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リーンとの出会い

 大通り外れの屋台街を抜けた先に小さな看板を掛けた飲食店がある。

 前は女将さんが料理を作り、一人娘が接客をする、料理が美味い店と評判の飲食店だ。

 日替わりで出される料理の中で特に人気があったのは煮込み料理で、その中にはどうやって仕入れたのか、柔らかい肉がゴロゴロ入っているのにも関わらず安価な料金で食べれたので、色んな客が来ていた。

「その料理を再現したのがこちらですぅ……」


 オーク肉のバラ肉の部分を使ったのだろうと推測できるのは、油と肉が層になっているからだ。

 しかし、煮込み料理……ましてやスープも飲ます料理でこの部位を煮込むと当然……。


「油でぎっとぎとだな……」


「だって、柔らかい部位ならここだと思ったんですよぉ~!」


 あながち間違いでもない。

 瑞希も醤油や生姜に代わる食材が見つかれば豚バラを煮込む料理を作っただろう。

 しかし、その料理は肉を食わす物でスープを飲むという物ではない。


「煮込み時間も足りてないから、バラ肉でも固くなってるし、味付けは……」


コロンの実(ブルーベリー)とか、オオグの実(ニンニク)とか、黒っぽい色の食材を入れてみましたぁ!」


「ある意味惜しいっ! でもこれはひどい味だ……」


 瑞希が惜しいと言ったのには理由がある。

 瑞希はこの世界に来て、タバスの店で飲んだ赤ワインの様な酒は、多分葡萄に似た実……コロンの実の様な物があるから作られると推測していたからだ。

 まだその酒の素材を聞いてなかったが、調味料を買った時に当然同じ様な酒も購入している。


「カインさんも相棒さんに説明しに行くって出て行きましたけど、本当にミズキさんは母の料理を作れますかぁ?」


「レシピも無いから全く同じものは無理だよ?」


「そんなぁっ! 作れるって言ったじゃないですかぁ!」


 女店主こと、リーン・メイクルは泣きそうな顔で瑞希に詰め寄る。


「匙でホロホロ崩れる様な柔らかい肉の茶色っぽい煮込み料理は作れるけど、リーンの言うお母さんの料理とはまた違うんかもしれないからな。でも要は美味い煮込み料理で、肉が柔らかい料理なら大丈夫だろ?」


