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バランとの出会い

 ドマルが街道沿いにずらりと並ぶ行列に並ぼうとしたのだが、ミミカが脇道にそれる道に誘導し、走っている途中、憲兵らしき人物に馬車を止められる。


「止まれー! こっちの道は関係者以外は通行禁止だ!」


 その声を聞いたミミカは御者台から顔を覗かせた。


「御苦労様。城に戻るので通して頂けますか?」


「お、お嬢様!? かしこまりました!」


 憲兵は慌てて道を開け、馬車は道を進み、都市壁の前で再び止められる。


「御苦労様。今戻りました」


「ミミカ様! どこに行ってらしたのですか!? 乗って行った馬車はどうしたのですか!?」


「少し事情があるの。彼等は客人です。通して頂けますか?」


「はっ!」


 なんなく都市壁を通り、城へと馬車を走らせる。

 壁をくぐると、そこはキーリスの街への入り口とは違い、城内へ直接続く道の様だ。


「さっきの振舞いを見てると、やっとミミカが領主の娘だと実感できたよ」


 瑞希はミミカに笑いながら話しかける。


「もうっ! ちゃんとテオリス家の娘ですよ! どんなイメージだったんですか!?」


「美味しい物好きな、寝癖がすごい娘さんだな!」


「もうっ! ミズキ様!」


 ミミカが頬を膨らませ怒る姿は、先程とは違いまだまだ幼さを残した子供の様だ。

 馬車はしばらく進み、城壁へと到着すると、ミミカの姿を見た兵士が慌てて城門を開く。

 中から執事と思われる老紳士が御辞儀をしながら一行を出迎える。


「ミミカ様。お帰りなさいませ」


「ただいま戻りました。お父様は城にいるかしら?」


「いつもの場所におられるのですが……相当御冠になられております……」


「……そう」


 見た目は凛としているのだが、父に今から怒られるのが怖いのか、カタカタと手が震えている。

 震えている手をジーニャとアンナが片方ずつ握る。


「大丈夫っすよ!」


「怒られる時は一緒です」


「ジーニャ……アンナ……」


「では荷馬車はこちらへどうぞ」


「じゃあ僕はボルボを一旦預けてくるよ」


「俺とシャオはミミカの事情説明に立ち会うか……」


「申し訳ありませんミズキ様……悪い様には致しませんので……」


 瑞希達はドマルと別れ、先に城内へと歩を進める。

 城に入った瑞希は城の大きさに目を眩ませながら歩いていた。


「えっと……城に入る前から薄々感じてたけど……ミミカのお父さんって相当偉い人?」


「そうですね……一応はモノクーン地方を治める領主ですので……」


「そっか……今からでもミミカ様と呼んだ方が良いか?」


 ミズキは領主と言っても街を治めるぐらいの者だと思っており、ミミカ自体も良い所のお嬢さんぐらいにしか思ってなかったのだが、実際に目の前に広がる城や、所々に居る兵士や使用人がこちらを向き御辞儀をする様子を見て気持ちを改めた。


「嫌です! ミズキ様はそのままで構いません!」


 瑞希に対する淡い恋心が、瑞希の言葉を拒否する。

 そう言われても、一般庶民である瑞希は恐れ多いと思っていたのだが、そんな瑞希の手をシャオが握る。


「小娘がどれだけ偉かろうと、ミズキが師匠というのは変わらんのじゃ」


「シャオちゃんの言う通りです!」

 

