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親子喧嘩

 ――翌朝。


 ドマルとその母を連れて、瑞希達はウェンナー商会を訪れた。

 不安そうにするドマルの母親とは裏腹に、瑞希が見つけたテンの話を聞いたドマルは、微塵の不安も感じていない。


 ドマルは屋台街の事を含めて父親に正気に戻って貰う必要もあり、押さえつけてでもテンを口に放り込む覚悟を決めて、ウェンナー商会の扉を叩いた。


「父さん! 母さんも連れて来たから家族で話をしよう!」


 ドマルの声が響いた後に、静寂が生まれる。


「貴方! ドマルが立派になって帰って来たんですよ!?」


 次いで母親が父親に向けて言葉を放つ。

 中からは先日と同じく、ドタバタと物音が聞こえ始めた。


 勢い良く扉が開かれたと思えば、父親の手には採掘に使うであろうツルハシが手に握られていた。


「うるせぇってのが分からねぇのかこのガキっ!」


 恫喝する様に吠える父親の姿に、ドマルは怒りよりも哀れみを感じてしまう。


「父さん。父さんは今病気なんだよ。友達が薬になる植物を見つけてくれたから父さんに持って来たんだ」


「貴方……、そんな物騒な物をドマルに向けないで頂戴……」


 涙を流しながら懇願する母親の言葉も、父親にとっては煩わしいのか、ツルハシを振り回し母子を威嚇する。


「うるせぇ、うるせぇっ、うるせぇぇー! 行商人がドマルの振りしてんじゃねぇー!」


 ドマルは母親を庇う様に後ろに下がらせる。

 ドマルの顔も分からず、話すら通じない父親の姿に、母親はますます涙を流してしまう。


「そういえば父さんと親子喧嘩もした事なかったっけ。僕が出てった時もこっちが殴られただけだし、母さんを泣かせてるのは父さんなんだから僕にも怒る権利はあるよ」


 ドマルはそう言って父親に向かって走り出す。

 振り回されるツルハシを掻い潜ったドマルは、勢いのまま父親に体をぶつけると、父子揃って共倒れに転げる。


 心配しているのは父親と同じ様に催眠状態にあったチサだ。


「……ほんまに止めんでええの?」


 問いかけられた瑞希は、グッと拳を握りながら答える。


「チサの話を聞いたドマルに、こんな時じゃないと親父さんは心情を口にしてくれないだろうからって、頼まれたんだ。勿論大事になりそうなら止めるし、回復魔法もすぐ使うさ」


「くふふふ。ひ弱なドマルが殴り合いをしてまで伝えたい事があるんじゃろうから、わし等は見守ってやるのじゃ」


「私も親父とは良く喧嘩するんな」


 心配する瑞希達を他所に、当のドマルは必死の形相で父親の動きを止める。


「父さんは昔からそうだよね! 自分の意見が正しいって思い込んでそれを押し付けてさ! 何で行商人をするのが悪い事なのさ! 自分が良いと思った商品を喜んでくれる時のお客さんの顔を父さんは知らないだろ!?」


「手前ぇ等行商人は俺達生産者の足元ばかり見やがるだろうがっ! 俺達がどんな苦労をして手に入れ作っても、流行り廃りで値段を決めやがる!」


 父親はそう言ってドマルの顔を殴る。

 しかしドマルも負けじと殴り返した。


「そんなの当たり前だろ! 買う人が居ない商品を仕入れたい商人なんていないよ! それに本当に良い商品は廃れたりしないんだよ! 父さん達が作った商品が買いたたかれたのだって昔の話だろ!? それに生産者の人達だって僕等行商人を騙すのは日常茶飯事だろ!」


「そんなもん手前ぇ等の知識がねぇだけだろうが!」


「それを言うなら市場の価値を知らないのも悪いだろっ!」


 激化する言い合いとは裏腹に、ドマルの胸中では記憶の父親と目の前の父親を見比べていた。

 子供の頃に見上げていた背丈には追いつき、体力や力では絶対に敵わないと思っていた父親が、催眠状態でやつれていたとはいえ、自分と同様に息も絶え絶えで何とか体を起こしたからだ。


