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ミミカの思惑

 ミミカに連れられ、厨房にやって来た瑞希達は、途中ドマルと合流し、竈で卵を茹でていた。

 昼食の時間も過ぎていたので、幸い厨房には人が居なかったのである。


「さて、お父さんに喧嘩を売ってしまった訳だけど、さっさと作らないとね」


「僕が居ない間に何があったんだよ……」


「いや〜? 疑問が有ったから聞いただけだよ。少しムカついてたのもあったけど」


「ミズキ様……生きた心地がしなかったです……」


「魔法嫌いとは聞いてたけど、あそこまで頭ごなしに否定するのを目の前で出されるとな、それに……」


 瑞希は服が引っ張られ、振り返るとシャオがお腹を押さえていた。


「ミズキよ、わし達の昼食も作るのか?」


「城に居られるのもこの料理を食べて貰う迄だから、後で街に食べに行こうか!」


「む〜。今なんか食べたいのじゃ……」


 二人が会話している話を聞いて、ミミカがポロポロと大粒の涙を流し始めた。

 瑞希はミミカに気づき、慌ててハンカチを手渡した。


「ミミカが泣く必要は無いだろ?」


「だってこんな筈じゃ……」


「口を挟んだのは俺が悪いんだし、ミミカが悪い訳じゃない。かと言ってあのまま放っておいてもテミルさんとの約束を守れそうに無かったし、これがベストだよ」


「けど私はもっとミズキ様に料理を習いたかったのです!」


 ミミカはハンカチで顔を隠しながら、本音をぶちまける。

 瑞希はどうしたものかと悩み、ドマルに視線で助けを求めるのだが、ドマルは首を横に振り、横からシャオがミミカに話しかける。


「どちらにせよ、わし等は長居をしとらんかったんじゃろうから、それが早まっただけじゃ。お主が調理するのをいつまでも見てられる訳じゃないしの?」


 シャオはしたり顔をしながら瑞希の心情を吐露する。


「シャオにはやっぱりバレてたか」


 シャオの言葉を聞いたミミカは、涙が止まり、シャオに視線を向けた。


「瑞希が軽食を作るぐらいで人の手を借りる訳ないじゃろ? お主が手を挙げて無くても、難癖を付けてでもお主をここまで連れてくる様に仕向けてたじゃろうな」


「人を詐欺師みたいに言うなよ……けど、その通りだ。ミミカが自薦してくれて助かったよ」


「どうしてですか!? 瑞希様の料理の美味しさを知って貰えればお父様だって……」


「俺はここの料理番になりたい訳じゃ無いし、料理を食べて貰う目的は二つだろ?」


「バター等を父に知って貰うのと……」


「ミミカの料理を食べて貰う事だ」


 ミミカはハッと気付き、瑞希の目を見る。


「魔法嫌いの人に魔法を見せたのは駄目だったけど、料理なら上手く行くかも知れないだろ?」


 瑞希はミミカが父にどうして欲しかったのか分かっていたのだろう。

 瑞希の言葉を聞いて、ミミカが呟く。


「……て貰えますか?」


「きっと上手く行く。今日上手く行かなくても、何回でも作ってみたら良いよ。食事を出来ない人間はいても、しない人間はいないからな!」


「本当に私に作れますか?」


「今日は俺も付いてるし、ミミカなら大丈夫だ!」


 瑞希はニッと笑いながらミミカの言葉を肯定していく。


「いつまでも喋ってないで、早く料理を作るのじゃ!」


「は、はいっ!」


 ミミカは慌てて手を洗い、調理の準備にかかる。

 横では瑞希がパンを切り出した。


「ミミカはまずマヨネーズを作って、それから野菜サンドと、卵サンドを作ろうか」


「はいっ!」


 ボウルに卵と油を入れ、ビーターでよく混ぜ、瑞希がそこに少しずつ酢を混ぜていく。

 ボウルの中は徐々にマヨネーズに近づいて行き、完成した。


「出来ました!」


「上出来だ! 次はキャムを千切って、ポムを薄切りにしよう。俺はモーム乳を温めて、卵を剥いておく」


「はいっ!」


◇◇◇


 楽しい。

 ミズキ様と料理を作るのってすっごく楽しい。

 見慣れた食材が色んな形に変わる。

 想像もしない調理で、信じられない味が出来上がる。

 小さい頃に内緒ねって言われてテミルに初めて見せて貰った魔法。

 あの時も私感動したっけ……。

 やだな……こうやって一緒に料理を作るのがもう出来ないんだ……。


「モーム乳が温まったけど、何をするかは分かるよな?」


「はいっ!」


