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元凶の後始末

「――シャオっ!」


 瑞希がそう叫びながら勢いよく半身を起こす。


「何じゃ急に! 起きたのじゃったら手伝って欲しいのじゃ!」


 シャオは瑞希やチサ達を守る様に魔法を使っていたのだろう。

 瑞希が周りを見ると、魔物の死体と地面に這いつくばるチサとトットの姿が視界に入る。


「……あいつを倒すんや」


「返せ……俺の歌姫を返せぇ……」


 状況を把握した瑞希は焦った様子で訊ねた。


「悪い! どれぐらい眠ってた!?」


「ほんの数分なのじゃ! セイレーンもそこで死んでおるが、こやつらのまやかしはまだ解けておらんのじゃ」


 瑞希は湖に浮かぶセイレーンを黙視するが、記憶通りに剣で斬られた傷口が見受けられた。


「セイレーンの催眠を解く方法ってないのか?」


「魔物達は解けておるのじゃから、魔力と時間でどうにかなるはずなのじゃが……。生憎魔力が枯渇しておる馬鹿弟子と、魔法が使えん者じゃからな。その内解けるはずなのじゃが、拘束を解けば襲ってきおるのじゃ」


「あの湖にいる魔物って元から操られてなくなかったか? 周りにも死体はないし」


「大方水の中で歌声が聞こえんかったんじゃろう。それよりこやつ等を縄で縛って欲しいのじゃ。魔法で押さえつけるのも面倒なのじゃ」


「わかった。ちょっと待ってろ」


 瑞希はそう言って、トットの荷物から縄を取り出し、二人が身動きできない様に縛り上げて行く。

 チサは瑞希の事が分かっていないのか、ボロボロと涙を流しながら憎まれ口を叩く。


「……魔法が使えたら絶対に負けへん!」


「五月蠅いのじゃ。ショウレイに拒否されておる時点で魔力すら扱えておらんのじゃ」


「俺が死んだら化けてでも恨みを返しに行くから覚えとけ!」


「トットに恨まれる事なんかして……なくもないか。シャオ、とりあえず二人に回復魔法をかけてみよう」


 瑞希はそう言ってシャオと手を握り、二人に回復魔法をかける。

 しかし、見た目の傷は治った様だが、瑞希とシャオに向けての罵詈雑言は止まなかった。


「駄目だな。連れて帰るにもこの状態だと難しいし……」


「放っておけば良いのじゃ。それよりミズキ、セイレーンは回収せんのじゃ?」


「あぁ、蛇の部分はさておき、鳥の部分は食ってみたいよな。シャオは食った事あるか?」


「あるのじゃ! 中々美味い肉じゃったのじゃ!」


「じゃあとりあえず二人が我に返るまで料理でもして様子を見るか。イナホ、チサとトットの様子を見といてくれるか?」


「あふっ!」

 

