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オークの襲撃

 ――馬車はガタガタと揺れながら街道を走る。

 ココナ村と別れを告げ、ボルボが走らせる馬車の中でシャオは大きく口を開け、瑞希の作ったチキンカツサンドに齧り付く。


「むふー! 揚げたてとは違ってしっとりとしていてもパンと一緒に食べるとまた美味いのじゃ!」


 各々サンドイッチを取り出し食べているのだが、ジーニャがアンナの箱にそっと手を伸ばす。


「この野菜の奴、食べないなら貰うっすよ?」


 すんでの所でアンナが気付き、ジーニャから箱を遠ざける。


「何をする!? 私は好きな物は最後まで取っておくんだ!」


 アンナの言葉にミミカが反応する。


「ホントっ!? それは私が作った奴なのよ!?」


「このちーずと野菜の組み合わせがたまらなく美味しいです」


「ミズキ様に言われた通りに作ったんだけどね! そっか~。私でも本当に美味しいのが作れるのか~えへへ」


 ミミカが照れ臭そうに喜び、ジーニャにも聞いてみた。


「ジーニャはどれが一番好きだった?」


「うちはこの卵のっす! 濃厚なソースに卵の味が加わるとパンにめっちゃ合って美味いんすよ!」


「それはわしが作ったやつじゃな! でもわしはミズキが作った、このちきんかつのが一番好きじゃ!」


「ならシャオちゃん、うちのちきんかつのと卵のを交換しないっすか!?」


「良いのじゃ!?」


「良いっすよ! うちも卵のがもっと食べたかったんすよ!」


 意外にもシャオは素直にジーニャとサンドイッチを交換し、嬉しそうにチキンカツサンドを両手に持ち食べている。

 そんな中、瑞希は御者をしているドマルの横に居た。


「う~……僕も早く食べてみたい!」


「代わってやりたいのは山々なんだけど、ウェリーを扱った事ないしな……ジーニャかアンナが食べ終わるまで我慢してくれ」


 瑞希が二人の事を馴れ馴れしく呼び捨てにしているのは、馬車の中で瑞希の方が年上だった事がわかったのと、二人から敬語はいらないと言われたからである。


「試しにミズキがやってみる? ボルボなら大丈夫だと思うよ?」


「良いのか? 一応覚えておきたいからやってみたい!」


「じゃあこの手綱を握って……」


 瑞希はドマルに操り方を簡単に習うと、たどたどしく手綱を握り直した。


「じゃあボルボ宜しく頼む!」


「キュイィ」


 変わった鳴き声を返したボルボは瑞希と近くに居れて嬉しいのか、徐々に歩調が速くなる。


「ボルボ! 早い早い! もう少しゆっくり歩こう!」


 瑞希は軽く手綱を引っ張り、ボルボの歩調を緩める。


「そうそう! えらいなボルボは!」


「ミズキの場合手綱が無くても走れそうな気がするんだけど……」


 ドマルはサンドイッチを頬張りながら、意思疎通をしているかの様なミズキの走らせ方に少し落ち込んでいた。


「さんどいっちを食べ終わったのじゃ!」


 馬車の中でサンドイッチを食べていたシャオが御者をしている瑞希を見かけて近寄ってきた。


「おう! 美味かっただろ?」


「美味かったのじゃ! わしもそっちに座るのじゃ」


 シャオはよじよじと瑞希の膝元に座ると、何が嬉しいのかゆらゆらと揺れている。


「やけに楽しそうだな?」


「街中よりも外にいる方が気分が良いのじゃよ。元の姿に戻った方が伸び伸び出来るんじゃがな~」


「ん~……」


 チラリと後ろを見てみると、ドマルを除いて食べ終わった三人はうつらうつらと眠りに誘われている。


「膝に座ってて後ろからじゃ見えないから大丈夫じゃない? 起きそうだったら僕が合図を送るよ」


「助かる。じゃあシャオ……」


 シャオはぼふんと猫の姿になると、瑞希の膝の上で丸くなる。

 心なしかリラックスをしている様だ。


「シャオちゃんは本当にミズキが好きなんだね」


「何でこんなに懐かれてるのかわからんけど、悪い気はしないな」


 シャオは瑞希の膝の上で寝ているのか、お腹が規則正しく動いている――。



 しばらく馬車を走らせていると、遠くの草原に豚の様な生き物が見えた。

 ただ、見覚えのある豚よりは一回り程大きく、何かから逃げているのか、こちらに向かって逃げる様に走って来ている。


「ドマル! あれは何かわかるか?」


 豚の様な生き物を指差す瑞希に、馬車から外を覗き込んだドマルが焦りながら答えた。


「オークだよ! 群れじゃなくはぐれみたいだけど、何でこんな所にいるんだよ!」


「あれがオークか! まんま豚みたいだけど二足歩行じゃないんだな?」


「必死に走る時は四足歩行の方が早いみたいだね。この辺じゃゴブリンぐらいしか見かけないのに、どうしてオークがこんな所を……ていうかこっちに来てるよ!」


 二人の会話に目を覚ましたシャオがぼふんと人の姿になると、大きく欠伸をしながらオークの位置を確認する。


