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スープ餃子と焼き餃子

 夕暮れが過ぎる頃には、休憩所の様な広場に到着し、頑張って走ってくれたボルボに水を出して飲ませていた。


「下手な運転に付き合わせてごめんな。おかげで慣れて来たよ」


「キュイ!」

 

 ボルボは水を飲み終わると、スリスリと瑞希に鼻をこすりつけて来た。

 瑞希は首元をゆっくりと撫でると、ボルボは気持ちいいのか目をうっとりとさせている。


「お主のそれは最早一種の能力じゃな……」


 シャオが呆れながらその光景を見ている中、ドマルが瑞希に声をかけた。


「ミズキ! テントの設置と簡易竃の用意が出来たから、僕がボルボに御飯をあげておくよ!」


「了解! じゃあ俺は皆の御飯を作るかな」


「今日はどんな料理を作るんじゃ!?」

 

 二人が竃の方に歩いて行くと、ドマルはボルボに御飯をあげながら労いの言葉をかける。

 するとドマルにもまた目を細めながら頭をこすりつけるのであった。

 瑞希は竃の前にまな板等の調理器具を出し、手始めにカパ粉(小麦粉)を取り出すと、ミミカ達も興味津々に瑞希の料理を覗き込んで来る。


「今夜も冷えるし、スープ物にしようかと思ってたんだけど、どうせなら主食も一緒に取れるスープにしようか」


「オークの肉は使わんのじゃ?」


「ちゃんと使うよ……料理の前にオークの肉がどんなものか味見をしてみるか。シャオ、火球出してくれ」


 瑞希はオーク肉を薄く切ると、火球で焼いて食べてみた。


「確かに脂が乗って美味いけど、想像通り豚肉だな」


「ミズキばっかりずるいのじゃ!」


 瑞希はもう一枚肉を焼き、あ~んと大きく開いたシャオの口に入れてやる。


「美味いには美味いが……肉じゃな」


「そりゃそうだろ。でもまぁ使い慣れた肉に似てて良かったよ……ミミカも食べたいのか?」


 ミミカもシャオの横であ~んをして貰いたいのか、口を開けて待っていた。


「……はっ!? 何でもありません!」


 恥ずかしそうに後ずさろうとするが、瑞希は菜箸で焼いた肉を摘まみ、ミミカの口に入れてやった。


「美味しい……です……」


 ジーニャはアンナに肘で横腹をつつき、小声で話す。


「(にししっ! アンナも行かなくて良いんすか?)」


「(う、うるさいっ!)」


 二人がじゃれ合っている横では、ミミカが顔を俯かせているという変な状況の中、その様子を見てもいない瑞希はミミカに質問を問いかける。


「ミミカの城ではオーク肉をどうやって食べてたんだ?」


「基本的には焼いた状態で出て来ましたね。味付けは香草の香りがついてました」


「香草焼きか~。それも美味いだろうな!」


「ミズキもそうするのじゃ?」


「石窯があったらそれでも良いけど、今日はスープって決めてたから餃子にしようと思ってる」


 そう言うと瑞希は、用意していたカパ粉をボウルに入れる。


「ここに塩を混ぜて……シャオ、前みたいに火と水を組み合わせて熱湯を作って、ここにちょっとずつ入れてくれ」


 カパ粉に熱湯が注がれ、菜箸でそれを混ぜると徐々に生地がまとまって来る。

 瑞希はまな板に打ち粉をすると生地をまな板に移し、こね始めた。


「ミズキ殿はパンでも作っているのか?」


「いや、これは餃子って料理の生地になるんだよ」


「何でわざわざ熱湯を混ぜたのじゃ? 水でもよかろう?」


「熱湯で混ぜると糊化って言って、もちもちとした食感になるんだよ……よし! こんなもんか!」


 瑞希はもう一度打ち粉をすると、ころころと転がすようにして棒状に伸ばし、一口大に生地を切ってしまう。


「せっかくの生地を切ってしまうんですか?」


「そうなんだ。そして、さらにこれを丸い木の棒で伸ばすと……こうなるんだ!」


 瑞希は円形の薄い皮をぴらぴらと皆に見せてみた。


「なんか……主食って感じじゃなくなったっすね?」


「これはまだ完成じゃないんだよ」


 瑞希は次々と皮を作ると、あっという間に全ての皮を作り終えた。


「じゃあ次はスープの用意だな。今朝の鶏ガラスープを入れて、そこにパルマン(玉ねぎ)グムグム(ジャガイモ)を切って入れよう」


 鍋にスープを入れ、切った食材をぽちゃぽちゃと入れて行き、シャオに頼んで火にかけてもらう。


「私達が手伝えることはありませんか?」


「もうちょっとしたら皆に手伝って貰うよ! 次は餃子のタネを作る!」


 瑞希はオーク肉を取り出し、ハンバーグの時の様に素早くミンチにしてしまう。


「はんばーぐなのじゃ!」


「それが違うんだな~。後は、キャベツの様なレタスの様なキャムを微塵切りにして……」


 キャムは内側に行くほど葉がしっかりとしている性質の様で、外側はレタスの様なのに対し、内側はキャベツの様にしっかりとしていた。


「微塵切りのキャムに塩をして混ぜてから絞ると……っ!」


 瑞希の手からぼたぼたと水が出て来た。


「ミズキ殿の魔法か?」


「野菜の水分が塩に反応して出てくるんだよ。これをしないと水っぽくなって餃子が不味くなるんだ。後はオオグの実(ニンニク)も微塵切りにして……」


「えっ!? オオグの実って食べられるんすか!?」


「あれ? 言って無かったか? 今日食べたオムレツのポムソースにもたっぷり入ってたぞ?」


