冒険者組の仕事
――ドマル達が食材探しと市場調査をしている裏で、瑞希達三人は冒険者ギルドに顔を出していた。
テオリス家からの婚約者役や、王都での納豆作成、そしてララスの食事改善等を行っていた瑞希は、各所からの礼として相応の金銭を渡されている。
その事も在り、金銭的にはギルド依頼をこなす必要もないのだが、シャオが依頼を遊び感覚で楽しんでいるのと同時に、チサの冒険者としてのスキルを伸ばすためにも、依頼を受けないという選択肢はなかった。
とはいえ、王都からキーリスに戻って来た時には、子連れの英雄として有名になり過ぎたため、依頼を受けるのを断念していたので、チサの依頼を受ける事も出来ず、おまけに遊びを奪われたシャオのストレスが積もっていたのだ。
レンスの街にある冒険者ギルドの受付で、見た目も幼いチサが鋼鉄級のギルドプレートを出した時に、ギルド職員や、周りの冒険者から少し注目を浴びる事となった。
しかし、さすがに遠く離れたレンスの街では瑞希の二つ名や、その姿を知る者は居らず、瑞希は淡々とギルドの説明を受けていた。
――となりますので、ここでの依頼は街付近の魔物討伐の他に、護衛依頼が多くなっております。
ギルドの受付嬢が説明を終えると、瑞希はテスラから聞いた噂話を質問する。
「あれ? 鉱山は入っちゃ駄目なんですか? 鉱山に出る魔物とか魔石採取とか儲かりそうなのに」
――鉱山に入れるのは各商会から通行証を買った鉱山夫だけなんですよ。
「じゃあその鉱山夫さんからの護衛依頼とかは? 知人からレンスでは鉱山夫さんの護衛が一番儲かるって聞いたもので」
受付嬢はちらりと瑞希の表情を確かめる。
瑞希はそれを察してか言葉を続ける。
「いや~、遠路遥々レンスに来たんですけど、この街って楽しむには結構かかるじゃないですか? そしたらこの妹が冒険者らしく稼げって煩いんですよ」
瑞希はそんな軽口を叩きながらシャオを抱き上げ受付嬢に紹介していると、
――おい兄ちゃん! 護衛してくれんのか!?
瑞希の背後から大きな声で呼びかけられた。
瑞希はシャオを下ろし、呼びかけられた方向に振り向くと、ドマルの父親の様にごつい体躯をした瑞希と同年代ぐらいの男性の姿がそこにはあった。
「俺っちは今から夢見の鉱山に行こうと思っててよ!」
「夢見の鉱山?」
「良い魔石が取れるって噂の鉱山なんだが、出て来る魔物が強いらしくてな。やっとこさ通行証を手に入れた俺っちとしてもさっさと掘りに行きてぇんだが、命あっての金稼ぎだろ? なのに今はそこに行ける冒険者を貸し出しちゃくれねぇと来てやがる。なぁ姉ちゃん!」
男が受付嬢を恫喝する様に声を荒げると、受付嬢は思わずたじろいだ。
「俺っちと一緒に別の鉱山に潜った事のある奴はまだ戻ってねえのかよ!? このギルドで何日も顔を見れねぇとかおかしいだろ!?」
――そ、そう言われましても私は何も……。
「まぁまぁまぁ、落ち着いて。その夢見の鉱山ってそんなに儲かるんですか?」
瑞希は男の前に立ちはだかり、ニコニコと接客の時の様な笑顔を向けて宥める。
男は瑞希の質問に対し、質問で答えた。
「悪ぃ悪ぃ! そういやおめぇさん何級冒険者だ?」
「俺ですか? 一応銀級冒険者ですが」
「おっ! じゃあ獲物は何を使ってる?」
「それなりに切れ味の良い普通の剣ですけど?」
「槌とか重てぇ武器は……使えそうにねぇやな」
男はじろじろと瑞希の体つきを眺めながらそう告げる。
「使えなきゃまずいですか?」
「この辺の鉱山にゃ、固ぇ魔物も出るからな。夢見の鉱山の魔物は一際強ぇらしいし、得物が剣だと途中で折れちまわねぇかと思ってな」
「あぁ、それなら御心配なく。地元の街でもこの剣でそれなりに固い魔物と対峙してきましたから」
