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屋台とトッポ焼

 城を出た瑞希達はドマルの馬車に揺られながらキーリスの街を走っていた。


「やっちまった……」


「お主は勢い付くと止まらんのじゃ」


「だってよ~……」


「僕も止めなかったからね、けど、これでモーム乳の話は流れちゃったかもね」


「テミルさんと約束したのに、悪い事しちまったな」


 ガラガラと車輪の音を立てる馬車にふわりと美味しそうな匂いが漂って来る。


「良い匂いがするのじゃ!」


「凹んではいても腹は減るんだよな! 余計なエネルギーも使ったし余計に腹減った!」


「ミズキ達はここで降りて買い食いでもする? 僕は馬車もあるから今日泊る所を決めてくるけど」


「任せて良いか? でもどうやって連絡を取ろうか?」


「宿は僕がいつも使ってるコムルカ亭って名前で、ここから真っ直ぐ行った所だからすぐにわかるよ」


「じゃあある程度歩き回ったらそこに戻るよ! なんだかんだでこの世界の料理ってまだタバスさんのしか食べてないから色々食べてみたいんだよ!」


「了解! 何かあったら……二人にはその心配はいらないか! じゃあまた後でね!」


 瑞希はシャオと共に馬車を下りて、ドマルとしばしの別れを告げる。てを

 ドマルが走って行くのを見届けると、シャオと手を繋ぎ匂いのする方向に歩いて行った。


「匂いからするとここを曲がった辺りに……」


 道を曲がった先には屋台の様な店がずらりと並んでいる。

 道を歩く人々が屋台に寄っては好きな物を買い歩きながら食べている。


「おぉ! 屋台街だ! どんな料理があるんだろうな!」


「ミズキの料理でなければ、何でも良いのじゃよ」


 人込みの中、手を繋いでるとはいえ、シャオが人込みに埋もれそうになっている。

 瑞希はシャオを持ち上げると肩車をして歩いて行く。


「何じゃ急に!」


「シャオはちっさいんだからはぐれたら大変だろ? こんな場所で魔法を使う訳にもいかねぇしな」


「……お主がしたいんじゃったらわしは別に構わんのじゃ」


 シャオは嬉しそうな顔をしているのだが、瑞希は頭の上のシャオの顔は見れない。

 瑞希は近くにあった屋台に近づき、売っている物を確認する。


「なになに? モームの串焼き? 試しに一つ買ってみるか」


「わしも食べてみたいのじゃ」


「一つで良いだろ? 分けて食べて色んな物食べようぜ? すいません! 一串もらえますか?」


「あいよっ!」


 瑞希は渡された串を手に持つと、まじまじと確認をする。


「薄切りにしたのを串で束ねて焼いてあるのか……頂きます!」


 瑞希は串の半分ぐらいを口に入れ、残りをシャオに手渡し、もぐもぐと咀嚼して飲み込む。


「薄く切っても固い物は固いか……でも味付けは香草が効いてて中々美味い」


「はんばーぐの方が美味いのじゃ!」


 シャオは串焼きを食べ終え、微妙な表情をしながら瑞希に告げた。


「ん~……甘みが足りないのは仕方ないか。おっ! あっちは噂に聞いたカパ粉焼きだ!」


 瑞希は別の屋台に近づくと一つ購入してみたが、薄く伸ばして焼いてあるようで、まるでナンの様な物を手渡された。

 瑞希は薄べったいカパ粉焼をぺりぺりと半分に割き、シャオに手渡し、二人がカパ粉焼きを口にする。


「……ナンだ。バターがあったらもっと美味いだろうな!」


「何だと言われてもわからんのじゃ!」


「違うって、俺の世界にこれと似た様な料理でナンって言う料理があるんだよ」


「くふふ。変な名前じゃの」


「カレーと一緒に食べると美味いんだよ! 他には何かないかな?」


「あの屋台は何じゃ?」


 シャオが指さした屋台にはトッポ焼と書かれた屋台があった。

 聞いた事も無い名前で、食材名なのか料理名なのか分からない瑞希は屋台に向かい話を聞いてみた。


「お姉さん! トッポってどんな料理ですか?」


「くふふ。出たのじゃ」


「トッポはね、このトッポって野菜を使って焼いた肉よ! うちではトッポを細かくしてホロホロ鶏にまぶして焼いてるのよ!」


 見た目が真っ赤に染まった串焼きを見せられるとシャオは興味が出たのか、そのまま串を受け取った。


「こらっ! お金がまだだろ? すいません!」


 瑞希は慌てて金を渡す。

 シャオは瑞希が金を渡すと同時にトッポ焼を食べる。


「い、痛いのじゃ~! 口が痛いのじゃ~!」


「痛い? あぁ、やっぱり辛い料理か」


「こんなの食べた事無いのじゃ!」


「想像できないのは鑑定みたいなのが出来ないのかな? 残りは食ってやるから残りをくれるか?」


 シャオはひぃひぃ言いながら瑞希にトッポ焼を手渡し、瑞希も一口食べてみる。


