ココナ村とサンドイッチ
瑞希達が出て行った後のココナ村ではそろそろ昼食の時間に差し掛かっていた。
八百屋の御婦人は朝の客が捌けると、瑞希に手渡されたサンドイッチを食べようと腰を下ろした。
「さぁて、じゃあ早速頂こうかねぇ! お嬢ちゃんが言ってた黄色いのはこれだね……」
両手で掴みガブっと噛り付くと、卵のふわふわした食感と、マヨネーズの濃厚な味が口に広がっていく。
「なんだいこりゃあ!?」
大きな声で驚いてはいるが、食べる手を止めない所を見ると気に入ったのだろう。
慌てて卵サンドを食べるものだから、パンを喉に詰まらせた様だ。
胸をドンドンと叩きながら水を飲み、詰まっていたパンは無事に喉を通過した。
「あのお兄ちゃんどれだけ料理が上手いのさ……卵のは大事に取っておいて、次はどっちを食べようかねぇ!」
目の前の御馳走に手を迷わせながらサンドイッチを楽しむのであった――。
◇◇◇
テミルはギルドに戻ると、仕事を再開し、ミミカ達との別れを噛み締めていた。
仕事が落ち着いた頃にはお昼を過ぎており、お腹もすいて来たのでミミカに渡されたサンドイッチの箱を開けた。
「美味しそうね……ミミカが作ったのはこれかしら?」
テミルはキャムとポムの実が入った野菜サンドを掴むとパクっと小さ目の口で噛り付く。
「野菜は新鮮で……ばたーとちーずも入っているのね……この濃厚な味は何かしら?」
この野菜サンドにもマヨネーズは使われている。
ミミカ達には説明をされてなかったので見当が付かなかったが、口の中でシャキシャキと音を立てるキャムと、じゅわっと酸味と甘みがでるポムの実にとても合っており、テミルは半分程迄食べると、ピタッと手を止めた。
「これを……ミミカが作ったのね……うぅっ……うぅぅ」
ぽたぽたと涙を流すテミルはミミカの事を思い出す。
記憶の中にいる小さなミミカ。
五年前に別れた時よりも背は伸びたのに、雰囲気が変わっていなかった今のミミカ。
様々な感情が溢れ出し、誰もいないギルドにテミルの泣き声が響いていく――。
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テミルは一頻り泣きじゃくると、ぐいっと涙を拭き、再び野菜サンドに口を付ける。
「……とっても美味しいわよ」
誰に聞こえるでもなくテミルは呟くのであった――。
◇◇◇
瑞希達が馬車を走らせ、宿を離れた後に、タバスは宿から離れた場所にあるカパ畑に来ていた。
自分が体調を崩した時に畑を任せてしまったから襲われてしまった。
あの時無理をしてでも自分が行っていれば……。
タバスは二カ月前から繰り返す自問自答をまた繰り返していた。
憎きゴブリンはもういない。
旅をしている若者が討伐をしたからだ。
それを聞いた時は嬉しかった。
若者も気の良い奴で、若者が作る料理は美味かった。
若者がいる時にあいつの料理も食べさせてみたかった。
タバスはそんな事を考えながら、荒らされてもいないカパを見終えると、宿に戻って行く。
宿に着くと、さっきまで賑やかだった一階の酒場は嘘の様に静けさを取り戻し、タバスは一つの椅子に腰をかけた。
「静かじゃな……」
タバスの伴侶がキーリスの街に治療に行ってから日を追う毎に客足は途絶え、この静けさにも慣れていたはずだったのだが……ゴブリンが居なくなった事もありタバスの心にはポカンと穴が開いたような寂しさが襲った。
「小僧が置いて行った弁当でも食うか……」
タバスはサンドイッチの蓋に手をかけ、蓋を開けようとした時に、ガチャリと店の扉が開く音がした。
「……ただいま」
老婦は一言だけタバスに声をかける。
「おぉ……おぉぉぉぉ!」
タバスは老婦に駆け寄ると思わず抱きしめた。
「怪我は!? もう良くなったのか!?」
「それがね……」
老婦は村の入り口の事をタバスに説明すると、タバスは両手で顔を覆い膝を突き泣き始めた。
「小僧! お前はどこまでっ……!」
老婦はそんなタバスをぎゅっと抱きしめると、タバスは身を起こし、老婦の手を握りテーブルへと引っ張り歩いていく。
「小僧が作った料理があるんじゃ! 一緒に食べよう! あいつの料理は美味いからな! きっとお前も気に入るはずだ!」
「あら、楽しみだわ!」
年老いた夫婦は仲良く瑞希達が作ったサンドイッチを食べる。
瑞希達が居なくなったココナ村。
ココナ村の一部の住人が食べた料理。
今まで味わった事の無い珍しい料理。
それはまるで魔法にかけられた様に幸せな気持ちが残るのであった――。
これにて第一章は完結です。
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