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冒険者ギルドの苦難

 ――瑞希達が戻って来た頃にはとっぷりと日が暮れていた。


 瑞希達が冒険者ギルドに出向き、夢見の鉱山であった出来事を報告すると、職員達が大慌てで瑞希達を囲う。

 そして別室へと案内されると、レンスの冒険者ギルドを管理するギルドマスターがしどろもどろになりながら瑞希の言葉を聞いていた。


「――その反応ですと、前から夢見の鉱山ではそういう症状の人達が現れていたのを知っていたんですよね?」


「そ、それはそのぉ……なんと言いますか……はいぃ……」


 顔中から流れ出る汗をハンカチで拭きつつ、瑞希の言葉を弱弱しく肯定する。


「じゃあ俺っちの知り合いの冒険者が顔を出さねぇってのはどういう事でぃ!?」


「か、顔を出さないのは本当なんですっ! ただ私達も鉱山関連の依頼は……その、問題が起きますと……」


「ロイグ商会だからですか?」


 ピンときた瑞希がギルドマスターに問いかける。

 びくりと反応を見せるギルドマスターに対し、瑞希は続ける。


「あれ? でも、夢見の鉱山って今はこの辺の貴族が買ったんですよね? ならばすぐに閉鎖にでもすれば良いじゃないですか?」


「そ、そんな事をすればロイグ商会が貴族様に不当な鉱山を売った事になるではないですか!? それが私達のせいで分かったとあればロイグ商会に難癖を……」


「……へたれ」


「情けない奴なのじゃ」


 二人の少女は弱り切った初老の男性に無慈悲な言葉を投げかける。


「ロイグ商会ってレンスじゃそんなに権力があるのか?」


 瑞希はトットに質問をする。


「ロイグ商会は裏で貴族とも繋がってるらしいからな。それも魔法至上主義の貴族だ。あいつ等は平気で汚い事もするし、魔法を使えない奴にはそれを悪だとも思ってねぇ。ギルドを閉鎖に追い込むなんざ屁でもねぇよ」


 ギルドマスターはトットの言葉にコクコクと何度も頷く。

 瑞希は魔法至上主義という言葉を聞き、大きく溜め息を吐いた。


「まぁたそれか。ララスさんとバージに頑張って貰わないとな……」


「ラ、ララスとは、もしかして王家の御息女で在られるララス・グラフリー様ですか? 聖女の?」


 ギルドマスターは恐る恐る瑞希に尋ねた。


「そうですが……?」


「お、お知り合いなのですか!?」


「友人の婚約者ですし、本人とも顔見知りですけど……」


「なんと!? で、ではキリハラ様は王家と深い付き合いがあるのですか!?」


「いや、深くはないですよ? 一介の友人というだけで、私は貴族でも何でもありませんし」


「そ、それでも、貴族にお知り合いは居られるのですね!?」


 ギルドマスターに迫られる瑞希は、嫌そうな顔をしながら席へと押し返した。


「居たとしても私に貴方が期待している事は何も出来ませんよ? それに見分を広めるための只の旅行で面倒事に巻き込まれるのも嫌ですし」


「そう言わずにどうかお願いしますっ! せめて問題のある鉱山を閉じる事が出来るだけでも冒険者の被害は少なく出来るのです!」


 ギルドマスターは頭を地につけ、瑞希に願い倒す。


「そんな事されても無理ですって! それに私は仕事もありますので!」


「そのお手伝いをさせて頂きますから! 勿論御報告頂けたセイレーンの幻惑の対処方についてきっちりと報酬はお支払いさせて頂きます! だからどうかこのギルドを救って頂きたい!」


 ギルドマスターは顔を突っ伏したままそう叫ぶ。

 瑞希は大きく溜め息を吐いた。


「そもそも冒険者ギルドって他の街では重宝されていますよね? 何でこのレンスの街ではそんなに立場が弱いんですか?」


 ギルドマスターはゆっくりと体を起こし、説明を始めた。


「冒険者とは元来魔物討伐を生業として、金銭を稼ぎます……」


 その通りだろうと、瑞希は頷く。


「ですが、この辺りには害獣指定の魔物も少ないですし、売り物にならない様な魔物しか生息していません」


「そうなんですか? 夢見の鉱山では結構色んな魔物が出て来ましたよ?」


「その鉱山に入るためには、鉱山夫が持つ各商会で売りに出される通行証を手に入れる必要があり、鉱山夫としての知識も試されます。何も知らない者が鉱山を荒らさぬためにもです。そして冒険者が護衛として信用を得ようにも、新参者は護衛にすら付けません。キリハラ様への依頼の紹介にも鉱山夫の護衛はなかったでしょう?」


「……うん? でもトットみたいに初対面の冒険者を護衛に付ける人もいるでしょう?」


 瑞希の疑問にギルドマスターは首を振る。


「いえ、手慣れた鉱山夫と言えど、鉱石を掘るのにそれなりの時間を有します。その間見ず知らずの冒険者に命を委ねられますか? 冒険者は金を稼ぎたい者も多いので、近づいて来る魔物を待つより、護衛として鉱山に入れたなら大半の冒険者は狩りに行きたいという欲が出て来ます」


 トットは腕を組みながら何度も頷く。


「だからこそ、トット様の様に初対面の冒険者に護衛を頼む事なんか稀なんです。それも夢見の鉱山は鉱石や魔石が豊富であるが故に、魔物も強い個体が出て来る鉱山です」


 瑞希がジト目でトットに視線を送ると、トットは素知らぬ顔で口笛を吹く。


「お前なぁ……」


「いやいやいや! 鉱山に入りたがってたのはミズキもだろ!? 俺っちと利害が一致してたんだから、それは言いっこなしだぜ!」


「まぁそれもそうか……」


 瑞希が納得すると、ギルドマスターが言葉を続ける。


「なのでこの街の冒険者で鉱山内の魔物を苦にしない者は、商会に重宝されている者も多く、その商会に睨まれると護衛の仕事も激減してしまいます」


「それに冒険者をやってた奴の中には、冒険者を辞めて直接商会に雇われてる奴もいる。ロイグ商会はそうやって武力も補強してやがるらしいから質が悪ぃんだ」


 ギルドマスターはトットの言葉にコクコクと頷く。


「ロイグ商会も表立って事を荒立てる事は少ないのですが、もしも恨みを買って睨まれた場合、冒険者を大勢引き抜かれ、ギルドの運営がままならなくなります……。そうなれば有事の際、街を守る筈の冒険者が居ないこの街は壊滅状態になるでしょう。ロイグ商会を除いて、ですが」


 瑞希はキーリスや王都ディタルでの出来事を思い返す。

 戦火に焼かれる街の中、魔物の相手や救助を手伝っていた冒険者の姿を。


「冒険者とは昔からならず者の集まりでしたが、街にとっては必要な者達でした。英雄と呼ばれる者が現れる事も少なくなく、冒険者ギルドの印となっている様に、かつて竜を討伐した冒険者もいるぐらいです。ですので、我が街の冒険者が、冒険者らしくあるためにお力添えを頂きたい……」


「お力添えと言われても……。冒険者ギルドが鉱山を入手する事は出来ないんですか? そうすれば冒険者が自由に行き来できるんだし、冒険者も自由に仕事が選べるじゃないですか?」


「そうしたいのは山々なのですが、有力な鉱山は軒並み商会に抑えられてますし――」


 ギルドマスターが苦渋の表情を浮かべていると、トットが膝を叩き提案する。


「よし。じゃあロイグ商会を潰そう!」


 トットは軽々しくそう声を上げるのであった――。

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