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瑞希の思惑

 瑞希達は料理を手に持ち、執務室の前に戻ってきた。

 ミミカは緊張の面持ちで扉をノックする。


「私です。御料理をお持ちしました」


「入れ」


 四人はガチャッと音を立てて、執務室に入る。

 そこには先程別れたはずのジーニャとアンナが部屋に居た。

 ミミカは机の前に歩いて行き、バランの前にモーム乳の入ったグラスとサンドイッチの皿、ヨーグルトの器を置いた。


「これがミズキ様の御料理です」


「なんとも奇怪な……美味かろうが、不味かろうが関係ないがな。これはどうやって食べるのだ?」


「パンで挟んださんどいっちはそのまま手に持ち齧り付いてください。こちらの器に入った物はよーぐるとと言って、食後の甘味です」


 バランはふんっと鼻を鳴らすと、野菜サンドを一口齧ると咀嚼をするのだが、ごくりと飲み込むと動きを止めた。


「これは……確かに侍女達が訴えに戻って来ただけはあるな……」


 その言葉にミミカがアンナとジーニャの方に振り向いた。

 二人は得意気な顔をしてミミカにウィンクを返す。

 バランはそのまま手に持った野菜サンドを食べ切り、喉を潤すためにモーム乳に手を伸ばす。


「飲み物は乳か? 何故こんな物を出した?」


「今目の前に出している物は全て共通した食材を使っています」


「あまり私をからかうな。これのどこに乳が使われているのだ?」


「説明は御料理を食べ終わった後に致します。どうぞもう一つの卵さんどもお召し上がりください」


 バランはミミカに促され、卵サンドを口に入れる。


「この味は何だ!? 何故こんな単純な料理が!? 卵を使っているのは分かるのだが……」


 ミミカも含めて女子達はにやにやと笑っている。

 しかし、瑞希だけはやはり曇った表情をしていた。

 そんな瑞希を見たシャオは瑞希の手をぎゅっと握る。


「いかがでしょうか? 宜しければよーぐるともお召し上がりください」


「ぐむ……」


 サンドイッチを食べ終えたバランは、手元に残っているヨーグルトに匙を入れる。

 侍女たちは今朝食べたヨーグルトの味を思い出したのか羨ましそうにバランが口に入れるのを見ていた。

 バランは一口食べると、目を大きく開き慌ててヨーグルトを食べ切った。


「……これはどうやって作ったのだ?」


「それは……「その前に美味かったですか?」」


 瑞希はここまで黙っていたが、ミミカが喋ろうとした時に思わず口を挟んだ。


「どうでしたか? この料理は美味かったでしょうか?」


「残さず食べ切ったのを見て分からんのか?」


「わかりません。私は貴方の事を知りませんし、直接言葉でお聞きしたいんです」


「わざわざ時間を割いて不味い物を食わされたら追い出そうと思っていたのだが……確かにこれはお前らが言う様に美味かった。お前も男にしては中々の料理人なのだろう。それは認めよう」


「そうですか。ですが、その言葉は私にではなくミミカに言ってやって下さい」


「なんだと?」


「私はこの料理の作り方をミミカに教えましたが、直接作った訳ではないんです。美味いという言葉は調理をした人間に言って貰いたいのです」


 バランは驚きの表情をしながらミミカの方を見やる。


「本当にお前が作ったのか?」


「……はい。ミズキ様に御指導頂きながら確かに私が作りました」


「これをミミカがか……だからと言ってこれはお前の料理であろう?」


 その言葉を聞いて瑞希はカッとなり、シャオの手を放しツカツカと机の前まで行き、バランの服の首元を掴む。


「ふざけんなっ!」


「貴様……今何をしてるのかわかっているのか?」


 二人の様子を見たアンナとジーニャが慌てて止めようと動きだそうとしたが、ドマルによって止められる。


「何でミミカがこれを作ったと思ってんだよ! お前に食べて欲しいからだろ!? それを俺の料理だって!? 違うだろ!? 料理は作った人の物だっ! 俺がお前の為に料理なんか作るかっ!」


 バランは黙って言われるがままに瑞希の言葉を聞いている。


「ミミカがお前に魔法を見せたのだって自慢じゃねぇよ! ただお前に褒めて欲しかっただけだろ!? それなのにお前は親代わりのテミルさんと引き離すだけじゃなく、ミミカと食事をする事もないだって? お前はそれでも親かよ!」


「ミズキ様! 落ち着いてくださいっ!」


「世の中には親と食事をしたくても出来ない子供もいるんだぞ!? お前はそれが出来るのに何でしてやらねぇんだよ! ミミカはお前の好物も知らないって言ってたけど、当たり前だ! お前が何を食ってるかもしらねぇんだからなっ!」


「ミズキ様っ!」


 瑞希は肩で息を切らせながら、バランから手を放す。

 その頬には涙が伝っていた。


「親は自分が思ってる以上に子供の気持ちなんかわからねぇんだよ……」


「……そうか。しかし子供もまた親の気持ちをわかってくれないものだ……」


「だったら言葉にしろよ! 片方が死んでからじゃ伝える事もできねぇんだよ!」


 瑞希は流していた涙を袖で拭き、踵を返して部屋を出ようとする。


「……美味かった」


 バランはポツリと呟いた。


「今まで食べたどんな物より美味かったぞミミカ……」


「お父様っ!」


 瑞希はその言葉を聞いて満足したのか、そのままシャオの手を掴みドマルと共に部屋を出る。

 残されたバランがぽつりぽつりと語りだした。


「すまなかった……私はお前を必要以上に避けていたみたいだ……」


「どうして……どうしてなんですか……」


「妻に……アイカにどんどん似て来るお前を見ると、あの時の罪悪感が蘇って来たのだ……ミミカには関係ない事なのだがな……」


「何故言って下さらなかったのですか!?」


「言える訳がないだろう。私の迂闊さでお前から母親を取り上げたのだから……」


「……確かに私はお母さまに産んで頂きましたが……私にとっての母親はテミルです」


「ミミカ……」


「物心がついた時にすぐ側に居てくれたのはテミルです。彼女は私がする事を喜んでくれたり、叱ってくれたり、お父様以上に愛情を頂けました……彼女が居なくなり、お父様にも相手にされなくて……そんな時にテミルの居場所を知ってテミルに会いたくなったのです」


「それは……いや、二度も母親を奪った私には何も言う資格はない……」


「でもお父様とだって話したかった! ちゃんと私がその日にどんな事をしたのか聞いて欲しかった! 怒ってくれたり、笑ってくれたりして欲しかったのっ!」


「……本当にすまなかった……どうやら私は接し方を間違えていたようだ……」


「お父様……」


「彼は……ミズキと言ったか……この立場になって人に叱られたのは初めてだ……」


「ミズキ様は素敵な方です……お父様に言ったのだって……」


「言うな……わかっている。彼の言葉が無ければ私はお前とこれから食事をする事もなかっただろう」


「私と食事をして頂けるんですか?」


「当たり前だ。私はお前の父親なのだからな」


「……厚かましいお願いなのですが、久々のお父様との御食事はミズキ様に作って頂きたいと思います」


「……それとテミルも呼ぼう。彼女にはその資格がある」


「はいっ!」


 ミミカは慌てて瑞希を呼びに行ったが、瑞希達はすでに城を出てしまっていたようだ。

 ミミカはアンナとジーニャにお願いをして、街まで探しに行かせるのであった――。

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