初めての魔法
しばらくの間歩き続けていた二人だったが、へとへとになった瑞希がシャオに喋りかけた。
「シャ……シャオさぁん。そろそろ機嫌を直してはくれませんかね~?」
シャオは瑞希の姿に目をやると、大きくため息をつき、ぼふんっと人の姿になった。
「反省しておるのじゃ?」
「反省しました!」
「なら人の話はきちんと聞くのじゃ?」
「きちんと最後まで聞きます!」
「はぁ……なら許してやるのじゃ」
そう言うとシャオは瑞希の前に小ぶりな西瓜サイズの水の球体を現した。
「ほら、飲むと良いのじゃ」
瑞希はおっかなびっくりに球体をつつき、シャオに質問をした。
「飲めば良いったって、これ飲んでも大丈夫なのかよ?」
「問題ないのじゃ。魔法とは言っても、自然にあるものを魔力で呼ぶだけじゃからな」
瑞希はそう言われ、球体に口をつけて水を吸ってみた。
喉が渇いていたこともあり、ごくごくと飲んでいくと、あっという間に球体は瑞希の前から消えてなくなった。
「うっまぁ! なにこれ!? こんな美味い水初めて飲んだっ!」
「この世界はお主の世界に比べて自然がきれいに残っておるからの。それでじゃろ?」
「いやいやいや! それにしたって美味いよ! シャオが出してくれたからかな?」
「べ、別にわしが出したのとか関係ないのじゃ……」
そう言うとシャオは瑞希に背を向け、後ろ手に組んだ手をもじもじしていた。
その姿を見てピンときた瑞希はシャオに向けてわざとらしく声をかけた。
「シャオは美人なだけじゃなく、毛並みも綺麗で、物知りで、おまけにこんなすごい魔法も使えるなんて、一緒に旅ができる俺は本当に幸せ者だなー!」
こんなわかりやすいおだて文句に騙される馬鹿はいないと思うのだが……。
「わっはっは! 分かれば良いのじゃ! 分かればっ! ほれ、頭を撫でてもよいのじゃぞ?」
シャオはそう言うと瑞希に頭を差し出し、瑞希はぐりぐりと撫でてやる。
シャオは非常にちょろいのであった。
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「俺にも魔法が使えるかな?」
「急には無理じゃぞ? まず魔力を感じなければならんし、お主は生まれてきた環境も違うからの。お主が前の世界で当たり前に出来たことが、こちらの世界の住人には出来ないのと同じじゃよ。環境というものが考え方や常識を作っていくのじゃ」
「確かに魔法を使う感覚は想像できねぇな。でもいずれは使ってみたいよな!」
「お主の魔力を使う事も可能じゃが……。手を貸してみるのじゃ」
「ん? はい」
瑞希はシャオに手を差し出すと、シャオは片方の手で瑞樹の手を握り、もう片方の手を空中に向けた。
すると、シャオの手から小さな火が生まれた。
「これがお主の魔力で呼んだ火じゃ。魔力が減った感覚はあるか?」
「全く無いな! シャオが呼んだだけじゃないのか?」
「それは……まぁお主が魔力を感じれてないからじゃろ。その内分かる様になるかもしれんの」
「魔法があれば便利なのになぁ……」
「わしがおるのじゃから良いではないか?」
「俺からすればロマンだよ」
「そんなもんかのう……」
瑞希は手を振り回しながら魔法を使おうとするが、傍から見ればちょっと残念な人にしか見えないのであった――。