異世界に到着
ぷにぷに……ぺしぺし……ぐりぐり……。
――ざしゅっ。
「いってぇ!」
瑞希は慌てて起き上がり、辺りを見回した。
そこには爪を出した白い猫がこちらを見ていた。
「シャオ~……もう少し優しく起こしてくれても良いだろ~?」
瑞希は引っかかれたであろう頬っぺたをさすりながら、シャオに語りかけた。
ぼふんっ。
「優しく起こしたのじゃ。お主が何をしても起きなかったのが悪いのじゃっ!」
シャオは不満そうな顔で瑞希への文句を言い返した。
「ハクション! 少し肌寒いな。それでここはどこなんだ?」
瑞希は落ち着いて再度辺りを見回したが、一面に生えているのは草、草、草。
地平線さえ見えてしまうような草原だった。
「ここはカルアリア大陸のようじゃな。寒さから考えると北のあたりじゃな」
「ほうほう。で、この近くの街はどっちの方角に行けばあるんだ?」
「しらんのじゃ」
「なんて?」
「だからしらんのじゃ。街に興味はなかったしの。大陸などはわかるが細かい街の場所等覚えとらんよ」
(おぉう……。初っ端からハードモードなスタートを切らせやがる)
「まぁいいや。わからんならわからんで。のんびり歩きながらこの世界の説明でもしてくれよ?」
瑞希はそう言うとシャオの頭をぐりぐりと撫でた。
シャオは嬉しそうに胸を張ってこう答えた。
「大船に乗ったつもりで任せるのじゃっ!」
瑞希とシャオはてくてくと歩きながら現状の確認をしていた。
「通勤をする時に家を出たまんまの恰好だな。そういやこの世界って何て言う名前なんだ? 地球じゃないよな?」
「違うのじゃ。この世界はトーラスという名前なのじゃ」
「トーラスね。ところであの時のおっとりとしたお姉さんはやっぱり神様か?」
「そうなのじゃ。この世界の神様と言うておったのじゃ」
「じゃあシャオは神の使いか何かか? 良いのか? 俺に付いてきてくれて?」
「使いって訳でもないのじゃ。昔あの人に拾われての……。それにお主を初めて見かけた時に……」
シャオは恥ずかしそうに理由を説明しようと思ったが、瑞希は自分の手に止まった小鳥と戯れていた。
「おお! 見ろシャオ! 異世界にきて初めて出会った生物だ! やっぱ見たことのない鳥だな!」
シャオはぷるぷると震えながら、シャーと勢い良く威嚇をして、鳥を追っ払ってしまった。
「なにを怒ってんだよ? せっかく手に止まってくれたのに」
「お主が人の話を聞いてないからじゃっ!」
ぷんすかと怒りながらシャオは地団駄を踏んでいた。
「悪かったよ。で、なんで俺についてきてくれたんだよ?」
「教えてやらんのじゃ! お主はそこらへんの鳥と遊んでれば良いのじゃっ!」
シャオはぼふんと音を立てると猫の姿に戻り、つかつかと歩いて行ってしまった。
「おぉ~い! シャオ~! 悪かったってば~!」
瑞希は離れて行ったシャオを慌てて追いかけて行くのであった。