのは嬉しいよ。俺もシャオを馬鹿にされたら怒るしな。でも俺は冒険者として馬鹿にされてもどうでも良いんだよ。俺の本職でもないし。さすがに料理を無駄にされたりしたら怒るけどな」


 瑞希は笑いながらシャオを諭す。


「直接害があるなら俺も反撃はする。でも見た目だけで馬鹿にしてくる奴なんか相手にしても疲れるだけだろ?」


「でもミズキを馬鹿にするのは許せんのじゃ……」


「ん〜……ならそういう奴を見たら憐んでやるのはどうだ? 俺も流石に馬鹿にしてきた奴に美味いものを作る気は起きねぇからな。俺達を馬鹿にして来た奴はシャオが知ってる俺の料理が食べれなくなっちまうんだぞ? その方が可哀想だろ?」


「くふふふ。それは確かに憐れな奴らなのじゃ」


「でもシャオが怒ってくれた気持ちは嬉しかったからな、またハンバーグでも作ってやろうか?」


「本当なのじゃ!? いつ作ってくれるのじゃ!?」


「いつ作ろうかな〜?」


 瑞希は機嫌が治ったシャオを下ろすと、シャオは瑞希の手を握る。

 瑞希はシャオとのやり取りを楽しみながら、宿への道を二人で歩いて行くのであった。


◇◇◇


 瑞希を待つ三人が瑞希の料理話で盛り上がっていると、宿の扉が開いた。


「ただいま〜」


「ミズキ殿!」


「あれアンナ? ジーニャも、良くここがわかったな?」


 瑞希は二人が座っている席に歩み寄る。


「こんな夜遅くに城を抜け出して大丈夫なのか?」


「ミズキさんを探しに来たんすよ! 早く城に戻るっすよ!」


「えぇ……さすがにミミカのお父さんもあの後に怒ったのか?」


「いえ、その逆です。ミミカ様と食事をする事になったので、その料理をミズキ殿に作って欲しいとの事です」


「ならあの二人は仲直りできたのか……。でも今から行くのはちょっと無理そうだ」


「なんでっすか!?」


「ミズキ。もしかして依頼があったの?」


 ドマルは熱くなったジーニャを宥めると、瑞希に問いかける。


「そうなんだよ。ウォルカの方で料理の依頼が有ったから、明日からウォルカに行って来ようかと思ってな」


「なんで冒険者ギルドで料理の依頼があるんだよ……」


 ドマルは呆れながらも、瑞希らしい依頼におかしくなり笑ってしまう。


「しかし、こちらも仕事の依頼です!」


「困ったな。でも今更依頼を破棄するのもな……なぁ、その食事ってテミルさんは来ないのか?」


「テミルさんも一緒にって言ってたっす!」


「なら、テミルさんが来るまでに依頼を終わらして来る。テミルさんが最速でキーリスに来れるとしたら三日ぐらい時間はあるよな?」


「でもその依頼はウォルカでの依頼ですよね? ウェリーを使ってもキーリスから半日はかかりますよ?」


「今回はドマルもキーリスで仕事があるし、シャオと二人で行って来るから大丈夫だよ」


 ウェリーも無しだと尚更無理では無いのかと、アンナとジーニャが首を傾げていると、事情を知っているドマルはくすくすと笑う。


「ミズキに任せておけば大丈夫だよ。二人はミミカ様にこの事を伝えて、安心して待っといてあげなよ」


 アンナは空の旅をした事があるのだが気を失っていたし、ジーニャもシャオが魔法を使えるのは知っているが、空を飛べる事までは知らなかった。


「ミズキ殿……信じて良いのですね?」


「ちゃんと三日後には戻って来るから任しとけっ!」


「わかったっす! シャオちゃんもミズキさんを宜しく頼むっすよ?」


「任せるのじゃ! あの親父にもミズキの料理を首を長くして待ってろと伝えるのじゃ!」


「そこまで言える訳ないっすよ!」


 五人が一頻り笑うと、アンナとジーニャは別れの際に軽く会釈をして宿を出て行った。

 残された瑞希達は部屋に戻ると、シャオが猫の姿になりベッドに座った瑞希の膝で撫でられている。


「明日はシャオちゃんの魔法で飛んで行くんだよね?」


「その方が早いしな。食材を持って行く必要もないから、包丁とか着替えが有れば事足りるだろうし」


「そうだね。危ない事が無ければ良いけど」


「おいおい、料理を作るだけで危ないもくそも無いだろ? さくっと料理を考えて戻ってくるよ」


「ミズキの料理がしばらく食べれないのは残念だけど、お互い頑張ろうね!」


「ドマルも商談頑張れよ?」


「ウィンウィンになる様にだよね? 頑張るよ!」


 二人はお互いの健闘を祈りあうと、布団に入り眠りにつくのであった――。


◇◇◇


 翌朝、瑞希とシャオはキーリスの街を出て街道を歩いている。


「ドマルにこの辺の地図は貰ったし、他に忘れ物は無いよな?」


「あるのじゃ! 今日はまだミズキの料理を食べてないのじゃ!」


 シャオはサイドテールに束ねられた髪を揺らしながら、本日の朝食を思い出していた。


「あれはあれでシンプルで朝食らしかっただろ? そんなに美味くは無かったけどな」


「早く瑞希のはんばーぐが食べたいのじゃ……」


「ウォルカの街の依頼で料理を作るだろうから、その時にでもまた作ってやるって」


「なら早く行くのじゃ!」


「もうそろそろ人の目も無いから、シャオに任せた! あっちの方角に頼む!」


 シャオはぼふんと猫の姿になると、瑞希の肩に乗り、魔法を使い瑞希に指差された方に飛んでいく。


「もう流石に慣れてきたな……」


 瑞希のボソッと呟いた一言をシャオが聞き漏らす事もなく……。


「にゃんにゃんにゃ〜ん!」


「えっ? まだ早くなるのかよ!?」


 瑞希は再び叫び声を上げる事になるのであった――。

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