「銀級冒険者となりゃ腕っぷしは最低限あるだろうし……、ここまで聞いといてあれなんだが、報酬は後払いでも良いかい? その代わり報酬は弾むからよ! ギルドへの依頼を出したら俺っち素寒貧なんだよ! 頼むっ! 誓約書はギルドを通してきっちり書くからっ!」
男はごつい体躯の前で手を合わせ、瑞希に頭を下げる。
瑞希は少し考えてから、返事をする。
「その夢見の鉱山ってどこの商会の持ち物ですか?」
「ん? あぁ、ちょっと前まではロイグ商会の持ち物だったんだけどよ、最近貴族のダグード家が買ったんだよ。おかげで歴の浅い俺っちでもこうして通行証を手に入れる事ができたってわけだ!」
男はそう言って通行証であるプレートを瑞希に見せる。
「こう言っちゃなんだが、鉱山での事故はその鉱山の持ち主にも責任追及がされっからな、そこんとこをあんまり理解してねぇ貴族様は、通行証を売り捌いて稼いでるって訳よ」
男は大笑いしながらプレートを団扇代わりに自身を扇ぐ。
瑞希はドマルから聞いていたロイグ商会が手放した鉱山という事で、件の鉱山だと当たりを付けると、男の前に手を差し出した。
「俺はミズキ・キリハラと言います。この子は妹のシャオ、こっちの子は――「……チサ。ミズキの嫁」」
瑞希の紹介の声を遮り、チサがそう宣言する。
チサの言葉にギルド内に戦慄が走り、瑞希に対し奇異なる視線が集まる。
「あほな事を――「昨日から一々鬱陶しいのじゃが、お主、もしやわしに喧嘩でも売っておるのじゃ?」」
次はシャオが瑞希の言葉を遮り、二人の間には昨日と同様の空気が生まれる。
それを聞いた目の前の男が瑞希にこそこそと話しかけた。
「兄ちゃん……こんな小さな子に手を出してんのか? まぁ趣味は人それぞれだけどよ……」
その一言に瑞希が溜め息を吐き、シャオとチサに拳骨を落とした。
「あほな喧嘩すんなっ!」
「わしは悪くないのじゃっ! チサが一々鼻に付く様な事を言うのが悪いのじゃっ!」
「……痛い」
二人は同じ様な仕草で頭をさすりつつ、涙目で瑞希に訴えかける。
「泣きたいのは俺の方だよ……。何が悲しくて初めて来た街で変態呼ばわりされなきゃならねぇんだよ」
「……すぐ大きなるから待ってて」
「あほ。そんな事を待たなくても、お前が変な発言を我慢すれば良い話だろ」
瑞希はしゃがみ、チサの頬を引っ張りながら叱る。
「くふふふ。良い気味じゃ」
痛がるチサの姿を見ながらクスクスと笑うシャオの頬にも、瑞希は手を伸ばす。
「ひひゃいのひゃっ! わひは悪ふないのひゃっ!」
「人が怒られてるのを見て笑うんじゃありません」
「兄ちゃん、本当に護衛を頼んで大丈夫なんだよな? 仕事の間、嬢ちゃん達を放っておいて喧嘩にならねぇか?」
二人を叱り終えた瑞希は立ち上がり、先程の続きと言わんばかりに男に握手を求めた。
男は思わず手を掴み、握手を交わすと、瑞希が口を開く。
「安心して下さい。この子は俺とシャオの弟子で鋼鉄級冒険者です。二人共勿論護衛に連れて行きますので」
「うっそだろ……?」
男はぎょっとした顔でチサに視線を移す。
当のチサは抓られた頬に手を当てながら、泣きそうになっていた。
「あ、そうそう、貴方の御名前を伺っても宜しいですか?」
「あ、あぁ。俺っちはトット・パッセってんだ。鉱山夫になってからまだ日が浅いが、仕事はそれなりに出来ると自負してる」
トットはそう言いながら瑞希の手を力強く握った。
「トットさん、出発はいつにしますか?」
「トットで良いって! ミズキ達が良いなら今から行こうぜ! そんなに深くは潜る気もねぇし、早くしなきゃ遅れちまうからな!」
トットはそう言って瑞希達を急かすのであった――。
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