表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
395/412

公演 三日目 屋台街

 ――バージ達と合流した瑞希達は、ララスとティーネの正気を取り戻すために、気付け薬にもなる食材、テン(わさび)を目指し屋台街へと走っていた。


「――バージ達はダグート家が怪しいって事を知ってたのか?」


「知ってたというより偶々だな。ララスの王位継承前に魔法至上主義者の貴族達と一度話をしたかったんだ。俺もララスも魔法至上主義者だからって差別する訳じゃないからな」


「そうは言っても、この街の変な噂は私の情報網で知ってたんだけどね」


 そう言ってフィロが補足する。

 バージにおぶられるララスは先程まで喚いていたが、トットが陥った様にぶつぶつと戯言を繰り返していた。


「ララス? 大丈夫か?」


「――違う……違う……」


 バージの首にかけられるララスの腕に少し力が込められる。

 

「ララスさんの幻惑が中々解けないな」


 軽く顔を歪めるバージを見た瑞希が呟く。


「ララちゃんってば歌姫の公演を凄く楽しみにしてたのよ。ほら、ララちゃんってお話が好きでしょ? 昔から登場人物の気持ちになって何度も読み返してたって言ってたわ。だからこの子の歌声が届きすぎちゃったのかも……」


 フィロの言葉に瑞希が返答する。


「なら、早くティーネさんにも正気に戻ってもらってちゃんとした歌を聴いて貰わないとな。トット、ティーネさんの様子はどうだ?」


「ど、どうもこうも、歌姫に触れてる俺っちの方がどうにかなっちまうぜ」


 しどろもどろな様子のトットは、ティーネを背負いながらも極力揺れない様に走っている。


「……なんでティーネまで連れてきたん?」


「そうなんな。会場の暴れてた人達は皆シャオが眠らせたんな」


 二人の少女は首を傾げながら疑問を問いかける。


「こやつが起きてまた歌いだしたら事じゃからな。それに歌に介してセイレーンの魔力を反響させるのならば、こやつを正気に戻して歌わせる方が手っ取り早いのじゃ」


「しゃがめドマルっ!」


「えっ――」


 道案内をするため、先頭を走っていたドマルに対し、瑞希が静止を呼びかける。

 道の交差点から転がり現れたのは夢見の鉱山で現れたアルマジロの様なアリゲーター達だ。


 アリゲーター達にしゃがみ込むドマルが飲み込まれる瞬間、ドマルを飛び越す様にアリゲーター達が浮き上がる。


「……にへへ。止めるよりこっちのが早い」


「くふふふ。生意気なのじゃ」


「あ、ありがと……」


「……あ、でも急やったからもう崩れる」


 ドマル頭上に現れてた氷の道は、パキパキと音を立てて崩れ去り、ドマル自身を氷まみれにしてしまう。

 ドマルに傷はない様だが、氷の礫にさらされたドマルは立ち上がりながら寒そうにくしゃみをした。

 ドマルを仕留められなかった事に苛立ったのか、アリゲーター達が再び転がり迫る。


「何で街中に鉱山の魔物がいやがんだよ!?」


「大方ダグート家に雇われたキウリィって奴の仕業だろ!」


 トットとバージが悪態をつく中、瑞希は冷静に声を出した。


「チサ、やれるか?」


「……にへへ。任せて! 魚さん!」


 瑞希の少ない言葉でも、信頼して任された事が分かったチサは、瑞希達に迫るアリゲーターを誘導する様に湾曲した氷壁を生み出す。


「凄いんな! 魔物が一カ所に集まっていくんな!」


「……魚さん! 重く硬い氷をっ!」


 チサのショウレイがくるり、くるりと回転しながら宙を舞う。

 一カ所に集められたアリゲーター達の頭上から、チサが生み出した大きな氷塊を勢いを増しながら落ちていく。


「あふっ!」


 圧し潰されるアリゲーターの中から氷塊を避けた一匹にイナホが吠えるが、シャオが弟子の成長に嬉しそうに微笑むと、アリゲーターは真っ二つに裂けた。


「くふふふ。中々良い判断じゃったのじゃ」 


「……むぅ。取り逃してた」


 悔しそうにするチサを、キアラが褒めまくる。


「充分凄いんな!」


「そうそう。鉱山の時とは違って人と建物も考えて魔法を使えたな」


 キアラがチサに抱き着き、瑞希がチサの頭を撫でると、チサの顔は破顔する。