 瑞希がチサの側に居たイナホの頭を撫でると、イナホは元気よく返事をしてから、チサの流す涙を拭く様に顔を舐め回す。


「くふふふ! 瑞希の調理でセイレーンとは楽しみなのじゃ!」


 シャオはスキップをする様に、水面に浮かぶセイレーンを魔法を使って回収する。

 岸に上げると下半身の蛇の部分に。甲羅から剣山の様に針の生えた亀型の魔物が突き刺さっていた。


「おいおい……。この魔物って」


「ニードルタートルじゃな。肉は臭くて食えんがな」


「やっぱりそうだよな。迂闊に湖に入らなくて良かった」


「それじゃったらわしに感謝するのじゃ! 湖に落ちる前にわしが魔法でミズキを助けたのじゃ!」


「はいはい。いつもお世話になってます」


 瑞希はそう言って、いつもの様にシャオの頭を撫でる。

 ふと視線をニードルタートルに向けると、セイレーンに突き刺さっている魔物達は、揃って何かを口に咥えていた。


「何だこれ? 何かの木片か?」


 瑞希は噛まれない様に気を付けながら、ニードルタートルの咥えている物を回収する。


「シャオ、これって食えるのか?」


「お主はまた変な物に興味を持ちよって……。それならばそこら辺に生えておるのじゃ」


 シャオは湖の畔を指差す。

 瑞希は興味の向くままに、その植物に向けて歩を進める。


「ミズキっ! セイレーンはどうするのじゃ!?」


「いつもの要領で捌いといてくれ! モモ肉はないだろうから、肉厚な胸肉だけでも回収してくれ!」


「上手く出来るかわからんのじゃぞ!?」


「シャオなら出来るって! 任せたっ!」


 瑞希はそう言って湖の畔にある植物に近付いて行く。

 澄んだ水はどこから湧いているのか、疑問に思いつつも、水面から見えるニードルタートルに気を付けながら瑞希は植物を引き抜いて行く。


「おっ、抜けたな」


 瑞希は棒状の根をしげしげと眺め、湖の水で洗ってから力を込めて半分に折ってみた。

 中は綺麗なピンクを色をしており、瑞希の記憶の中には似た様な野菜が出てこない。

 ハズレかと少し肩を落とした瑞希が、端っこを齧った時に記憶にある苦みを感じた。


「マジか!? あぁ、まぁ確かに綺麗な水だもんな……。湖で出来るとか、本当に異世界の植物はわからん」


「ミズキ! これで良いのじゃ!?」


 瑞希は喜びつつ独り言ちていると、切り出した肉を両手で持ち上げながらシャオが確認する。

 瑞希は何本か目当ての食材を引き抜き、シャオの元へと戻る。


「おぉ~上出来じゃないか! シャオは本当に器用だよな」


「ミズキが斬り付けた部位は、切り分ける時に割れちゃったのじゃ」


「こればかりは仕様がないな。首を落とすとか、槍みたいなので心臓を一突きにすれば綺麗に切り取れただろうけど、そこまで余裕もなかったし。ベテラン冒険者に見られたら笑われるかもな」


「セイレーンの姿はベヒモスと比べ小さくとも、格は同格じゃぞ? セイレーンを狩れる人間を笑う奴の方が笑えるのじゃ」


 シャオはそう言ってふんと鼻を鳴らす。


「魔物や人間を使役する様な奴だから凄いとは思ってたけど……。あ、じゃあやっぱりこの肉も滅茶苦茶美味いかもしれないな! ベヒモスがあんなに美味かったんだからさ!」


「あふっ! あふっ!」


 ベヒモスと聞いて上機嫌になっていた瑞希の耳に、イナホの鳴き声が届く。

 チサの前には自身が生み出した筈のショウレイ、即ち水で出来た金魚が今もまたチサに対し攻撃をしようとしていた。


「待て待て待て!」


 瑞希は慌ててチサと金魚の前に立ち、ショウレイの前に手を突き出す。

 金魚はくるりくるりとその場で泳ぐと、チサへの矛先を治める様に、瑞希の手に触れる。


「本当にショウレイって召喚魔法みたいに意思があるみたいだよな」


「アリベルとシャルルの魔力が似てる様に、魔力は遺伝するものじゃからな。ショウレイとは使用者を守りたいと思う誰かの魔力かもしれんの」


「守りたいって……こいつはチサに攻撃しようとしたぞ?」


「今はチサがセイレーンの魔力にかどわかされておるからの。チサが後悔する様な事に加担したくないのじゃろう」


「親心みたいなもんか? チサ、まだ俺達の事がわからないか?」


 瑞希はそう言って優しくチサに問いかける。


「……おかんとおとんが……ミズキ……やのに……おかんとおとんを……」


「駄目なのじゃ。少しは解けて来た様じゃが、まだ混濁しておるのじゃ」


「トットの方も全然駄目だな。なんか泣きながら変な歌を口ずさんでるし……」


「~~♪」


 違和感を感じているのかぶつぶつと何かを呟くチサと、泣きながら懇願する様に歌うトット。

 それぞれの口ぶりからするに、魔物が何か好きな者に見えていたのだろう。


「チサ、チサ、魔力薬だけでも口にしとけ」


 瑞希が差し出す瓶が、チサにとってどう見えているのか、それとも只々魔力薬が飲みたくないのか、チサは懸命に口を塞ぎ拒否の意思を見せる。


「駄目か……」


「ちょこれーとならどうじゃ? 船の上で持っておると言ってたじゃろ?」


「それだ! 食後のおやつに持って来たんだけど……。ほら、チサ、口を開けろ。約束してたチョコレートを使った新作のお菓子だぞ?」


「……ちょこ?」


「くふふふ。現金な奴なのじゃ」


 チョコレートに反応を示すチサを見て、シャオは思わず笑いだす。


「そう。チョコだよ。チョコレートを溶かして、チサの大好きなペムイで作った牛皮で包んだんだ。チサが和菓子を食べたいって言ってたから、チサが喜ぶかと思って作ったんだぞ?」


「……どうせシャオの為やろ」


「あほ。お前が好きな物はシャオも大概好きなんだよ。逆にシャオが好きな物だってチサも好きだろ? お前達二人共が喜ぶ物を作ったんだよ。良いから口に入れてみろ。チョコレートで枯渇も少しは楽になる筈だから」


 瑞希は鞄からムルの葉を取り出し、包まれていた球状の白い牛皮をチサの口に押し込む。

 チサがもむもむと口を動かすと、中に包まれていたチョコレートがとろりと口の中に溢れ出す。


「何じゃこれは!? 何故ちょこれーとなのに固まっておらんのじゃ?」


「蟻蜜を入れて硬さを調整してるんだよ。勿論あるならモーム乳とか生クリームの方が簡単だけどな」


「……もっと」


 チサは口を開け、瑞希に牛皮包みを催促する。


「はいよ。少し回復したら残りは後でな。弁当もあるし、今から新しい食材を試すから、腹空かせとけ」


「……むぅぅぅ」


 チサの感情は魔力が回復すると共に徐々に戻ってきている様だ。

 ふくれっ面を見せるが、瑞希の言葉は聞き入れた。


「こっちの奴はどうするのじゃ?」


 シャオはトットに視線を促し、質問をする。


「そうそう。トットには試してみたい食材があるんだよ」


 瑞希はニヤッと笑いながら、セイレーンの調理をし始めた――。

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