「父さんも老けたね……」


「行商人が知った風な口を聞くな」


「もう一度聞くけど、大人しく薬を飲んでくれないかな?」


「誰が手前ぇ等みてぇな悪徳行商人の言う事を聞くか。人の大事な息子を奪いやがって……!」


 父親の言葉にドマルの肩の力が抜ける。


「あはは。その息子が父さんと母さんにお願いをしたくて帰って来たんだけど、今は聞こえないか。父さん、目が覚めたらゆっくり話を聞いてくれるよね?」


 ドマルは微笑みながらそう呟くと、瑞希に目配せをする。

 瑞希はシャオと手を握り、静かに魔法を使用した――。


◇◇◇


「――成る程。ルイス様の言い分はわかりました」


 ロイグ商会の一室では、ロイグ商会で秘書をしている男が、目を通していた書類を束ねながら返事をする。


「僕達の扱う商品があれば余裕の勝負だろう? 売上の勝負なら負ける筈ないんだからさぁ?」


「確かに古参商会の扱う物をわざわざ買うのは、知識もない新人か一般の民衆達でしょうね」


「そうだろうそうだろう! 商人の街と言われるレンスではそんな細かな客よりも大量購入をする行商人に売りつける方が売上も上がる。そして賢い商人ならばロイグ商会の品物を無視できる訳ないからね。これで屋台街の利権が手に入ればお父さんも僕を見直すだろう」


 嬉しそうな表情で妄想を膨らませるロイスに、秘書の男が苦言を放つ。


「その大量購入される予定の商品は、ちゃんと売れる様な商品なのですか?」


「そ、そんなのはロイグ商会にいくらでもあるじゃないか! 魔石や鉱石ならどの行商人も欲しがるだろう?」


「代表を驚かせたいのであればその手段は……」


 秘書の男はそう言いながら苦笑する。


「ロイグ商会の威光があれば石ころだって魔石として買ってくだろ!?」


「そんな事をすれば代表は怒り狂うと思いますが?」


「だ、だったら今からでも調達すれば良いじゃないか? 魔石や鉱石が取れる鉱山なんかロイグ商会にもいくらでもあるだろう? それに僕が仕入れて来た商材も物珍しくはある!」


「まぁそれなら可能ですが、お抱えの冒険者を連れてくとしても費用はそれなりにかかりますよ?」


「これは売上勝負だからねぇ。費用がいくらかかろうとも屋台街の利権が手に入れば元は取れるだろう? だからたくさん取れる鉱山を教えなよキウリィ」


「今の時期に取れる鉱山だと……」


 ルイスにキウリィと呼ばれた男は地図を広げ、ロイグ商会の所有する鉱山を何カ所か指差していく。


「――この辺りですね。ですが、どの鉱山も公演に向けて鉱山夫や我が商会が掘った後なのでそれ程残ってはいませんよ?」


「どこか他にないのか!? お父さんの耳にまだ入ってない新たな採掘箇所が見つかった鉱山とか!」


「あるにはありますが……」


 キウリィはそう言って先程指していなかった鉱山を指差す。


「夢見の鉱山です。既に貴族に売り払いましたが入山するのは可能ですし、とある情報だと新たな道が見つかってダグート家が大喜びしてるそうです」


「そこは何か問題があった鉱山だろう?」


「そうですね。そこに入った冒険者や鉱山夫は悪夢にうなされるらしいです。元は魔物だけにその傾向が見られていたのですが、人間にも現れ始めたので我が商会は売り出しました。まぁそれまでに儲けましたし、変な魔石を欲しがる貴族や商人は多いですからね」


 ルイスは話を聞き、少しの間考え込む。


「……本当に今からでも手に入るんだね?」


「まぁ推奨はしませんが……」


 キウリィはルイスにそう言葉を返すのであった――。

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