「うぅ~またあの二人の言い争いが始まると思うと怖いんですよぅっ!」


「カインさんみたいなごつい人と言い争う相棒か……」


 瑞希はカインと似た様な体躯をしている冒険者を想像していた。


「ならたっぷり作っとかなきゃすぐに無くなるかもな!」


 二人がカウンター越しで喋っている中、シャオは口の辛みも治まり、暖かな店内の心地良さにこくりこくりと舟を漕いでいた。


「とりあえず食材の確認をしたいんだけど、モーム肉と、パルマン、ポムの実はあるか?」


「言ってたお肉ってモームですか!? めちゃくちゃ固いんですよぉ!?」


「大丈夫だって! 後はワインも欲しいんだけど……赤紫色の酒ってあるか?」


「ルク酒ですね! 安酒ですが有りますよ!」


「ルク酒って言うのか。ちなみに透明なルク酒もあるのか?」


「マルク酒ですか? 今は有りませんけど、酒屋には置いてますよぉ? 使うなら買って来ますぅ!」


「今日は使わないから、とりあえずさっき言った物だけ揃えてくれるか?」


「じゃあモーム肉を買って来ます! 他に欲しい物は有りますかぁ!?」


「じゃあ蓋付きの瓶が欲しいのと、モーム乳も使って良いか?」


 瑞希がそう言うと、リーンは厨房の棚から瓶を取りだし瑞希に渡す。


「これで良いですか?」


「うん。これで大丈夫だ! じゃあ肉が届くまでに下準備はしておくから、包丁とまな板も出しといてくれ」


 リーンは現在揃っている食材と包丁を用意すると、そのまま走ってモーム肉を買いに行った。

 シャオは完全に寝てしまったのか、リーンが出て行くと同時に椅子の上で猫の姿に戻ってしまう。


「シャオ……本当は起きてんじゃ無いのか?」


 瑞希はシャオの頭を一撫ですると、気持ち良さそうに頭を擦り付けて来る。

 ついでに背中と腹をもふもふと撫でると、コロリと気持ち良さそうに仰向けになる。


「やっぱりまんま猫なんだよなぁ。可愛い奴め。さてさっさと下拵えを終わらすか!」


 瑞希は手を洗うと包丁を器用に使いパルマンの皮を剥き、素早く微塵切りにしてしまう。

 瑞希が立てる包丁の心地良い音に気付いたシャオは目を覚まし、椅子の上から辺りを見回してもカウンターの向こう側にいる瑞希を見つけられずにいる。


「にゃーん!」


「シャオ? 起きたなら料理を手伝ってくれるか?」


 シャオはぼふんと人間の姿になり泣きそうな顔をしていた。


「急にいなくなるで無いのじゃ!」


「気持ち良さそうに寝てたのはお前だろ〜? それにずっとここに居たよ」


「うぬぬ……」


「居なくなったりしないから、早く手伝ってくれって」


 シャオはカウンターに入り、瑞希の横という定位置に着くと落ち着いたのかいつもの調子に戻っていた。

 瑞希もシャオが何で不安になったのかわからないが、シャオの頭を撫でてやった。


「それで、わしは何をすれば良いのじゃ?」


「いつもの様にバター作りと、ポムの皮むきだな」


「なんじゃ。それだけなのじゃ?」


「後は肉が届いてからリーンと一緒に作って行くさ。後はマッシュポテトでも作って置くか……」


 シャオは魔法でバターを素早く作り、ポムの実(トマト)の皮剥きも手慣れたもので、いつもの手順で剥いていく。

 瑞希は厨房からグムグム(ジャガイモ)を見つけ出すと、手慣れた様子で包丁で切ると、皮を剥いていく。


「グムグムはポムの様に剥けないのじゃ?」


「皮ごと茹でたら手でも剥けるんだろうけど、流石にこの大きさだからな……切って剥いてからの方が調理もしやすいんだよ」


 グムグムはカボチャぐらいの大きさがある、ジャガイモに良く似ている性質なので、瑞希からすれば使い慣れた食材の一種である。


「じゃあとりあえずグムグムをこの鍋で茹でるか。塩はこれだな」


 瑞希は鍋に水を張り、塩を入れてシャオに火を着けて貰う。


「じゃあこのままこの串がスッと通るまで煮込んだら、ザルに上げて、マッシャーも無いからそのまま木べらで裏ごすか……シャオ、ここにボウルを嵌めて、抑えといてくれ」


「わかったのじゃ!」


 瑞希が木べらでゴシゴシと擦りながら力を込めると、ザルからボロボロとグムグムが出てくる。


「わっわっ! すごいのじゃ!」


 ザルに入っていたグムグムが無くなると、シャオが持っていたボウルに全て移っていた。

 瑞希はそこにバターとモーム乳を加え、塩と胡椒で味付けを済まし、シャオに一口食べさせてみた。


「美味いか?」


「素朴な味なのに美味いのじゃ! これはまよねーずを入れても美味そうなのじゃ」


 瑞希はシャオの思いがけない呟きに驚いたが、嬉しくなりぐりぐりと頭を撫でる。


「急にどうしたのじゃ?」


「こないだ料理を始めた奴が提案してくるとか生意気だぞ〜。でもシャオには料理の才能もあるかもな!」


 言葉とは裏腹に瑞希は本当に嬉しそうにシャオの頭を撫で続ける。

 シャオも瑞希が何を喜んでいるのかわからないが、嬉しそうにしている瑞希を見るのも、気持ち良く撫でられるのも悪い気はしないのであった――。

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