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ドマルの発案

 ――瑞希の帰りを心待ちにしていたキアラは、宿に戻って来た三人の姿を見るや否や飛びついて歓迎した。

 チサはキアラに対しても平謝りするのだが、キアラは元のチサに戻った事が嬉しいのか抱きしめる事で喜びを表現した。


「……むぅぅ。苦しい」


「チサが寂しくならない様に姉として心配してるんな!」


「……心配かけてごめんな」


「良いんな! 人間、時には苛々する事もあるんな! それに女性はそういう時が時々来るってお母さんも言ってたんな」


「なんじゃそれは。それより何故こやつ迄ついて来ておるのじゃ?」


 シャオが指差すのは、ギルドで爆弾発言を投下したトット・パッセである。

 トットは瑞希達が泊まる部屋で我が物顔で鎮座していた。


「なははは! ミズキが歌姫を紹介してくれるまで俺っちは一緒にいるつもりだ!」


「騒がしい奴がまた増えたのじゃ……」


「あははは。初めまして。ミズキの友人でドマル・ウェンナーと言います」


 ドマルがそう言って苦笑しながら握手を求めると、大きな体躯のトットはがっちりとその手を掴み、力強く握った。


「やぁやぁやぁ! 古参商会の一つであるウェンナー商会の息子さんがわざわざすまねぇな!」


 トットが上機嫌に笑顔で応対をするが、ドマルの返答より先に声を上げたのはテスラだ。


「あんたどこの者だよ? あんたみたいなデカい図体をした奴に見覚えはないんだけどね?」


「なははは! まぁ俺っちはこっちの人間じゃないしな。それに歌姫を追っかけるために何年も前に家を出てからその日暮らしに生きてっから」


 トットはそう言って豪快に笑う。


「レンスの街に来て、鉱山夫をすれば稼げると思ったんだけど、当てが外れちまってな! 素寒貧な俺っちはこうやってミズキのお世話になりに来たんだよ」


「それじゃあ説明になってないだろ……」


 瑞希は溜め息を吐いてから言葉を続ける。


「トットがギルドマスターの前でロイグ商会を潰そうとか物騒な事を言いだしたんだよ。レンスの街にある古参商会がしっかりと肩を組めば追い出す事なんて簡単だって言ってな。商会の人間に知り合いは居ないかって聞かれたからドマルに紹介しようと思ったんだ」


「そうそう! ウェンナー商会なら昔っからレンスの街で商売をしてるし、そこの息子さんなら俺っちも昔顔を合わせた事あるからよ」


「えっと……。テス、知ってる?」


 ドマルは記憶に引っかからないのか、幼馴染のテスラにこそこそと確認する。


「知らないね。大体子供の頃に一緒に居た奴はロイグ商会のボンボンを囲う様になっちまったからね。私等に寄って来る奴なんか少なかったろ?」


「それはテスが皆に乱暴してたからじゃ……」


「あぁん!?」


 テスラは真っ当な意見をするドマルを睨みつける。

 その姿を見たトットはゲラゲラと笑い転げる。


「二人の関係も変わってねぇな~! 覚えてねぇか? 商会ギルドで何度か親に連れられて顔を合わせてるんだぜ?」


「商会ギルドで?」


「そうそう! ロイグ商会がまだ来る前だ。親父に連れられてさ! 二人が騒ぐから俺っちまで一緒に外に出されて一緒に遊んだろ?」


 ドマルとテスラは幼い頃の記憶を引っ張り出そうと唸り、先にドマルが思い出したのか、ハッとした表情を見せる。


「パーシバル商会……。いや、でも苗字が……」


「あぁ、そういやそんな事があったね。ひょろっちぃ女の子だろ? ドマルが花畑に連れてってその時私に……って、そんな事はどうでも良い! まさかパーシバル商会の女とか言うんじゃないだろうね?」


「なははは! テスラなんかガキの頃は男みたいだったのになっ!」


「うっそだろ……。何でこんなむさくるしい男になってんだよ! それに苗字が違うじゃねぇか!」


「まぁ俺っちは好きに生きたいからパーシバル商会を抜け出したんだ。今はさっきも言った様に色んな街でトット・パッセとして日銭を稼いで好きに生きてる。肉体労働をやってる内に筋肉も付いちまってな。なはははは!」


「二人共変わり過ぎだよ……」


 呆れるドマルにテスラが吠える。


「お前が変わらなさすぎだっ!」


「確かに。ドマルは子供の頃の印象そのままだよな」


 トットは腕を組んで、うんうんと頷く。


「旧友の再会を楽しんでる所悪いんだけど、トットが言ってたロイグ商会を潰すってのはどうするんだ?」


 会話に混ざって来たミズキの言葉にドマルは驚き、テスラ嬉々とした表情を浮かべる。


「何だい? そんな楽しそうな話をしてたのかい?」


「成り行きだけどな。テスラさんも知ってる様に、俺達は今日ロイグ商会が有してた夢見の鉱山に行ってきたんだけど、その鉱山にやっぱり問題があったんだ。それをギルドに報告したんだけど、そこでギルドマスターに相談をされて、トットがロイグ商会を潰そうって発言してな」