「……にへへへ!」


「っと、悠長にしてる場合じゃなかった……ドマル?」


 十字路の中心に居たドマルは、慌てた様子で走り出した。


「ドマル! 待てって!」


 瑞希達もドマルが走っていった方向に十字路を曲がると、視線の先には崩れた屋台と立ち昇る煙が視界に入る。

 屋台街の端に位置するこの場所の先には、自分達の屋台がある。

 その事を理解した瑞希達はドマルを追いかけ、追いついた先にはドマルが呆然と立ち尽くしていた。


「――何を、何をしてるんだよ君はっ!」


 ドマルの視線の先にはぐったりとしたテスラを抱えたルイスの姿があった。


「アハハハ! これはこれはドマルくぅんじゃないかぁ! 僕達を祝福しに駆けつけてくれたのかぁい?」


 ドマルが来た事を心底嬉しそうに話すルイスの姿に、ドマルは困惑しながらも返答する。


「そんな事を言ってる場合じゃないだろ!? それよりテスをどうするつもりなんだよ!?」


「テス……テスねぇ。人の恋人を気安く呼び捨てるなんて、本当に失礼な奴なんだねぇ君は、二度と気安く呼ばないでくれるかぁい?」


 呆れた様子のルイスの姿に、ドマルはますます困惑する。


「ほぉら、こんなにも皆が祝福してくれてるんだよぉ? 君もそのつもりでこの会場に来てくれたんだろぅ?」


 ルイスが周りを見る様に大袈裟に空いた手を広げるが、周りにはルイスの取り巻きの者達と、呻き声を上げる人々しか居ない。


「だから何を言ってるんだよ!? テス! 起きてっ! テスラっ!」


 ルイスの言葉を無視するドマルの声に、ルイスはテスラを手放し両手で頭を押さえながらぶつぶつと呟く。


「テスっ!」


 どさりと崩れ落ちるテスラに向け、ドマルがテスラに向け走り出した。

 だがそれを阻止したのはルイスの拳だ。

 殴られた衝撃でドマルが倒れ込み、ドマルを見下ろしながらルイスが呟く。


「……四回だ。四回も君は人の恋人を呼び捨てにしたねぇ。君のせいでテスラさんがこんなにも怯えてるじゃぁないか?」


「馬鹿か君はっ! テスはそこに倒れてるだろっ! どうでもいいからそこをどけよっ!」


 口元から流れる血を乱暴に拭ったドマルがそう言いながら立ち上がり、ルイスに掴みかかる。


「おやおやおやぁ? 僕に逆らっていいのかぁい? 優秀な僕には優秀な部下がいぃっぱいいるんだけどねぇ? お前達! 僕からこいつを引き剝がせっ!」


 しかし、ルイスの命令に誰も反応しない。

 ルイスはドマルの手を振り解き、取り巻きの人間達に再度命令を下そうとするが、その前に二人の少女が声を出した。


「……優秀なん?」


「ふん。有象無象がどれだけいようが雑魚には変わりないのじゃ」


「どういう事だっ!?」


 取り巻き達が水球を取ろうともがき暴れるが、シャオとチサが魔法を解く事はない。

 中には自身の置かれた状況を理解した冒険者くずれが、シャオとチサに対しナイフを投げるが、同時にリルドもナイフを投げて撃ち落とす。


「うちの妹達にあぶねぇ物投げてんじゃねぇよっ!」


 瑞希がナイフを投げた者に素早く近付き、鳩尾に前蹴りを入れた所で、体内の空気を吐き出した冒険者くずれはそのまま気を失う事となった。


「ルイス、こんな事をしてまで勝負に勝ちたかったの?」


「勝負……? 勝負は僕の勝ちさ。ドマル君がどう言おうと僕の勝ちなんだ……」


 そう問いかけるドマルの言葉に耳を貸すつもりがないのか、ルイスはぶつぶつと呟き始めた。


「そうさ……、僕の商売は上手く行ったのさ……、テスラさんだってそんな僕の事が……」


「ルイスっ!」


 ドマルがルイスの両肩を掴み何度も揺するが、呟くルイスの瞳が徐々に定まらなくなっていく。

 するとどこからか辺り周辺には甲高い音が鳴り響き、それと同調する様に、ティーネが目を覚まし声を上げると、ララスは雄叫びにも似た悲鳴を上げるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

本当に作者が更新する励みになっています。


宜しければ感想、レビューもお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