「騒がしいのう。オーク如きに慌てる必要もないじゃろ? 今夜の食材にしてくれるのじゃ!」


 シャオはそう言うと手から氷柱を出し、オークの頭を打ちぬいた。


「シャオ……良くやった!」


 瑞希はシャオにグッと親指を突き出し、シャオは瑞希が素直に喜んだのが嬉しかったのか瑞希と同じようなポーズを返す。


「ミズキ達といると魔物の脅威が嘘みたいに思えてくるよ……」


「いや~俺もシャオもオークの肉は美味いって聞いてたからな! 今回はこっちに来てたから不可抗力だと思うけど、もし他の冒険者が狩ってる途中だったら横取りした事になるだろうから、次やる時はしっかり確認してからな?」


 ミズキは辺りを確認すると、オークが走っていた方向の後方からごつい男が大きな剣を持って走って来ていた。

 その男は倒れているオークを確認すると、こちらの馬車を確認してから、大きく手招きをした。


「ほら……こういう事になるんだよ」


「どどどどうしよう!?」


「やったのはシャオだからドマルは大丈夫だって。ちょっと行って話を聞いて来る」


 瑞希はそう言うとボルボを止め、スタスタと歩いて行く。

 もちろんシャオは瑞希の後ろをついて行った。

 大柄の男の前には頭を打ちぬかれたオークが横たわっており、男は息を切らしている。


「はぁ、はぁ……に、兄ちゃんが仕留めてくれたのか?」


「大丈夫ですか?」


「ふぅ……もう大丈夫だ。キーリスの街のギルドではぐれのオークがいるから討伐して来いって依頼が出てたから受けたんだが、逃げられちまってな!」


 男は大声で笑いながら頭を掻いている。


「横取りしたみたいですみません」


「いや、逃がしちまった俺が悪いんだ! 兄ちゃん達の馬車に向かって走ってたし仕方ねえさ、にしても魔法使いか?」


 男はオークの頭に刺さっている氷柱を見てそう判断したようだ。

 男は瑞希が魔法使いと思っている様なので、瑞希は訂正する事なく話を続けた。


「えぇ俺も冒険者でして、まだ駆け出しですけどね」


「そうかそうか兄ちゃんも魔法使いか! しかし、駆け出しにしちゃすげぇな!」


「俺も?」


 男が何気なく口にした言葉に瑞希は口を挟んだ。


「いや~俺は相棒と組んで冒険者をやってるんだけど、そいつも魔法使いなんだよ! まぁ怒らせちまって昨日から一人で依頼をこなしてたんだけどな! ……って、こなせてねぇか!」


 男は再び大笑いすると自分に突っ込んだ。


「なるほど……ところでその剣ならオークぐらい瞬殺できそうなのに、何かあったんですか?」


「それがよ~、こいつを見かけたのはもっと西の方なんだよ。ほら、腹の所に傷があるだろ? 最初に出会った時に避けられちまって、反撃を食らうと思って身構えたら何でか逃げ出したんだよ」


「珍しいんですか?」


「そういや兄ちゃんは駆け出しって言ったか? オークは結構好戦的でな、普通は襲って来るんだよ。なのにこいつはやり合いもせず逃げ出した。おかげで結構走らされたぜ」


 シャオは二人の話がつまらないのか、瑞希の服を引っ張る。


「そろそろオークの肉を回収して戻るのじゃ」


「これは元々この人の獲物だったんだから、俺達は貰えないぞ?」


「なんでじゃ! オークの料理が食べたいのじゃ!」


 瑞希が喚きたてるシャオをなだめていると、男から声がかかる。


「仕留めたのはお前等だから文句も言わねえが、出来れば譲ってくれると助かる!」


 男は両手を合わせて瑞希に頭を下げる。


「元々横取りするつもりは無いですよ! それにこんなでかさの獲物を貰っても馬車に積めませんし」


「なら、食べる分の肉だけ持って行ってくれ! 俺は依頼達成が出来たらそれで良いから! 嬢ちゃんもそれなら良いだろ?」


「わしは今夜食べられるなら何でも良いのじゃ!」


「じゃあ一部の肉だけ貰えますか?」


「おうよ!」


 男はオークから背中の肉を切り取ると、瑞希に手渡した。


「これぐらいで足りるか?」


「充分です! 残りはどうやって持って帰るんですか?」


「すぐに追いつくと思って、走って来たんだが、最初に見かけた所にウェリーを止めてるから、そこまでは担いでいくさ!」


 男はそう言うと、オークを持ち上げると肩に担いだ。


「良くそんな大きさのを持てますね!」


「俺は力しか取り柄がねぇからな! 面倒かけたな! おかげで助かったぜ! じゃあな!」


 男は急いでいるのか、颯爽と歩いて行ってしまった。


「そういや名前も聞いてなかったな……まぁいいや。肉も手に入ったし、戻るか!」


「くふふ。オークの料理が楽しみじゃのう!」


 瑞希とシャオは馬車に戻り、再びボルボを走らせるのであった――。

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