 聞いていなかったアンナとジーニャは驚いたが、決して不味いという感想は出てこなかったのだ。


「これは生のままだときついけど、火を通すと香りが一気に変わる食材なんだ。まぁ、火を通しても食べ方とか、量とかを間違えたら臭いのは変わらないけどな」


 瑞希は笑いながら調理を進める。


「ミンチにしたオーク肉に塩して、粘り気が出るまでこねる! そこにキャムとオオグを加えて、ここに酒と胡椒を入れて混ぜると完成だ」


「やっぱりはんばーぐに似ておるのじゃ!」


「現状は似てるけど、肉も違うし、他の具材も違うんだよ。ここから皆に手伝って欲しいから、まずは手を洗ってくれ」


 シャオが水球を出すと、四人とも手を突っ込み洗う。


「魔法で手を洗ったとか言ったらバラン様が怒りそうっすね」


「でもやっぱり便利よね!」


 確かに瑞希も好き勝手にシャオの魔法を使っているので感覚が麻痺しているが、実際にこの料理を魔法無しでこの場で作れと言われたらまず作らないだろう。


「よし、じゃあこの深めの皿に水を張ったら、皮を手に持って、タネを真ん中に乗せて、指に水を付けたら皮の外周を濡らして、こんな感じで包む」


 瑞希は皮を半分に折り、ひだを付けると、手のひらに乗せて皆に見せる。


「何すかそれ! 何で張り付いてんすか!?」


「こんな料理もあるんですね!」


「はんばーぐじゃなかったのじゃ……」


「だからハンバーグじゃないって言ったろ? でもこれも美味いから安心しろ」


 四人は教わった通りに黙々と餃子を包んで行くのだが、アンナだけは悪戦苦闘していた。


「むっ……! くっ……! この!」


「相変わらずアンナは不器用っすね」


「難しかったか? ならこういう形もあるぞ?」


 瑞希はアンナの手の上に皮を乗せ、水を塗ると、ふわっと包む様にして、アンナの手を取り外周の皮の部分をぎゅっと握ると、少し形の違う餃子が出来上がった。


「これなら簡単だろ? 多少見た目が変わっても味は変わらないから、アンナはそうやって包んでくれたら良いよ」


「ま、任されたのだっ!」


「ぶふっ! のだって何すか!」


 瑞希は、二人は仲が良いのだろうと思いながらも、黙々と作業を続けるシャオとミミカを見た。

 シャオは小さな手だが器用に餃子を包み、ミミカも若干形が歪ながらも、餃子の形を作れている。

 そうこうしている内に餃子の皮が無くなると、タネが少し余ってしまった。


「ありゃ、タネが多すぎたか」


「残ったのはどうするんですか?」


「ん~……あ! モロンがあったからそれに詰めるか!」


 瑞希はピーマンより少し小さく赤色をしたモロンを取り出すと、中のタネを取り出し、そこに余ったタネを詰め込んで行った。


「モロン……」


「アンナは苦手なのか?」


「いえ、その……苦みが……」


「にししっ! アンナはおこちゃまっすね!」


「誰にでも苦手な食材ぐらいあるだろ!? そういうジーニャだってカマチが苦手なくせに!」


「そ、それは! ……でもミズキさんのくりーむしちゅーのはちゃんと食べれたっすよ!」


「じゃあアンナが食べれる様にしてみるか」


「そんな事が可能なのですか?」


「今朝の食事みたいに色んな味を組み合わせたら食べられるかも知れないだろ? とりあえずは今できた餃子の半分をスープの中に入れてくれ。もう半分は鉄鍋で肉詰めと一緒に焼くから」


 アンナは餃子を沸騰しているスープの中に入れると、瑞希は鉄鍋を取り出し油をひいてから餃子とモロンの肉詰めを並べ始めた。


「簡易竃が二つあって良かった。シャオこっちにも火を頼む!」


 ぱちぱちと皮の焼け始めた音がし始めた時に水を入れて蓋をする。


「何で水を入れたのじゃ?」


「熱い鉄鍋に水を入れると蒸発するだろ? それを蓋することによって中の温度を一気に上げるんだよ。鉄鍋に触れてる面は焼けて、触れてない面は蒸気にさらされて蒸されるから蒸し焼きっていうんだよ」


「焼くのにも色々あるんじゃな」


「色々ありすぎて困るけど、料理を続けてれば自然と違いが分かって来るんだよ」


 じゅわじゅわと音がしていた鉄鍋が再びぱちぱちと水分の無くなって来た音に変わって来たので、瑞希は蓋を開け、フライ返しの様な薄い鉄で出来た器具で餃子を皿に移し、モロンの肉詰めは別の皿に移す。


「モロンの肉詰めは何で別の皿に乗せたのじゃ?」


「こっちはチーズをかけるんだよ。今手元にはカッテージチーズしかないんだけど、これは脂肪分が入ってないから熱しても溶けないんだ。だから生クリームを加えて……」


 瑞希は小さな器にチーズと生クリームを少し加え、シャオの手を握りハンドブレンダーの様な風魔法で二つの食材を混ぜてしまった。


「こうやって無理やりトロトロにして少し温めてから肉詰めにかけてやる。そしてその上から持ってきてたポムソースをかけたら完成だ!」


「赤色と白色が合わさって綺麗なのじゃ!」


「焼き餃子は酢醤油で食べたいとこだけど、醤油に似た調味料は見つかってないから、酢と塩と多めの胡椒で食べるか!」


「ミズキ殿! スープはもう器に入れて良いか?」 


「おう! もう盛り付けてくれ! 俺はドマルを呼んで来る! シャオはつまみ食いするなよ?」


「し、しないのじゃ!」


 焼き餃子に手を伸ばそうとしていたシャオは素早く手を引っ込めるのであった――。

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