「まぁ潰すってのは言い過ぎたけど、力を減らせれば御の字だろ? ロイグ商会の黒い噂は俺も商人達から聞いてたし、ロイグ商会が受け持つ歌姫の公演に嫌な噂が立っちゃなんねぇ。むしろ清廉潔白な歌姫に傷を付けたら俺っちは絶対にロイグ商会に後悔させてやるけどな!」


「どんだけティーネの歌声が好きなんだよ……」


「語らせれば夜明けになるけど、語って良いか?」


 トットのその表情は、瑞希が故郷で働いていた時に某アイドルの追っかけをしていたスタッフの雰囲気を彷彿とさせた。

 限界オタク化させないためにも瑞希は話を変える。


「そうは言ってもロイグ商会とどうやって絡むんだよ? 一方的に襲撃しても只の犯罪だろ?」


「それなんだよな~……どうにかあいつ等を怒らせて、荒事になれば尻尾を掴めるかもしれないんだけどな」


 トットの呟きにテスラがニンマリと微笑む。


「それなら丁度良い! 屋台街の利権を賭けてロイグ商会のボンボンと勝負する事になってんだ!」


「おっ! 何だよその話! 俺っち達にも詳しく聞かせてくれ!」


 テスラは屋台街であった出来事を説明する。

 ドマルはその様子を溜め息を吐きながら見守っていた。


「――という訳だ! 今はギルカール楽団の公演で外部の人間も集まってるし、本当に良い物を扱ってるのはうち等だし、負ける訳ないだろ?」


 テスラは意気揚々とそう説明するが、ドマルとトット、そしてキアラまでもが難色を示す。


「こっちが何を売るかは知らないけど、目新しい物とかはあるのか?」


 トットがテスラに尋ねる。


「レンスの街だぞ? 魔石や鉱石の装飾品に決まってるだろ?」


「それだとロイグ商会が扱ってる物に劣るかもしれないね。なんせあっちは色んな鉱山を持ってるし、量もあるから安く売れるしね」


 ドマルが苦言を返す。


「私達が作ってる装飾品は質が良いんだぞ!? ロイグ商会の見てくれだけの物とは一目見れば違いが分かる!」


「一般の人が見ても分かる違いがあるんな? 私も昼間に出店を見てたけど、どこのお店でもぱっと見は良く出来てたんな」


「じゃ、じゃあ別に鉱石じゃなくても食材とか香辛料とかもあるだろ!? 衣類を扱ってる商会もあるし、嬢ちゃんだって色んな食材を買ってたじゃないか!?」


「これは勉強のためなんな。美味しく使える物なら帰りに買いだめするつもりはあるけど、わざわざ屋台で買うつもりはないんな」


 キアラがきっぱりと否定すると、ドマルが言葉を続ける。


「それにね、ロイグ商会が出してる物は他地方の流行も取り入れてるよ。これはロイグ商会がルイスや他の者に行商をさせて、新鮮な情報を仕入れてるからだろうね」


「だよなぁ……。ミズキは何か良い考えはないか?」


 トットに話を振られた瑞希は、微笑みながらイナホにブラシをかけていた。

 商人同士の勝負ならば自分に出る幕はないと思っての行動だが、気持ち良さそうに膝で転がるイナホは可愛らしく、瑞希にイナホを労って欲しいと頼んだ主人のチサも嬉しそうだ。

 唯一人、シャオだけは自分の場所を取られて唸りながらイナホを睨んでいるのだが。


「シャオは朝晩にちゃんとやってるだろ?」


「いつでもやって欲しいのじゃ! イナホばっかりずるいのじゃ!」


「……イナホはうちの為に頑張ってくれたからもうちょっとだけ」


「あふ~」


 ブラシを終えた瑞希は、イナホを抱き直し、膝に乗せてイナホの顔を優しく揉み撫でる。


「わははは! 気持ち良さそうだなイナホ?」


「あっふ~」


「ぐぬぬぬぬ……!」


 怒る妹を気にしない瑞希は、イナホの労いタイムを終えると、チサの頭にイナホを乗せる。

 満足そうなイナホの顔を見たチサは嬉しそうに抱きしめると、フードへ入る様に誘導した。


「ミズキだとブラッシングするだけでお金が取れそうだよね」


「それはあり得るんな~!」


「整髪店みたいなのか? でもまぁそんな事してたらシャオが怒りのままお客さんに飛び掛かりそうだからな。ほら、シャオ、頭を乗せな」


 唸るシャオに向け、瑞希が自身の膝をポンポンと叩くと、シャオは待ってましたと言わんばかりに膝枕をされる。

 瑞希は鞄から耳かきを取り出し、シャオの耳をカリカリと掻き始めた。

 気持ち良さそうに顔を蕩けさせるシャオを見たドマルは、苦笑しながら返事をする。


「シャオちゃんの顔を見てたら誰だって体験してみたくなるよ。チサちゃんもキアラちゃんも順番待ちしてるぐらい……そうか、体験ってのは良いかも!」


 自分達の順番を心待ちにするチサとキアラの表情を見たドマルは、思いついた事をテスラとトットに説明し始めるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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