「わかったよ……ならこれからもよろしく頼むなミミカ」


「はい! ……着きました。ここに父がいるはずです」


 瑞希はゲームに良くある王様が座ってそうな広間に向かって歩いてるのだと思っていたのだが、現実は兵士も立っているのだが、普通の部屋に入る様な扉の前に案内された。

 その扉をミミカがノックする。


「ミミカです。只今戻りました」


「……入れ」


 ミミカが扉を開け、四人が部屋に入る。

 中に入ると、山積みにされた書類に囲まれた屈強そうな男が、椅子に座りながら書類にペンを走らせていた。

 男はミミカの顔をチラリと見ると、ペンを置き、こちらに顔を向ける。


「……どこに行っていた?」


「テミルに……会いに行ってました……」


「あいつの居場所を知ったのか……」


「はい……あの――「アンナ、ジーニャ。何故ミミカを止めなかった?」」


 ミミカの言葉を遮り、男は侍女である二人に問いかけた。


「私は……いえ、私もテミルさんに一目会いたかったからです!」


「うちもっす! テミルさんに会いたかったっす!」


「ちょっと二人共!?」


 ミミカは一人で罪を背負いこもうとしていたのだが、二人の言葉によって止められる。


「ならお前達は一人娘であるミミカを危険に晒す事を秤にかけ、連れ出したのか?」


「違うわお父様! 私が二人にお願いしたの!」


「だがそれを止めるのが使用人である彼女達の仕事だ。馬車を無くした様だが危険が無かったと言えるのか?」


「それは……でも二人は私の願いを聞いてくれただけです!」


「……ミミカ、あいつが昔何をしたのかわかっているのか?」


「テミルは悪くないでしょ!? 魔法が使える事の何が悪いのよ!」


 ミミカは興奮しているのか、口調が徐々に領主の娘から、一人の娘になっていく。


「魔法はお前の母を殺したのだぞ?」


「テミルが悪いんじゃないわ!」


「だが魔法が無ければ死ななかっただろう!」


 男の口調も徐々に荒々しくなっていく。


「でも私達は魔法が無ければ助からなかったわ!」


「どういう事だ? それにそこの子連れの男は何者だ?」


 ようやく男は瑞希に気付いたのか、シャオと共に立つ瑞希に視線を移した。


「ミズキ様は私達を救って頂いた方です!」


「初めまして、ミズキ・キリハラと申します」


「私はバラン・テオリスだ。して、ミミカを助けたというのはどういう事だ?」


 瑞希はミミカ達との出会いを簡単に説明する。


「――まずはミミカを救ってくれた事を感謝する。褒美も出そう。だが今後ミミカと関わる事は許さん」


「ちょっと待って! そんな事勝手に決めないで!」


「――黙れっ!」


 バランは机に勢いよく拳を落とすと、バンっと大きな音を立てた。

 ミミカと侍女達はその音に反応し、体をびくつかせたが、シャオは大きな欠伸をしている。


「侍女の処分は後で言い渡す。各自戻っていろ。ミミカは……「あの、ちょっと良いですか?」」


 瑞希はバランが言葉を言い終わる前に話しかけた。


「貴様……何だ?」


「いや、ちょっと気になったのですが、テミルさんがミミカに魔法を教える事がそんなに悪いのですか?」


「ミミカ……だと? 貴様、誰の名を気安く呼んでいるのかわかっているのか?」


「申し訳ありません。ミミカにこう呼ぶ様に言われておりますので。それより今回の件はミミカがきちんとテミルさんから魔法を教えて貰えていたら……それこそ、テミルさんが侍女を辞めていなければ今回の様な事態にはならなかったはずです」


「……貴様は私が悪いと言いたいのか?」


「そこまで言うつもりはありません。仮定の話ですし……ただ、自衛の手段として魔法ほど心強い物はないと思うのです」


 実際に瑞希がこの世界に来てから魔法に救われた事は数えきれない。


「だが、その魔法のせいで苦しめられている者もいる。ならばそんな危険な物をわざわざミミカが覚える必要はない」


「でも私も含め、先程ミミカが言った様に救われる者もいます。ミミカやテミルさんがそういう人物にならないと思うのですが? 魔法は才能です。子供の才能を伸ばそうとするのが悪い事だと私には思えないのです」


「では魔法が使えない者はどうする?」


「魔法だけが全てではないでしょう? バラン様は兵士から今の地位に成ったと聞いております。それも一種の目に見えない才能でしょう? 魔法はただ目に見えているというだけで畏怖するのはおかしいのではないでしょうか?」


「一理ある話だ。だが魔法を使えなくても困ることはないだろう? 殆どの人間は魔法を使えないのだ。それにかつて魔族と呼ばれた時代があった事は知っているな? そんな時代が今後も来ないと貴様は言えるのか?」


 瑞希はドマルと初めて会った時に聞いた話を思い出す。


「……私はどんな才能であれ、人のために使えば良いと思ってます。しかし、バラン様の様に魔法を悪と決め込み、教え込まれた人間は果たして人のために使う事が出来るのでしょうか? そういう思想が魔法使いを魔族と呼び、侮蔑したのではないですか?」


「それは私の教育が間違えていると聞こえるのだが?」


 バランがそう告げると、重苦しい雰囲気が生まれる。

 ミミカ達三人娘はハラハラしながら瑞希とバランの顔を見比べている。


「……ミミカが何で貴方に魔法を使える事を伝えたかわかっているんですか?」


「自慢しに来たのだろう?」


「そうですか……ところで私はテミルさんから冒険者ではなく料理人として会って欲しいと言われました。褒美の代わりに一度軽食を作らせて頂けませんか? もちろん毒などを入れるつもりはありませんが、心配でしたら監視を付けて頂いても構いません」


「なぜ私が訳の分からない料理を食べねばならんのだ?」


「お父様! ミズキ様の料理はこの地方の歴史を変える物よ! 少なくともミズキ様の料理を食べた私達はそう信じているわ!」


 ミミカはバランに詰め寄り、机越しに前のめりにバランと視線を合わせる。


「バラン様! 御言葉ですが、私はあれ程美味しい物を食べた事はありません!」


「うちもっす! 正直城で頂けるどの料理よりも美味いっす!」


 侍女達もミミカの援護に回る。


「それで貴様がさっさと出ていくのであれば食ってやろう」


「では、食材は馬車にありますのでそれを使わせて頂きます。できれば城内の方に手伝って頂けると助かるのですが」


「ミズキ様! 当然私がやります!」


「ならん。お前は部屋に戻っていろ!」


「命の恩人であるこの方との別れがこれだなんてあんまりだわ! それに私がお父様に毒を盛るなんてありえないでしょ!?」


 バランは目を瞑り大きくため息をつくと、ミミカの気持ちを汲み取ったのか、再び視線をミミカに戻す。


「よかろう。軽食というからにはすぐに出来るのだろうな?」


「ミミカに手伝って貰えるのならば……すぐに出来ますよ」


「私は忙しい。さっさと作って、さっさと出ていけ」


「わかりました。では厨房をお借り致します」


「ミズキ様案内致します!」


 瑞希達は部屋を後にし、アンナとジーニャに別れを告げ厨房へ向かうのであった―― 

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