 私は鍋にシャクルの果汁を入れて混ぜた。

 徐々に分離して来た物を流そうとすると、すでにミズキ様が布を用意してくれてる。

 ここに流せば良いのよね……。


「そこに流したらしっかり包んで、揉む様に洗うんだぞ?」


「こんな感じですよね?」


「そうそう。何回か水を変えて、ギュッと絞ったら、塩を加えて完成だな。良く出来ました」


 えへへ。

 私の気持ちがグッと込み上げてくる。

 次はバターも作らなくちゃ。


「はい、じゃあ元気よくこれを振ろうか!」


 ミズキ様って何で私の考えてる事が分かったのかしら……。

 それなら私の気持ちに気付いてくれたって……。

 もう……もう、もうっ!

 私は鈍感なミズキ様への苛立ちを糧にぶんぶんと瓶を激しく振る。

 私の気持ちが具現化した様に、バシャバシャと音を立てて、瓶の中にバターが現れた。

 

「出来ましたっ!」


「早いな! じゃあ卵は剥いといたから、これを潰してマヨネーズを加えて、胡椒で味付けな?」


「シャオちゃんが作ってた奴ですね!」


 ボウルの中に入ってる茹で卵を木べらで潰そうとするんだけど、ツルツル滑って上手く行かない。

 そうしていると、ミズキ様が笑いながら手を伸ばして卵を手で二つに割ってくれた。

 本当だ。

 卵が転がらなくなって混ぜやすくなった。


「ちきんかつは作らないんですか?」


「今日は今のミミカが作れる物を作ってるからな。この先料理を続けて、料理番の人に教えて貰って、油とか火に慣れて来たら作ってみたら良いさ」


 そんな事は考えたくない。

 今日でお別れなんて思いたくも無い。

 私がまた泣きそうになって来た時、ミズキ様が喋りかけてくる。


「そう言えば、お父さんの好物って何だ? 簡単な物でパンに合うなら今サンドイッチにするけど?」


「父の好物……何なんでしょうね?」


 私がそう言うと、ミズキ様の顔が少し曇った。

 さっきお父様と言い争いをしてた時の顔だ。


「そっか……。ならまずはこのサンドイッチを好物になって貰おうな?」


 そう言うと瑞希様が優しく頭を撫でてくれた。

 私はミズキ様が何故曇った顔をしたのかわからなかったが、急な接触に嬉しさもあったが、何故か涙が溢れて来ていた。


「ぐすっ……ひゃい……」 

 

 変な声が出た。

 ミズキ様と会ってから泣いてばかりだ。

 泣いたり、笑ったり、怒ったり。

 この人と出会ってから数日しか経ってないのに、全部の感情を出した気がする。

 

「じゃあパンは切っておいたから、これに挟んで行こうか。シャオはジャムパンでも食べるか?」


「食べるのじゃ!」


 シャオちゃんが切り分けられたパンを魔法で焼くと、ミズキ様がそこにバターを塗り、コロンジャムを乗せてシャオちゃんに手渡した。

 大きな口を開けて食べているシャオちゃんは口の周りがまた汚れているけど、幸せそうな顔で食べている。


「ミミカも少し食べるか?」


「食べます!」


 パンに付けたコロンジャムとバターは甘いのに、時折塩っぱさを感じる。

 お互いが味の良さを引き出してるみたいだ。

 ドマルさんも美味しそうに食べている。

 サンドイッチも完成したけど、ミズキ様にも食べて貰いたいな。


「あの……父に持って行く前に味見をして貰っても良いですか?」


「もちろん!」


「わしもしたいのじゃ!」


「じゃあミズキ様には野菜を、シャオちゃんには卵をお願いします」


 私は二人にサンドイッチを手渡す。

 二人がパクッと一口食べると、ミズキ様は親指を立てて合図をくれて、シャオちゃんは自分が作ったのと同じぐらい美味しいと言ってくれた。

 そんな中、厨房の扉が音を立てて開いた。


「お嬢様。バラン様が料理はまだかとおっしゃられてるのですが……」


 執事長が厨房に入ってきた。

 ミズキ様が慌てて食べかけのサンドイッチを私に手渡し、樽の中からヨーグルトを器に移して、コロンジャムをかけている。

 私はドキドキしながら食べかけのサンドイッチを口にした。

 味見をして無かったのだから、しょうがない。……うん、しょうがない。


「じゃあサンドイッチを切り分けて、ヨーグルトを添えて完成だ! 持って行こうか!」


「はいっ!」


 私達はお父様が待つ、執務室に料理を持って歩いて行く――。

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