「結構辛いな。香草の香りもするけど、旨味……というか甘みか? これも一味足りない感じだな」


「どうでも良いのじゃ! 水が飲みたいのじゃ!」


 シャオが魔法を使おうとするが、慌てて瑞希が止める。


「待て待て待て! そこに店があるからそこに入って水かモーム乳を貰おう!」


 屋台街を抜けた先にある料理店を見つけ、瑞希はシャオを肩から下ろし、店の扉を開ける。

 ガラガラの店内の奥には一人の大きな体の男が座っていた。


「すいません! 水かモーム乳を……「これも不味いっ!」」


 男は目の前の料理を食べた様で、カウンター越しに居た二十歳前後の女性が泣きそうな顔で感想を聞いている。


「だからこうじゃねぇんだよ。やっぱりモーム肉じゃねえかな? オーク肉だと根本的に食感が違うんだよな……」


 男がぶつぶつと目の前の料理を考察している横で、瑞希が再度飲み物の注文をする。


「すいません! 水か、あればモーム乳を頂けませんか?」


「え? あ、いらっしゃいませ! モーム乳ですね!」


 女性からグラスに入れたモーム乳を出されると、瑞希はシャオに手渡し、シャオはごくごくとモーム乳を飲む。


「治まったのじゃ! こやつは本当に万能じゃな!」


 飲み終えたグラスを見ながらシャオは言葉を漏らす。


「オーク肉でも美味くならないんじゃ、この料理は無理じゃねえか? モームの肉じゃ普通は固いしな……」


 横に居た男は自分の世界から戻って来たのか、目の前にいる女性に再び話しかける。

 瑞希は男の顔を見やると、オークを狩った時に居た男だという事に気付いた。


「この間はどうも。相棒の方とは仲直り出来ましたか?」


「ん? おぉ! 兄ちゃん! 奇遇だな!」


 男は嬉しかったのか、バンバンと瑞希の背中を叩く。


「いててて……所でさっきから何を悩んでるんです?」


「それがよぉ! 昔この店に来た時の料理がめちゃくちゃ美味かったんだよ。相棒に散々自慢して、いざこの店に連れて来たんだけどよ……」


「美味しく無かったんですか?」


「その通り! んで、相棒に嘘つき呼ばわりされて大喧嘩しちまってな……」


「あぁ、それで一人で狩りをしてたんですか」


「それもあるけど、オーク肉だったんじゃないかと思って、狩ってこの店で作って貰ったんだけど、やっぱり全然違うんだよな……」


 二人が会話をしていると、泣きそうな女性が会話に入って来た。


「それには事情はあるんですぅ~」


「事情っていうのは?」


「母が亡くなり、この店を譲り受けたのは良いのですが、レシピが見つからなかったんですぅ~……」


「じゃあこの方が食べたのは……」


「母の料理ですぅ……」


「にしても嬢ちゃんもおばちゃんと一緒に店をやってたんだからレシピぐらいわかるだろ?」


「昔から料理は苦手で……そのうち教えて貰えば良いやって思ってたら母が急に倒れてしまって……」


「ならミズキが教えてやれば良いのじゃ」


 瑞希の横に座っていたシャオがいきなり提案をする。


「そんな食べた事もない料理がいきなり再現できるかっ!」


「兄ちゃんにも食べてみて欲しかったぜ! ゴロゴロと塊の肉が入ってるのに、その肉はホロホロと匙を入れるだけで崩れるぐらい柔らかいんだよ!」


「……それって、甘みと……酸味も感じました?」


「おぉ! 確かそんな感じだ! 色は……」


「茶色っぽいんでしょ?」


「おいおい! 何でわかんだよ兄ちゃん!」


 瑞希の想像通りの料理で煮込み料理だと一つしか思いつかなかった。


「お兄さん! 母の料理の作り方を知ってるんですか!?」


「お母さんの料理にはならないけど、多分似た様な料理は作れますよ……ただ、今から作ると夜になりますけど……」


「なら、相棒も連れて来ていいか!? 相棒にも食わせられたら仲直りできると思うんだよ!」


「構いませんよ。多分失敗はしないでしょうし」


「じゃあ頼む! おっと、俺の名前はカイン・ガイアス! 鋼鉄級の冒険者だ!」


 カインはそう言うと、瑞希に手を差し出す。


「ミズキ・キリハラです。銅級の冒険者です」


 瑞希はカインの手を握り、カインはぎゅっと力強く握る。


「私からもお願いします! 母の料理を教えてください!」


 瑞希はひょんな事から料理を作る事になり、シャオはまた美味い物が食べれると微笑みながらその光景を見ているのであった――。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナンではなくチャパティだと思うよ。
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