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二人の捜索

 瑞希の顔を知るのはアンナとジーニャしかおらず、二人は冒険者の様な服に着替えを済ませると、ミミカに命じられるままに街まで瑞希を探しに出ていた。


「どこ行ったんすかね〜?」


「まさかミズキ殿があそこまで怒るとは思わなかったな?」


「ほんとっすよ! 普段は優しいのに怒ると怖いんすね!」


「でもミミカ様のために怒ってくれたんだから嬉しいな」


「良いんすかそんな事言ってて? さすがのお嬢もあれは惚れるっすよ? うちでもやばかったすもん!」


「なっ!? 馬鹿な事言うな! さっさと聴き込みして瑞希殿を見つけるぞ!」


 二人は城の近辺から順に小さい女の子を連れた馬車はいなかったかと聞き回るが、瑞希はバランに対して熱くなった事もあり、シャオと共に馬車内で凹んでいたため、何台も通る馬車を詳しく覚えている人や、シャオを見た人は居なかった――。


「結構城から離れて来たっすけど、この広いキーリスで見つけるのなんて無理じゃないっすか?」


「だが折角ミミカ様とバラン様が一緒に食事をなされるんだから、やはり私もミズキ殿に作って頂きたい……」


「本当にそれだけっすかぁ~? ちゃんとお別れが出来なくて悲しいんじゃないっすかぁ~?」


 ジーニャはにやにやとアンナをからかい、すぐに熱くなったアンナが慌てて言い返して来るかと思ったが……。


「その通りだ……。私はミズキ殿とお別れをするならばきちんとした別れを告げたい」


 ジーニャはアンナがあまりにも真剣な顔をしながら言って来たものだから、ばつが悪そうにしている。


「その……からかってごめんっす……」


「ジーニャはミズキ殿にきちんと別れを告げたくないのか?」


「うちもちゃんとお別れしたいっす! シャオちゃんとも仲良くなったのにこれで終わりとか嫌っす!」


「なら頑張ろう! さすがに今日キーリスを出るという事はないだろう? ドマル殿も仕入れをすると言っていたし、少なくとも数日は猶予があるはずだ!」


「わかったっす! てかミズキさんは冒険者なんだからギルドに行ったとかないっすかね?」


「料理ばっかりしてたから忘れてたがその通りだ! ジーニャ! ギルドに行くぞ!」


 二人はギルドに向け走り始めた。


 日もどっぷりと暮れ、アンナとジーニャはトボトボと歩いていた。


「ギルドには来てなかったみたいだし、本当にどこ行ったんすか〜?」


「市場とか行きそうだが、そっちにも見た人は居なかったし……」


「もう夜っすよ~。今日は諦めて明日また続きからやらないっすか? うちはお腹空いたっす……」


「確かに人も減って来たな。帰りに何か食べて帰るか……最後にあの人達に聞いてみないか?」


 今歩いているのは昼間屋台が並び立つ通りだが、今はその姿もなく、店仕舞いをした女性達が帰り支度を済まし荷物を抱えて歩いている。


「じゃあ聞いて来るっす!」


 ジーニャは近くを歩いていた女性達に話しかける。


「あの~すみませんっす。今日女の子をつれた若い男の人って見なかったっすか?」


「そんな兄さんいたかね?」


「昼過ぎに私んとこに来た人かね? 前髪を編んでてリボンを付けた女の子を肩車していた兄さんなら来たよ?」


 アンナが慌てて会話に混ざる。


「ミズキ殿とシャオ殿だ! その二人はどっちに行きましたか!?」


「連れてる嬢ちゃんがうちのトッポ焼を食べて、辛い辛いと騒ぎだして兄さんが慌てて走って行ったんだよ。どこに行ったかはわかんないねぇ」


「そうですか……ありがとうございます!」


 アンナ達は女性達に礼を言うと、二人で話し始めた。


「辛い物を食べたけど、慌てたって事は水が欲しかったのか……でもそれならシャオ殿が水を魔法で出せば……」


「さすがに人混みで魔法を出す事はしないんじゃないっすか? ……なんか良い匂いするっす!」


「こんな時にお前は……」


 アンナはそう言いながらも鼻をくすぐる美味しそうな匂いに気付くと、お腹を可愛らしく鳴らした。


「ほらアンナもお腹が減ってるんじゃないっすか! この匂いのする店で食べるっすよ!」


「仕方ない。腹が減っては頭も回らないし、何か食べようか」


 ――二人は匂いを辿り、一軒の店に到着し、扉を開ける。


「今晩は〜? まだやってるっすか?」


「いらっしゃいませぇ〜! こちらのお席にどうぞぉ!」


 二人はカウンターに座り、何を食べようかと考えるが、メニューが見当たらない。


「すまない、何か食事をしたいのですが、何が出来ますか?」


「えっと、その、今はモーム肉の煮込み料理しか無いんですぅ……」


「うへっ……モーム肉っすか? どうせなら他の肉が食べたかったっす」


「モーム肉って言ってもすごく美味しいんですよぉ!」


「確かに外まで香って来た匂いは美味そうだったが、モーム肉か……」


「今日のは特別なんですよぉ! 一度食べてみて下さいぃ!」


 女性店主は煮込みを皿に盛り付けると、モーム乳を垂らし、パンを添えて提供する。


「上にかかってるのはモーム乳っすか? こっちの白いのは何すか?」


「それはグムグムですぅ。匙で掬って一緒に食べて下さい」


「とりあえずは頂こう」


 アンナとジーニャはモーム肉の硬さを知っているが、念のためにつついてみる。

 すると肉は予想とは違い、軽い力でストンと千切れた。

 二人は驚きながらも一口食べてみた。


「ちょっ! えぇっ!? 本当にモーム肉っすか!?」


「もの凄く柔らかいな!」


「それにこの味! めっちゃ美味いっすよ!?」


「こっちのグムグムも滑らかな口当たりに……この香りは……」


「ばたーじゃないっすか!?」


「そうなんですかぁ? 私は見た事ない食材だったんですけど、グムグムにも入ってたんですねぇ」


 女性店主はのほほんと驚いている二人に話しかけた。


「入ってたって……店主さんが作ったんじゃないんですか?」


「私にこんな美味しい物はまだ作れないですよぅ!」


 女性店主の話振りにジーニャが食いつく。


「じゃあこれを作った人ってミズキさんじゃないっすか!?」


「ミズキさんのお知り合いですかぁ? これは母の料理をミズキさんが再現してくれたんですぅ!」


「ミズキ殿達は今どこにっ!?」


「宿に戻ると言われてましたが、何処の宿かは聞いて無いですねぇ。でも二人で歩いて行かれましたぁ」


「という事は近くの宿だな……ジーニャ! 近くの宿を虱潰しに聞いていくぞ!」


「わかったっす! けどこれだけは食べてから行くっす!」


「……そうしよう」


 二人は席に腰を落ち着けると、再びルク酒煮込みを食べ始める。

 ミミカのためにも急いで探しに行かなければならないという事は分かっているのだが、瑞希の料理に抗える訳が無かったのであった――。

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